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7、『襲来』

数時間後、水分をたっぷりと含んだ暗雲は俺達の頭上に差し掛かっていた。

今、基地では整備士はもちろん、俺達パイロットまで総動員した大童(おおわらわ)での機材撤収作業が進められている。

水濡れ厳禁の機械とかが結構あるからな。


「おーい、誰かそっち側を持ってくれー」

「はいよ。了解」

「ハンガーに入れとく奴はこれで最後なのか?」

「いや、あそこの山もそうだ」

「「「うへぇ~~」」」

「いい加減そこの荷物運べよ! このウスノロ!」

「んだとコラ! こいつを人力で運ぶのは無理だつってんだろ! ウィークにやらせろ、オタンコナス!」

あちこちで整備士達の怒声、罵声、その他諸々が響く中、作業自体は急ピッチで進められていく。

濡れても構わない物、例えば武装や機体の外装なんかはブルーシートで覆う。

逆に通常機材とか内部部品とかの濡れるとマズイ物は建物内に入れる。今やってるのはそういう作業だ。


「よいせっと……」

運んできた箱を床に下ろして一息つく。

「あと十二個……だったか?」

ドスン、と隣に俺のよりも一回り大きい荷物を下ろし、ローランドが呟いた。

「あぁそうだ、残り四往復…………ックショー、クラウドのやつが居りゃあな」

今喋っていたのはチャールズ。俺の同室メンバー最後の一人でローランドと同年代の男だ。


今運んできた分を倉庫の保管係に渡して、俺達は残りの荷物を取りに戻る。

その最中、人として出来ているローランドはグチグチと文句を言うチャールズを窘めようとする。

「そう言うな、チャールズ。あっちはあっちでおやっさんに()き使われてんだ」

「そうは言っても俺達はパイロットだぜ? 肉体労働かウィークでの労働のどっちが良いかって言ったら後の方が良いに決まってんだろ」

「「言えてる」」

意見の合致に思わず顔を見合わせて笑う。

基本的にパイロットになる奴はウィークが好きな連中だ。

この二人だけじゃなく、パイロット全員にこの質問をしたら皆同じ事を言うんじゃないか?……多分。


「ところでさ、ちょっとヤバくね?」

唐突にチャールズが上を指差して言う。

ローランドと俺は揃って上を向く。

そこには今にも降り出しそうな黒い入道雲が空を覆い尽くしていた。

「…………なぁ、ローランド……」

「……何だ?」

「…………おやっさんってさ、あの性格からして土砂降りでも関係なしだよな……?」

「…………そうだな……」

その言葉を最後に、三人ともしばらく喋らなくなった。


十秒ぐらい思考停止の後、ローランドが走り出す。

「……よし急ぐぞ! 降り出す前に全部片付けちまおう」

「おいおい、時間そんなに余裕無いぞ!? いけるのか!?」

「いや、いけるかどうかじゃなくて、やるしかないんだよ!」

チャールズの発言に突っ込みつつ、俺も慌てて二人を追いかけた。



結論から言うと俺達はギリギリ間に合った。

けれど全体では八割方までしか作業は完了しなかった。


ポツリ、ポツリ、と雨が降り始める。

次第にその勢いは増し、ポツポツと小さかった雨音もやがてはザァァーと降りしきる音へと変わった。


「結局、作業は継続かよ! ……俺達が急いだ分の苦労を返せよ、まったく……」

ブルーシートを引きずるレインコート姿のチャールズが不満を漏らす。

「仕方ないだろ、全体が終わってないんだから……」

お陰で俺達はこうやって休むことなく作業を続けている訳だ。あぁ、ちなみにローランドは重量物の運搬で別の場所に呼ばれて行った。

――力あるのってアイツぐらいだからなぁ……体鍛えてるし……


同じくシートを担いだ俺もチャールズの後を追いかける。目的地に移動中、ふと視界の隅で何やら見覚えのある姿が近づいて来るのが見えた。

『よぉーっす。雨の中頑張ってんなぁ……』

この土砂降りの中を悠々と歩いてきた巨人は挑発するように言った。

怒ったチャールズが叫ぶ。

「一人だけ安全地帯に居やがって……俺と交代しろよ!」

『嫌に決まってんだろ! 何でわざわざ外に出なきゃなんねーんだよ』

ギャアギャア騒ぐ二人。

そろそろ見慣れつつあるいつもの光景だ。

最初はローランドと共に止めようとしていたが、無駄に疲れるし放っておけば勝手に終息することもあって最近ではもっぱら放置一択だ。


ただ今回ばかりは、止めてやろうかと思わなくもない。

――警告ぐらいはしといてやるか……

「おーい、お前らー。いい加減にしとけよー」

「――んだとコノヤロー!」『あぁ!? やんのか!?』

――……うん、ダメだ。聞こえてないな……

俺はあの二人を救うことを諦めた。

「……あーー、どうぞやっちゃってくださーい」

背後から近づいて来つつある人物にそう声をかける。


その人物は俺の隣まで来ると、すぅと大きく息を吸い込み一喝。

「まずは仕事をやれって何度言わせる気だタコ共がぁ!! 遊んでねーで、さっさとやれ!」

「『は、はいぃぃぃ!!!!』」

――…………う~ん、一体何度目だろうな。この光景……

途端にシュピンと背を伸ばして、クラウドもチャールズも慌てて走り去る。すたこら逃げて行く馬鹿二人を見ておやっさんは呟いた。

「…………ったく、アイツら本当に脳ミソ入ってんのか?」

それは俺も今まで何度思ったことか。

何回怒鳴られても懲りずに同じことを繰り返す。

ハッキリ言って学習能力が無いんじゃないかと思えてくる。

酷い言い様だが、それ以外に表現が無いのだから仕方ない。

というかそもそもの話…………


そこで俺は思考を中断し、ふと空の一点を見上げた。

「ん? ……どうかしたか?」

隣から訝しげな声が届く。

「いや……今何かあそこに見えた気が…………」

そう言って俺は空を指差した。

おやっさんは背後を振り返り、俺が示した地点に目を凝らす。しばらく目を皿のようにして曇天を眺めていたおやっさんだったが、やがて諦めたのか首を振った。

「…………何も見えんぞ。気のせいだろ」

――おかしいな、確かに何かが光ってたはずなんだが……

得体の知れない気持ち悪さを感じつつも気のせいかだと自分を無理やり納得づけて顔を下げる。しかし、またしても何かがチカリと瞬いた。

「……はぁ~、またか。……一体何なん――」

――ズッドォォオオオオオン‼‼‼‼


 突然の鼓膜を揺るがすような轟音と強烈な爆風。

油断していた俺は思いっきり吹き飛ばされる。しばしの滞空の後、勢いで五回ぐらい地面を転がってからようやく止まった。

「……な……にが…………」

あちこちがズキズキ痛む体をなんとか起こして俺は周辺確認をする。


空を見上げていた俺の背後……つまり広場側は見るも無惨な有り様だった。

地面は(くぼ)み、ブルーシートで覆われていた機材の残骸があちこちに散らばっている。

そんな惨状の中に居た人達がどうなったかは……言うまでも無いだろう。無論クラウドとチャールズも……。

「くっそ……」

せめてドッグタグぐらいは見つけてやりたかったがこの状況だ。それは落ち着いてからゆっくりやるとしよう。

――……落ち着くためにも、まずは敵を倒さないと……

そこで俺は、さっきのチラチラ見えていた光は敵機の反射光だったのかと気づいた。

敵の情報を得るべく正面の広場から後ろの上空へと視線を移した。


今更ながら基地の警報が鳴り出す。

『……緊急警報! 緊急警報! 敵襲! 敵襲! 各員、速やかに戦闘配置について下さい。繰り返します……』

だが俺の耳にそのアナウンスは届かなかった。

何故ならば……上空からゆっくり高度を下げてくるのはたった一機のウィーク。けれどもそいつはただのウィークでは無かった。

ベーシックな人型フォルムに赤とオレンジのカラーリング、手には巨大な火炎放射機。


俺の持つウィーク知識の中で、そんな特徴が合致する機体はただ一つしかない。

ソルテイオス帝国、竜牙機士団、序列第十位。『業火の魔人』の異名を持つ唯一(ユニーク)機体。

「……イフリート…………」

まさか名前に反応した訳では無いだろうが、ヤツが少し身動ぎした。

機械であるウィークに表情など存在しない。おそらく塗装と錯覚の問題だろう。

けれども俺にはどうしてもその動きがニンマリと笑みを浮かべるそれに思えて仕方なかった。

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