第6脱 全裸上京
(つ、強い……)
彼女は宙を舞いながら強敵、パイチンチーに驚いていた。
脱がせようとしたら技を返され、逆に服を着せられてしまう。それもブラジャーとパンティーの両方を。
彼女の胸と股は太陽でも仕込まれたのかと思うほど熱い。布のせいで体温が閉じ込められ、開放感を失っているのだ。
(このままじゃ……また……)
重力に引かれ落ちる彼女。このままでは落ちた瞬間にまた服を着せられてしまうだろう。
どうにかして体勢を整えなければ……思案を巡らす彼女。しかし次の瞬間、視界が強く揺れて砂が舞う。
何が起きたか分からなかったが、上半身全体が訴える息苦しさで着衣させられた事は理解出来た。
「かはっ……!」
シャツを着せられ砂浜に堕ちる彼女。その横にパイチンチーが近づいてくる。
「私はパイチンチー」
「おっぱい……ちんちん……!?」
「パイ! チンチー! よ! ……菌に侵されたあなたは突然変異を起こし、力を得た。でもそれもここまでよ。あなたのような人間が現れることを見越し私が開発したこの『着衣拳』で服を着せれば、菌の効力は大幅に弱まるわ」
ご丁寧に説明をしながら、今度はズボンを取り出すチンチー。あんなもの着せられたら……。
恐怖にかられる彼女は全身の暑さに汗を流し、喘ぎながらチンチーに手を伸ばす。
だが、弱々しい手の動きは軽々と見切られてしまい手首を掴まれた。
「あっ! ……はっ、はあっ! あああっ! は、離して……」
「離せと言われて離すバカはいないわ。さあ、これを着ればあなたは普通に戻れる。そして我が軍は再び進み、この国を平定するの。とっとと服の素晴らしさを思い出しなさい!」
「い……やぁっ!」
首を弱々しく振るが、チンチーは止まらない。着衣拳最後の大技を繰り出そうとしていた。
「着衣! 這合全服武装!」
締めとなるスーツが覆いかぶさってくる。強烈な熱が彼女を包み込み……。
刹那、彼女が光に包まれチンチーは目を逸らした。
「何!?」
一瞬見えた、光の中から飛び出す影。その軌道はチンチーの後ろへと伸びていた。
咄嗟に振り返るチンチー。だが遅い。目の前にいたのは葉っぱ三枚だけになった彼女。
「すっぽん!」
「バカな! なぜ裸になれた!」
咄嗟の反撃に対応するチンチー。彼女の手を払い身を守る。
だが彼女の攻撃は一度や二度では収まらない。目に見えぬほどの速度で、雷のような激しさで技が繰り出される。
「服が必ず全身を覆わなきゃいけないなんて誰が決めたの!? 局部だけの服も存在する! 私は、もう服を『着ている』! だからこれ以上は『着なくていい』!」
「この短時間でそんなとんちを! 大人しくしていればいいものを……お、押されるっ!?」
「これで終わり……はあああっ!」
「待て! やめろ!」
チンチーが来ているのはチャイナ服一枚のみ。その方が緊張感が出ると言ってわざわざギリギリの格好で出撃したのが裏目に出てしまう。
「すっぽん! 君も自由にいっチャイナ!」
「ぐあああああーーーー!」
連撃が決まり、チンチーが空を飛ぶ。彼女は勝ち取ったチャイナ服を砂浜に捨て、汗の滴る身体を揺らし喜んだ。
「ぶいっ!」
今更だが究極に意味の分からない戦闘である。
「くそおっ!」
海軍士官はまたしても負けた自分の軍を見て、こぶしを握りしめた。
そして遂に、決断を下す。
「撤退! 撤退だ! 一度布陣を整える!」
これ以上の損害を恐れた士官の命令によって上陸部隊は敗退。かくして中国軍の武力占領は防がれる。
しかし、東京では日本の安倍総理と中国の習首席が会談の準備に入っていた。
海へと逃げていく艦隊を見て、清々しい笑顔を見せる彼女。
だがチンチーの言葉を思い出し、焦る。
(そっ、そういえばおっぱいちんちんって人が言ってたけど、これ戦争じゃない!? た、大変な事になっちゃった……誰に知らせれば……そうだ! 首相って人に知らせるのが一番いいよね!)
オロオロと砂浜を右往左往していたが、決まれば早いもので東京があると思しき方向へ全力ダッシュする。
日本海沿岸から東京へ。頑張れ彼女。道を塞ぐ機動隊も戦車も脱がせ、新幹線を抜いて突っ走っていけ。




