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4、『説教』

 どうせてめぇらの事だ。脳ミソに何にも入れてねぇんだろ? と前置きしておやっさんは説明を始めた。律儀にホワイトボードとペンまで用意している。

「そもそもの話、全ての根幹セルエネルギーとは何か、つったらセルから抽出できるエネルギーの事だ。……そんでセルは地中掘ったら出てくる結晶だ。こいつの何が画期的かってつーと、エネルギーに直接変換できるってとこだな」

おやっさんはペンを指揮棒の様に振り回して、基本中の基本の説明を垂れ流す。


「昔は燃料を燃やしてタービンやらエンジンやらを動かしてた訳だ。だが……このセルって物質にはそれが必要ねぇ。液体にする必要はあるが、それさえやれば変換回路って奴で直接電気とか熱なんかに変えれるんだよ。そいつがジェネレータだ。」

ジェネレータの根幹たる変換回路、その仕組みを知っている者は誰も居ない。

唯一それを知っているのはジェネレータを開発した今は亡き天才科学者だけだ。

幸いにもその科学者は設計図を秘匿していなかったが、さっきも言った通り仕組みは理解不能。だからこれの修理方法だったり製造に関しては、整備士も理屈抜きで丸暗記して覚えるしかない。


 おやっさんはホワイトボードに図を描く。中央のセルの絵から二つの絵に矢印が延びているものだ。

「でだ……そういう特徴があるせいで、こいつは昔の戦車やら戦闘機やらに搭載するにはちとオーバーパワーすぎた。だから二種類のアプローチが考案された。一つが普遍性と操作性を追求したウェポノイドセル、もう一つが特化型巨大兵器のフォートレスだ」

ウェポノイドセル……通称ウィークは、小型を維持したまま有り余る出力を使うために高性能化、かつそれを柔軟に動かすために人が乗り込んで操作、そしてウィークのスペックを最大限活用できるように生身と同じような感覚で操れる人型になったものだ。

対してフォートレスは、ジェネレータの出力に合わせる形で大型化し、それに見合う大火力を備え付けた要塞だ。また、小型であるウィークは容易にパーツ換装ができるが、巨大なフォートレスは頻繁なパーツ換装が難しい。そのため、フォートレスは一つの環境に特化して要塞のように佇む傾向にある。


「フォートレスはテメェらにゃ関係ねぇから忘れろ」

そう言っておやっさんは、フォートレスの方の絵を消した。

「で、こっからがようやくウィークの話だ。さっきアイツが言った通り、ウィークは内装と外装の二つからできてる。内装の基本はジェネレータとバッテリー、情報処理用のCPU。外装は頭、胴、手、足の四つだ」

ーー……そういえばCPUの存在も忘れてたな……


 おやっさんはウィークの絵の隣に、更に詳細なそれを描き始めた。

「まず中心にコックピット、そんでその下に内装一式、これが胴体部分を占める。上にカメラがあってこいつが頭部。手足と残りの部分は大抵が駆動構造の部品が来る」

完成したのは、ウィークの内部構造だけを映した絵だ。

おやっさん、見た目の割にはなかなかどうして絵心がある。


「だがコイツらだけだとバラバラになっちまう。そこで出てくるのが一次装甲(プライマルフレーム)って訳だ。こいつは人で言う骨だ。ウィークの構造を支えてちょっとした衝撃から内部を守る。……この上に被さるのが二次装甲(セカンダリアーマー)、要は脂肪だな。機体によってまちまちだが主に外からの衝撃軽減の役目だ。……そして三次装甲(ターシャリスキン)、こいつが一般的に外装と呼ばれる部分で皮膚にあたる部分だ。最後に四次装甲(クォータリヘア)、ウィークが搭載するシールドなんかが該当する部分だ」

ホワイトボードのウィーク内装が四重の枠で囲まれている。

四次装甲は該当する装備の正式名称が長いため、単純にシールドや略称で呼ばれることがほとんどだ。

例えば物質拡散障壁マテリアルディフュージョンシールド(MDS)は、装備本体がセルに直結しており、磁力式の変換回路によって磁力を発生し金属製の弾丸を逸らす仕組みだ。


「んじゃ、次は伝達系についてだ。こいつは……」



「……っと、まぁ基本はこんぐれーか。こんだけやりゃあ困ることはねぇだろ」

おやっさんによる緊急授業はみっちり三十分続いた。正座とやらを免れた連中はともかく、クラウド達は口をパカッと開いて魂でも出てるかのような真っ白に燃え尽きた状態だ。

俺達、正座回避組が苦笑いをしながらその哀れな姿を見ていると、白いツナギを着た若い整備士がこちらに歩いて来るのが視界に入った。

「主任、そろそろ予定の時間です」

時計を見れば、一四時(ヒトヨン)〇〇分(マルマル)。確かに丁度良い頃合いだ。

「おう、そうか。……おい馬鹿共! 俺ぁ準備して来っから、それまでに起きてろよ!」

後ちゃんと緊急整備マニュアルは読み込んどけよ、と言い残し、おやっさんは呼びに来た整備士を伴って立ち並ぶウィークの元へ行った。


 去ってゆくおやっさんを見送り、ローランドはもたれていた壁から背を離した。

「さて、あいつらを何とかしてやるか……」

ローランドの視線の先には、糸が切れたかのように崩れ落ち、そして呻き声をあげて悶え苦しむ連中の姿があった。

――う~ん、どうしたもんか…………足押さえてるし、とりあえず状態確認するか……

そう思った俺はクラウドに近づき、試しに足を軽く叩いてみた。

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