2、『配属』
到着するまで時間もある。しばらく寝ておこうと俺は激しく上下に振動する中で椅子に深く座り直して目を瞑った。
その矢先に隣から声が掛けられた。
「なぁ、お前も訓練所から来た口か?」
俺が閉じかけた目を開けて声の方向を横目で見れば茶髪の軽薄そうな若い男がこっちを見ていた。
まぁ若いと言っても俺と同じぐらいだが。
見た感じ年齢が近い、という事もあり俺は肩をすくめて冗談めかして肯定する。
「ま、俺はホントはメカニックのはずだったんだけどな……」
「へっ、自力で機体の修理出来るなら良いじゃねぇか。……ここじゃ訓練所卒は俺らだけだ。仲良くしようぜ」
俺の言葉に、隣の男はニヘラッとした笑いを見せると手を差し出してきた。
「あぁよろしくな……俺はヴァレン……ヴァレンタイン・ブラッドフォードだ。年は18だ」
「おう、同い年だな。……クラウド・ヴェンダーだ。よろしく」
俺は隣の男……クラウドと互いに自己紹介をすると狭い車内で固く握手を交わした。
――なんとなくだが、こいつとは結構気が合いそうな気がするな……
「ところでよ、ヴァレン……お前は俺らの配属先がどこかとか聞いてないか?」
「……う~ん確か国境周辺って言ってたような…………」
「ぐぁ~~、マジかよ~。このご時世で国境勤務とか命がいくつあっても足りねぇよぉ~」
クラウドは天を仰ぐと呻く様に言う。
確かにあちこちで武力衝突が起きている現状、国境近くに居ればいつ戦争に巻き込まれるか分からない。
ましてやこの国は小国なのだから尚更だ。
「それによ、辺境じゃ可愛い子も居ないだろうしさ~」
唐突な話題転換に俺はつい半目になってしまった。
ついさっきまで命がどうこう言ってたはずなのだが……
「可愛い子って……お前は一体軍を何だと思ってんだ……」
「おいおい、そんな呆れた顔すんなよ…………可愛い子が居れば嬉しいのは誰だって一緒だろ?」
「はぁ…………まぁ否定はしないけどよ」
俺はやれやれと肩をすくめて溜息をつく。
けれどクラウドの言う通り、一緒に居るならムキムキの暑苦しい筋肉マッチョよりも、可憐な少女や美人な女性の方が良いに決まっている。
「それでよ~……」
どうやらクラウドには配属先への愚痴が大量に有るようだ。愚痴とはいえ、この長い道路の暇潰しにはなるだろう。俺は寝るのを諦めてクラウドの相手をすることにした。
◆
「おーい、到着だ。全員降りろ」
前の方から……おそらく運転手の……目的地への到着を告げる声が聞こえてきた。
「あ~~やっとか……全身強ばっちまったよ」
どうやらクラウドと随分話し込んでいたようで、気づかない内に目的地に到着していた。
クラウドはほぐす様に体を動かす。
それに倣って俺も背中を伸ばしてみればコキコキと音が鳴る。結構固まっている。
そうこうしていると扉近くに詰まっていた連中が降り、狭い通り道が空いたので俺も降りる。
途端にひんやりとした寒さが押し寄せる。思わず体が少しぶるりと震えた。
「……寒いな……」
「ホントだな……」
振り返ればクラウドが出口から出てきている所だった。
クラウドは勤務先の基地を見上げて呟く。
「ここかぁ~……なんか思ったよりもデカイな」
見ればかなり大きい建物がずらりと並んでいる。
一際目を引く中央の建物の上では、青地に白い星の模様が入ったこの国……レファールの国旗が風に煽られてはためいている。
「全員集まれ! 今からこの場所に関する説明を行う!」
装甲車に同乗していた軍人が声を張り上げた。
お説教は御免な俺達は姿勢を正してそちらを向く。
「これより、ここがお前達の所属先となる。国境から離れた場所だからと言って気を抜くなよ!」
「おい、国境近くじゃなかったのか!?」
小声のクラウドが肘で小突いてきた。器用にも口だけを僅かに動かして腹話術のように喋っている。
「……俺は教官が何かゴニョゴニョ言ってたのを聞いただけだ!」
装甲車で運ばれる前、訓練所で廊下を歩いていると、偶然ドアが僅かに開いており、中からブラッドフォードはどうのこうの、国境にどうこう、などの話が聞こえてきたのだ。
てっきり配属先の話をしているのかと思ったのだが……
「ーー今行う説明は以上だ。全員、連絡があるまでしばらく部屋で待機!」
ひとしきり説明を終えた軍人が踵を返して去っていくと、同僚達はバラバラと散らばり始め、兵舎目指して動き始めた。
「俺らも行こうぜ。置いてかれちまう」
俺の肩を叩いてクラウドが言った。曇天の空を見上げて溜息をつく。
――国境程じゃないにしろここも大概だな……凍えそうだ……
「おーいヴァレン! 早く来いよ!」
先に行ったクラウドが俺を呼ぶ。俺は自分の荷物を担ぐと兵舎に向かって歩き出した。