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3、『ハンガー』


「おいヴァレン、そろそろだぞ」

野太い声、おそらくローランドの物だろう。

ローランドは俺の同室メンバーの一人で、俺より少し年上のマジメな傑物、成績も優秀な奴だ。

年齢が近いのはクラウドだけじゃなかったのか?という話だが、どうやらあの時に動いていた装甲車は俺達の乗っていた一台だけじゃなかったらしく、俺達とは逆の方向からも同じように運ばれてきていたようだ。


「んーー……集合場所はハンガーだったか?」

確か今日は俺達が乗ることになるウェポノイドセル……通称ウィークの慣らし運転が予定されていた。

だからウィークを待機させておくハンガーに集合で良いはずだ。

「そうだ……………………はぁ、初日から遅れるなよ」

一向に身を起こす気配のない俺に、ローランドは少し呆れた声で忠告すると、自分はさっさと部屋を出ていったようだ。

バタンとドアが閉められる音がした。


「あぁぁ~~~~…………行くか……」

なかなか行く気がしないが、今は前とは違って軍属だ。サボったらどうなるか分からない。

体を起こして顔からずり落ちた雑誌を放り投げる。

ゴロゴロし過ぎて若干強ばり気味の筋肉をほぐしながら、俺は床に飛び降りた。


 乱れた服装をある程度適当に治して、時間を確認。3時26分、いや……○三時(マルサン)二六分(フタロク)。集合が○四時(マルヨン)○○分(マルマル)だから、まだそこそこの時間はある。

まったくもって微妙な時間だ。もう一眠りするには短く、かといってただ待機するには絶妙に長い。

「しょうがねぇ、ハンガーで待つか」

初っぱなから遅刻して説教は正直勘弁だ。30分ぐらい待つことになるが、ローランドも居るだろうし世間話で十分時間潰しは出来るだろう。

そうと決まればとっとと動いた方が良い。俺は部屋を出てハンガーに移動し始める。

ーーところで……クラウドの奴は一体どこに居るんだ? 全然姿を見てないんだが…… 



 数階分の階段を降りて兵舎から出る。

建物の外は結構寒い。ここの立地が山の中だからだろう。

前線という訳でも無く、前線基地への補給線という訳でも無い。本当にこの基地は何の目的で作られたのか謎だ。

吐く息が白い靄になって横を流れていく。

服の上からでも肌を刺すような冷気に、流石に上着を着るべきだったかと後悔しながらも俺はハンガーを目指して歩く。


 兵舎から少し歩けばハンガーがある。俺は外の寒さから逃げるように扉を開けてハンガー内に入る。

入ってきた人用の扉を閉めれば寒さもだいぶんマシになった。ほうと一息をつく。

ハンガーは一言で言えば広い。まぁ、身長十メートルの巨人達が羽を休める場所だからそれも当然か。

ズラリと並んだウィークの前では整備士達が声を掛け合い、金属音を鳴らし、機械の作動音を響かせながら忙しなく動き続けている。

辺りを見渡せば、その中の一角になにやら人が集まっている。おそらく俺と同じくハンガーに集合しに来た連中だ。


 おもむろに近づけば、ローランドが俺に気づいた。

「こっちだヴァレン、早くこい」

「なんだ? 何かあるのか?」

集まっていたのは二十数人ぐらいで、ローランドと他数名を除く全員が足を曲げてその上に座らされていた。座っている集団の中にはクラウドも居た。

ーーえっと……なんだこれ? どういう状況だ?


 俺が目の前の状況に困惑していると、ローランドが誰かを呼ぶ。 

「おーい、おやっさん、もう一人だ!」

設置されている機械の陰から整備士の格好をした、東洋系の中年男性が顔を出した。そして俺の姿を見留めるとニタリと笑った。

「ようし……お前さんに問題だ。ウェポノイドセルの構成パーツには何があるか答えろ」

「は!? こ、構成パーツ?…………え~と、外装がヘッド、ボディ、アーム、レッグ……内装でジェネレータとバッテリーとシールド装置……あとは各種兵装……ぐらいか?」

突然の事に驚いたが、とりあえず記憶にある物を答えておく。

ーーあ、スラスター忘れてた…………いやでも、あれは外装の一部か……


「ほうら見ろ、言える奴も居るだろうが」

「おいヴァレン! テメェ後で恨んでやる!」

おやっさんが自慢げに言い、クラウドが何故か俺に文句を言ってきた。

ーー……理不尽だ。

未だに状況が分からずに俺が困惑していると、ローランドが補足を行った。

「コイツらはさっきのみたいな質問に答えられなかったバカ共だ。で、立ってるのは一応は答えられた奴だ。それでもってクラウドはお前のと同じ質問だったが、難し過ぎると難癖つけてだな……もし誰も答えれなかったら解放されてたんだ」

どうやら俺が答えさえしなければ助かっていたらしい。クラウドが恨みがましい目で俺を睨んでくる。

ーー……ん?……ってことは、要はそれただの逆恨みじゃねーか。


「さて、バカ共は全員集まったな。これからお前らバカにみっちり基礎知識を叩き込んでやる。覚悟しろよぉ」

驚いた事に俺が最後の一人だったらしい。そんなに遅く来たつもりは無かったのだが……

「おいちょっと待て! なんだこの体勢! めちゃくちゃ足が痺れるんだよ! この状況で悠長に話なんぞ聞けるか!」

「あぁん? 正座だ、正座。俺の祖国じゃ叱られる奴はその体勢なんだよ! 何か文句あっか!?」

おやっさんは目尻を吊り上げて睨み付ける。ガラの悪いおやっさんがやるとかなりの迫力がある。正直俺までビクッとなる。


「いいかマヌケどもぉ! パイロットだろうが何だろうが基礎知識を舐めちゃイケねぇ! 簡易修理にしろ、故障場所の調整にしろ、知識が有るか無いかじゃ大違いなんだよ、こんのボケ共がぁ!」

おやっさんは熱弁を振るってポンコツ共を叱り飛ばす。

ーー……いや、叱り飛ばすっていうか、ただの罵倒だな……

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