4、大人の葛藤①
東の廃れた村へと時折やって来ていたラズラ商会のナールと言う人が、いきなりの提案をして来た時には驚いた。
正直言ってこの村はもう終わりだと思っていた。畑をやるにも人手もなく土壌も悪く何より村人には生気がない。
それまではギリギリでも何とかやっていけたのに、何故こうなったのか•••
原因は分かっている。いや、分かっていた。
この村にはラズラ商会の他にもう1つの商会が時折訪れていた。
帽子を目深に被り決して正面から顔を見せないようにした、猫背で痩せたその男は見るからに怪しげだと思っていたが、男の持ってくる商品はここに居ては手に入らないお酒や蜂蜜、チョコ菓子などの高級品。
普通に考えれば手の届かない物だと分かるのに、1つ買ってしまうと歯止めが効かなくなったかのように、次もその次もと手が伸びてしまう。
気づいた時にはまだ幼い子供や年寄りが働き手となり大人は昼からお酒に溺れるという怠惰な生活になっていた。
そのうち子供を疎ましく思う自分に愕然とした。
ふと気づくと元々痩せていたが、今ではもっと痩せこけた子供達の姿が目に飛び込んできた。
このままでは、自分が我が子を殺してしまうかもしれない••••
そんな恐怖から南と東の境になる山近くへと子供達を連れ、置いて来た。
そこを選んだのは本当に無意識だった。
その後働き手の少なくなった村では、あの怪しげな男が訪れる事もなくなった。
そして残ったのは、荒れた田畑に働き方を忘れた生気のない大人達。
日が経つ毎に、貧しくとも頑張って来られたのはどうしてだったのかを考えるようになった時、思い浮かぶのは子の姿。
あの頃は疲弊していても子供達の姿を見て、会話をして、触れ合って、それが乏しい中での小さな幸せだった。
それが今はもう居ない。いや、正しくは自分達が捨てた••••
子供達が居なくなった事で漸く自分を取り戻せたが時遅く•••自責の念に駆られながらも、生きる為に荒れた田畑を耕し芋等比較的どんな土壌でも作れる物を何とか作っていった。
そんな自分達を図々しと思いながら••••
そんな時にナールなる人物が来たのだ。
「こんなになって漸く正気になったのは、何故なのでしょう?」
その言葉に誰もが何も言えなかった。
お酒が飲めなくなったから?
贅沢が出来なくなったから?
お金がないから?
違う。小さな幸せがなくなったからだ。
「そのまま後悔して自分達の境遇を哀れんでいても良いですが、本気で立て直そうと思うのなら手助けをしたいと思ってます。
色々な仕事を体験し、勉強する研修と言うものがあるのですが、やってみませんか?」
私達の事を分かりもしないで何を!と怒りが沸いたが、彼は侮蔑したような目ではなく真剣な目で私達に向き合っていた。
何度も話し合って、捨ててしまった子に報いる為にもやり直そう、と結論付けた。
そして来年の春に行くと教えてもらった時に衝撃の事実を聞かされた。
「貴方達のお子様だった子は、今も元気に生きています。
養父母に大切に育てられて、年相応の体型にもなってきています。貴方達が行く予定の村で。」
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