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13、『反抗』

「だがな、今さら進入経路が分かったとして、それをどう役に立てる?」

おやっさんは懐疑的な眼差しをこちらに向けてくる。

確かにこの情報は、知ったところで俺たちが現状を打破する決め手になるような話じゃない。

ただ、あくまで"俺たち"だけにとっての話だ。


「簡単な話だ。俺たちはイフリートが孤立しているという情報はあるが奴を倒せるような力が無い。だったら、奴を倒せるような力を持ってる他の連中に頼めば良いんだよ。」

いくら唯一(ユニーク)機体とは言え無敵ではなく、あくまでも特殊な武器を積んだ、多少腕が立つウィークでしかない。

過剰な物量にはどう足掻こうと勝てないものだ。


「被害は出るだろうけど、ウィーク部隊でまとめてかかれば倒せない相手じゃないはずだ。」

「なるほどな。一応、こいつにはここを中心に全受信機対象の無線信号を飛ばす機能もあるようだが……」

司令がごつり、と拳で無線機を叩いて言う。

そんな機能もあるのか…………だけど、それは良い手かもしれない。

いちいち他の基地に連絡して回る暇など無いし、近くにいる部隊が受信してくれれば、すぐに応援に来てくれる可能性もある。


 一方でおやっさんはその案には否定的なようだ。

「だがそいつぁ危険だぞ? 全受信機対象ってこたぁ、あのアンチキショーにだって届く。暗号化はされてっから解読はされねぇかも知れんが間違いなくヤツを刺激しちまうだろうな。」

確かにその懸念はある。

正直なところ、謎の無線を警戒したヤツがここら一帯を焼き払わない保証はない。

そうなれば生き残った全員、まとめて御陀仏だ。


「その心配は不要だと思うぞ?」

そう言ったのは司令官だった。司令はそのまま言葉を続ける。

「要は警戒されたとしても、ここに誰も居なければ良いのだろう? ならば簡単だ。地下道を使って逃げれば良い。」

「あぁ? 地下道だぁ?」

「あぁ、この基地はずいぶん古いのを回収したものらしく、地下には大型シェルターと退避通路があるらしい。」


 今では考えられないことだが、前時代……セルジェネレータを用いた大型対空迎撃兵器が配備される前は、いわゆるミサイル兵器の類いが最大の脅威だったらしく、こういった避難場所が最悪の事態に備えて設けられていたとのことだ。

まぁそれは良いとして……


「なんでもっと先に言わねぇ!?」

あ、おやっさんに先に言われた。……まぁとにかく、前の段階で知っていれば色々と計画が立てられたのになんで今更になってそれを言い出すのだろうか。

「色々とゴタゴタしすぎていて、すっかり忘れていた。」

アッハイそうですか……。


「だがこれで、心置きなく応援要請ができるだろう?」

何と言うか、この人……ヘタレだったのが一週回ってタフになってないか?

おやっさんも呆れたような目付きで司令に視線を向ける。

「……ふん、早いとこ始めるぞ。」

そうして俺たちはイフリートに一矢報いるための計画を練り始めた。



 計画に従い、現在おやっさんとクローウン司令は生き残った怪我人その他を地下へ移動させている。

俺か? 俺はおやっさんみたいな貫禄も無いし、司令のように地下の構造を知ってるわけでも無いから地上でイフリートの監視と無線の実行役を拝命してるのさ。

とはいえ単に無意味にお外を眺めて時間を潰してる訳じゃない。

あの二人にはあえて言わなかったけど、俺にも考えってもんがある。そのための準備くらいはしておくさ。

ま、機械いじりだけは、昔から大得意なんでな。



 それからしばらくすると、渡されていた短距離用通信機から司令官の声が届いた。

『こっちは準備完了だ。無線信号を頼む。』

合図を受けて俺は無線機を起動し、周囲一帯に向けての救難信号を発した。

内容は『応援要請。機数一。唯一機体。』だ。どこかの誰かが拾ってくれれば良いのだが……

『よし、送信したな? さっさとこっち来やがれ! そこじゃあ何が起こるかわかんねぇぞ!』

即座におやっさんからの言葉が飛んで来た。よっぽど心配してくれてるらしい。だけど……


「あぁ……悪いけど、俺は行かない。」

『んだと!?』

おやっさんの怒ったような声がする。

「……でもやっぱりアイツには、自分の手で一杯食わさなきゃ気が済まねぇんだ。」

今まで散々好き勝手しやがったアイツ、まるでゴミのように殺された仲間達、やっぱり俺にはアイツが許せない。


『てめぇ!! ちょっとそこで待ってやがれ!!』

ブチ切れたおやっさんは俺のところに来ようとしたようだが、それを司令が止めに入る。

『待った! 今更戻ってる時間は無い! それよりも彼らをできるだけ遠くへ逃がさなければ。』

今逃がそうとしている連中のなかには自力で動けない奴も居る。

その事を思い出したのかおやっさんは迷いが伺える沈黙の後、こちらに怒号を飛ばしてきた。

『…………クソッ、おいヴァレン!! 聞いてるな!? 死んだらぶち殺してやるからな!!』


「大丈夫だ。自分の分は充分わかってる。」

そう伝え、俺は通信機を切った。

まぁ俺だって別に死にたい訳じゃない。無茶はせず、自分のやれることで手を尽くすつもりだ。


「さてと……」

俺は随分と小型化させた元副司令室の無線機を持ち上げた。

この際長距離通信機能は不要だから外し、広域無線信号だけ使えるようにして予備電源もぶっ刺しておいた。

これで電源が持つ間は謎の信号発信源として撹乱に使えるはずだ。それとついでに通信機の方もいくつか(部屋を漁ると出てきた物だ)弄って、適当な無線信号を出せるように改造はしといた。


「……それじゃあ、かくれんぼの時間だ。」

応援が来るまでの間、時間はキッチリ稼がせてもらうとしよう。まぁ来るかも分からないし、見つかったら即消し炭にされて終わりになるんだがな。

身動きしたイフリートの双眸がぴたりとこちらへ向けられたのを尻目に、俺は"武器"を手に副司令室を後にした。

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