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15、『対面』

 聞こえるのは、すっかり小降りになった雨音とパチパチと爆ぜる火の音だけだ。

イフリートが明らかに撤退したと思われても、なお白いウィークは物音一つ立てずに姿勢を崩さない。


 俺も流石におかしいと心配に思ったちょうどその時、そいつは剣を降ろすと、非常にゆっくりとした動きで片膝を地面に付き、待機状態を取った。

白い機体のコックピットのロックボルトが蒸気を吹き出しつつ解除され、上下に開いたハッチの間から人影が現れる。


 暗がりから躍り出てきたその人物が周りでちろちろと輝く小さな炎の光に照らされた時から、たぶん俺は馬鹿みたいに大口を開けて呆然としていたんだろう。

脚部を伝い、軽やかに地面に降りてきた例のパイロットが近づいてきて、そして声を掛けられてようやく俺は我に返った。


「……ん、大丈夫??」

身動ぎ一つしない俺を不思議に思ったのか、そのパイロットはキョトンとした顔で首を傾げつつ尋ねてきた。

「え、あ、あぁ、大丈夫だ。」

若干どもりつつも返答し、地面に座り込んでいる俺は目の前に差し出された手を掴む。途端にぐいっと思わぬ力強さで勢いよく引き起こされて少し驚く。

立ち上がって服に付いた土を軽く払い、改めてパイロットのその姿を見てみる。


 身長は女性にしてはかなり高く、170はある俺と同じか少し上回っている。その割にはやけに高く感じられるのは、体つきが彼女の機体と同様に華奢なせいもあるのだろうか。

ほどかれて肩まで伸びる金髪は雨に濡れてしっとりと輝き、スッキリと美麗に整った顔立ちは、その目のどこか眠たげに細められた様子が印象的だった。


「どうかした?」

俺がぽけーっと彼女の姿を眺めていたからか、そんなことを問いかけてくる。

馬鹿正直に答えるのもあれなので、一応、気になっていたことを代わりとして答える。

「あぁいや、()()を動かしてたのが女性だったことが意外で……」

俺は奥で鎮座する純白の機体を指さす。


 セルジェネレータの恩恵で常軌を逸した機動力を誇るウィーク(特に瞬間的な加減速による戦闘機動を行う唯一(ユニーク)機体)には、内部のパイロットをその影響から保護するために慣性制御システムが備え付けられている。

とはいえそれにも限度というものがあり、先ほどのようなとんでもない機動だと尋常でないほどの負荷がかかる。

よっぽど頑強に鍛え上げた者ならばともかく、彼女のような華奢な者には厳しいと思うのだが……


 その事を説明すると、彼女は一瞬目を附せて小さく答えた。

「それは……あの子には私しか居ないもの……」

「え? それはどういう――」

一瞬言っていることが分からず俺が聞き返そうとした時、頭上から馬鹿デカい怒声が降ってきた。

『――こらぁぁぁロッティ!! 独りで先行するなって言ったじゃん!?』

思わず振り返ると、ちょうど重々しい地響きを立ててまた新たなウィークが降り立つところだった。


『ほらもう! ブリュンヒルデもぶっ倒れてるし!』

現れた黄色いウィークのパイロットは、機体の外部スピーカーを通して憤慨した声を出す。

ふむ、どうやら例の白い機体はブリュンヒルデと言うらしい。ちらりとあたかも凛々しい騎士のようなその姿を見てみる。確かに戦乙女の名に相応しい出で立ちだ。

ただ、"ぶっ倒れてる"ってのは、いったいどういう事だ? 見た感じダメージとかもなさそうだが……


 俺の疑問をよそに、ロッティと呼ばれた例の機体のパイロットは何やら不服そうに声の主に対して反論した。

「でもゆっくり移動してると間に合わない可能性が――」

『――それでロッティが死んじゃったら元も子も無いでしょ!! 相手が逃げたから良かったものの……』

声主は言葉尻を弱めてなお、ぶつくさと文句を垂れ続けていたが、やがて大きな溜め息を挟むと大声で言った。

『と に か く!!  私は偵察してくるから二人とも! 艦長達が来るまで待ってること! 良いね!?』

そう強く言い切るや否や、早々にレモンイエローの機体はスラスターを強く吹かすとイフリートが消えた方角と同じ方向に向かっていった。


 さて、待っていろとは言われたが、このままずっと待ちぼうけているのも手持ち無沙汰だ。だから少し気がかりだったことを済ませてしまおうと思い、断りを入れるべく隣に声を掛ける。

尋ねられた彼女は何か用?、とでも言う様に首をかしげる。

「いや、ちょっと見ておきたいものがあってだな……」

何か助けてもらった身で図々しい感じがして、少し言葉を濁しつつ断りを入れる。

とはいえ拒否されたらされたで諦めても良いぐらいの用事なんだが……


「うん……じゃあ行こう。」

良いのか駄目なのか、ただそれだけを聞きたかっただけなのに、彼女から返って来た予想外の答えに俺はつい反射的につっこみを入れた。

「いやいや行こうって……あんたは別に来なくても良いんだぞ?」

すると彼女は少し考える素振りを見せた……と思ったらすぐに顔を上げた。

「いいよ。どのみち暇だから」

えぇ……うーんいや、そういう問題??

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