3、図鑑と告白
驚愕のお医者さんブラック事情を知ってから2日後に、宿泊所で過ごしていた私たちの元へナールさんが来て、数十枚の紙と筆記用具を貸してくれた。
「これくらいあれば足りるかな?
取り敢えずその"ずかん"なる物を作ってみてもらえるかな?」
ナールさんの目は真剣そのもの。
これは責任重大だ。
私の画力は通じるだろうか•••!
「ライ、取り敢えず分かりやすい物からやっていこうか。」
「うん!僕が薬草持ってくるからお父さんは絵を描いてね!」
何て心配をしていたが、現在ライは一家総出で図鑑作成に取り掛かっている。
あの時覚悟をした私の横でライはあっさりと
「それじゃ、お父さんに描いてもらう!
お父さん凄いんだよ!本物みたいに描けるんだから!!」
父親自慢をしながらそれらを持って家へと走って行ってしまったのだ。
何という事だ。私の覚悟の置き所ぐぁ!
そして、一緒に走っていけず置いてきぼりとなった私は•••
「すごいね!もう少しだよ!!
ルンちゃん大分歩けるようになったね!」
ダル兄とジル兄に挟まれ、ひたすら歩く練習の真っ最中である。
2人の手を握りプルプルしながらの歩行•••
エスコートされた淑女のようではないか。
永遠着かない舞踏会へと向かうその道のりは、ただただ疲れるだけであった。
どうしても気になりダル兄に抱っこでライの家へと連れて来てもらった。
足の踏み場がないとはこの事か、と思いながら見つめていると
「ルン見て!まだ乾いてないのもあるけど、この山で取れる薬草は全部書けたと思う!」
それは正しく、図鑑だった。
薬草の絵も特徴を捉えて描いてあるし、そこに添えてある文字も読めない文もあるが綺麗な文字で書かれていた。
「すごいねー!これなら、これをさんこーにして びょーきにたいおうする くすりをちょうごうできるかもだよ!!」
素晴らしいできに興奮し、この世界では使っていない言葉を言ってしまうも、興奮した私は気づかなかった。
この世界の薬は、薬草や木の実などを煎じたり擦り下ろして使う。複数の素材を掛け合わせて作る、所謂"調合"する事がなかったのだ。
先の病でも熱冷ましの作用がある葉と症状を落ち着かせる作用のある実は、どちらも王都熱に有効との事で単体もしくは両方を別々に服用していた。
ライ宅より帰る道すがらダル兄より思いもよらない言葉が降ってきた。
「ルンちゃん、"ちょうごう"って何かな?それに"ずかん"も。
•••••ねぇルンちゃん、そろそろ1人で秘密を抱えないで僕らに話してみない??」
ダル兄のこの言葉で、一気に血の気が引いた。
頭が真っ白で逃げ道を探すも、そもそもダル兄の腕の中。
そして、そこから抜け出したとて素早く歩けない。
ダル兄に抱っこで家へと連行された。あーれー•••
そして只今8つの目が突き刺さる中、非常に居た堪れず小さい体をもっと縮めていた。
「ルン、どうしたんだ?ダルから集まるよう言われたが、さっぱりだ。」
どうやらダル兄は集めただけで、概要は話していなかったらしい。
逃げられるチャンスではないか!?
「父さん、ルンちゃんがずっと隠しているだろう事は知っておくべきだよ。」
どうやら逃す気がないらしい。
どう説明したものか色々考えたが、どう言っても頭の可笑しな子になってしまう。
自分自身が1番、未知の事柄を知っている事が可笑しく恐ろしいと理解しているだけに、言葉が見つからないのだ。
何よりそんな私を、大好きな家族に否定されたらどうしたら良いんだろう。
もし家族に"私"を見てもらえなくなったらと考えるだけで、恐ろしくなる•••
考えれば考えるほど、悪い方向に考えてしまい自然と涙が出てしまっていた。
「ルンちゃん、困らせてごめんね。
でもずっと隠し事をしているだろうルンちゃんも辛いんじゃないかと思うと•••
それに分かっていてもらいたいんだ。僕らは家族であって、1番の理解者なんだって。」
ダル兄の言葉も表情も、軽蔑したものではなく心底思って言っているのだと分かる。
もしかしなくても、ダル兄は気づいていたのかもしれない。私の秘密を。
その表情に勇気をもらった気がした。
「•••ひぐ、わたし•••きおく、ひぐ、ある。えぐ、ここじゃない、ひぐっ、せかいの••ひぐ
だまってて、ひぐっえぐっ、ごめんなさい•••きらい、ならないで、ひっぐ おねがい、ひぐ、します...」
恐ろしくて家族の顔を見れずに、下を向いていた私の頭を優しく撫でながら父が
「ありがとう、ルン。怖かっただろう?
何かあるとは思っていたが、そうか。
それでもルンはルンで、俺たちの家族に変わりないんだよ?
お父さんとお母さんの下に産まれてくれて、一緒に成長してきた可愛い我が子をどうして嫌いになる?前を向くんだ。」
恐る恐る前を向くと、皆んなが皆んないつもと変わらぬ笑顔を見せてくれていた。
「ダルもジルもルンちゃんも、みーんなお母さんが命をかけて産んだ大切な子よ?
全てを敵にしても、嫌うはずないじゃない。
そんな秘密を抱えて、ルンちゃん辛かったわよね••気づいてあげれなくて、ごめんね。」
そう言って抱きしめてくれた腕の中で、声を上げ泣いて泣いて、そして寝た。
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