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1年A組は転移しました  作者: 焼芋屋
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第一話 吉田大吉は異世界に行きたい

僕らの通う柏南学園は地元ではそこそこの進学校として知られていた。

高等部の一年A組は地元の数ある中学校から生徒が集まってできたクラスだった。

入学式から1週間もたつとはじめにあった緊張は溶け始め、クラスは徐々に馴染み始めていた。


その日も誰も遅刻することなく朝の朝礼前にはクラスのみんなが揃っていた。

部活は何に入る?とか、数学の教師は怒らせるとヤバいらしい、とか皆がそんな話をしていた時だった。


突然教室の床が白く光りだすと次の瞬間には僕らは光に包まれて意識を失った。


遠のいていく意識の中で隣の席の吉田が

「クラス転移だ!ひゃっほい~」と叫ぶ声だけが聞こえた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…てください。起きてください人の子らよ。」


無機質な声で目を覚ます。

そこは真っ白い空間であった。

周りにはちょうど起き上がるA組のみんながいた。

声のする方を向くと背の高い女性が立っている。


その女性は白い法衣を纏い、長い金髪を腰まで流している。

所々に勾玉などの装飾をつけているのがわかる。

顔には閉じたままの目や鼻といったパーツが均等に並んでおり、美人だがどこか人間らしさが感じられない。


彼女は口も開けずに声だけがどこからか聞こえる。


「人の子らよ。私は魔法世界クリストネの神ファルデウスです。」


目の前の存在はどうやら自称神らしい。


「自称ではありません。神です。」


…ヤベぇ聞こえてた、心の中が読めるのタイプの神かコイツ。


「はい心の中が読めるタイプの神ファルデウスです。」


言葉に感情が感じられないのがより怖い。


「あなた達三十人は私の世界に召喚されました。私の世界では魔王が人類に宣戦布告をしました。これから魔族と人類の戦争が始まるでしょう。あなた達は人類側の切り札として召喚されることになりました。あなた達は与えられた能力で世界を救ってください。」


どうやら僕らはなかなか物騒な世界にクラス転移するらしい。

クラスメイトの反応はまちまちだった。

戸惑っていている奴が多く居る中で考え事をしている奴や中には喜んでいる奴までいた。

うちの学園は男子校である、クラス転移だと察した奴も少なくはないだろう。


「能力ってなんですか?」


クラスメイトの誰かが質問する。


「転移するあなた方には一人一つずつ能力が与えられています。能力はあなた達の魂に依存したものになります。どれも強力であなたたちを助けてくれるでしょう。転移後に確認をしてください。それと質問は手を挙げてから行ってください。」


「はい先生、どうやったら元の世界に帰ることが出来ますか?」


委員長が手をしっかり挙げて質問した。


「…先生ではありません、ファルデウスです。世界を救ったと判断した後に帰ることが出来るようになります。帰るか帰らないかの選択はあなたたちの自由です。」


「かあさん、オイラ達が召喚されるところはどこですか?」


「…私はあなたのお母さんではありません。ファルデウスです。あなたたちが召喚されるのは魔族領に一番面してる国、ユルンガ王国です。たった今王宮にて召喚の儀が行われております。しばらくしたらそこに転移するでしょう。」


話からするといくつかの国があるらしい。

クラス転移というと王様が悪者だったりするのが多かった気がする。

召喚されると首輪を付けられ無理やり働かされるなんてことになったら大変だ。

良い国であることを願おう。


「おいさっきから吉田がいないんだが知らないか?」


僕にそう聞いてきたのは委員長の松だ。

仕事ができ先生たちの信頼も高く頼れる委員長である。

そんな彼は情に厚い一面も持ち合わせており生徒からの人気も大変に高い。

このまま行けば生徒会長になることは間違いがないだろうと言われている。


松と僕、それから吉田は三人とも柏南学園中等部からの進学、いわゆる内部生と呼ばれる生徒だ。

そこにあと三人を加えた六人が中等部でよくつるむ仲間だった。

部活や係はそれぞれ違っていたが何故か気が合い、昼休みや放課後の暇な時間をよく一緒に過ごしていた。

そのため高等部に進学した後も運良く六人とも同じクラスになることができたときは嬉しかった。


「そう言われるとおかしいな。異世界転移なんて吉田が一番喜んで騒ぎそうな状況だしな。嬉しすぎて気絶でもしているのか。」


周りを見渡すも吉田は見当たらない。

吉田大吉は僕らと同じく柏南学園の中等部からの内進生である。


吉田を一言で表すなら中二病だ。

奴の数学のノートには魔法陣が並んでいるし、歴史の教科書の偉人の写真には全員もれなく眼帯が描かれている。

俺らに異世界ものの小説を布教したのも奴だった。

そんな吉田だが数学においては全国でトップクラスの成績を誇っており『数学の吉田』と呼ばれている。


いないものはしょうがない、分かってそうな神様とやらに聞くのが手っ取り早いだろうと思いしぶしぶ手を挙げた。


「吉田がいません。」


「…神様とやらではありません、正真正銘神様です。あれ、おかしいですね。魔法陣は確かに三十人分の魔力を感知したのですが、二十九人しかいませんね。」


どうやら神様も気づいてなかったようだ。


「確認しましょうか、ゴッドアイモニター!」


(技名ダサっ!)

急に痛々しい技の名前を叫んだ神様の目がカアッっと開くとそこから光が地面に照射される。

光の当たった地面にはテレビのような映像が映し出されており不思議と音が聞こえるようだ。

どうやら映像は転移前の教室を映したものらしく、朝礼前の吉田と僕の姿が映っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー転移10分前教室にてーー


「だーかーらークラス転移がいっちばんジャンルとして面白いんだって」


朝礼前の空き時間にやたら声の大きい吉田と僕は話していた。


「ああ、この前薦められたクラス転移の小説か。僕も途中まで読んだぞ。いじめられて捨てられた覚醒した主人公が、いじめてた奴のピンチに現れて助けたのは驚いたな。」


「だろ!やっぱりクラスにいろんな奴がいてそいつらがそれぞれの自由に動くから面白いんだよな。ちなみにそのいじめっ子は後々主人公庇って死ぬからな。」


しれっとネタバレを挟むあたり吉田クオリティだ。

そこからは延々と吉田はクラス転移の良さについて力説している。

吉田は本当にファンタジーが好きなのだろう。

聞いていてなんだかこっちまで楽しくなってくるから不思議だ。


やがて朝礼の時間になるとチャイムが鳴るがまだ先生はこない。

転移の時は気づかなかったが床に白い光で魔法陣がうっすら浮かんでいるのが分かる。


どうやら吉田はそれに気づいたらしく息を荒くしてガッツポーズをとっている。

魔法陣の光はだんだんと強くなっていき、やがて光が教室を包み込むほど強くなると山田は飛び跳ねて叫んだ。


「クラス転移だ!ひゃっほい~」


次の瞬間光とともにA組の生徒が消え去った。

教室には人のいない机と椅子、それから手を掲げた状態の笑顔の吉田だけが残った。


映像の中の吉田は固まっている。

瞬きはしているので映像が止まったわけでは無さそうだ。

映像を見るみんなの目はどこか悲しげだ。


「あー、これは術者安全圏ですね。」


そんな中神様は納得したように言った。


「術者安全圏?」


「はい、通常魔法陣とは術者を中心にして広げるの物なのです。集団を転移させる際に術者が転移したくない時もあるので、術者のいる魔法陣の中心には転移の影響を受けない領域があります。それが術者安全圏です。」


どうやら吉田はその安全圏にいたため転移出来れなかったらしい。


「じゃあ吉田はこっちには…。」


「残念ながら……。面白いので続きを見てみましょう。」


映像に視線を戻すと固まった笑顔の吉田は腕を掲げたまま何かをつぶやいている。


「……アレ?……オレ……テンイ…?……アレ……ココ……イセカイ……?」


何故かカタコトな吉田の目からは光が失われていた。


「……ミンナ……ドコ……?……ミンナ……オレ……オイテカナイデ……。」


その声はだんだん弱くなっていく。

正直見てられない。


すると教室のドアが開きA組の担任教師が入ってきた。


「いやぁ、すまんすまん!B組の先生との話が盛り上がってつい時間を忘れてしまったわ、ガハハハハ!」


相変わらずうちの担任は笑い声が大きい。

吉田に動きはない。


「なんだぁ、来てるのは吉田だけか?まぁ春だしこんなあったかいと寝坊もしょうがないな!ガハハハハ!」


しかし吉田に動きはない。


「しょうがない出席をとるぞ、吉田座れ。……おい吉田?……あれ、息してない?…救急車ぁー!!!」


やがて吉田は担架で運ばれて行った。


その映像をクラスメイトの皆はなんとも言えない顔で見ていた。


映像には誰もいない机と椅子だけが残った。

クラス転移だとたくさんキャラが出てきて名前覚えるの大変ですね、吉田は覚えなくて大丈夫です笑

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