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12、『判明』

「……い……おい!」

隣から聞こえてくる声に俺はふと我に返る。

顔を横に向けると、そこには俺に向かって怒鳴りつけてくるおやっさんが居た。

「ボサっとしてんじゃねぇぞコノヤロー!! 何があったかは聞かんでも分かる。だがまずはテメーの命を守ることを考えろ!」


 あぁ、確かにそうだ。俺達は生き残るために必死でここまで来たんだ。友人が目の前で殺されたからって、今この場で茫然自失になって立ち止まる訳にはいかない。

「……ありがとう、おやっさん。目が覚めた。」

「ふん、連中は事が落ち着いたら弔ってやれ。それより……行くぞ、こっちだ。」

チョイチョイと指を数回曲げて"付いて来い"とジェスチャーすると、おやっさんは俺に背を向けて歩き始めた。

司令室から離れる方向に、だ。


「うん?……おやっさん、どこ行くんだ?」

「通信機のある部屋の目星がだいたいついたからな。そこに向かう。」

「司令は?」

「先に行って準備しとけつっといた。」

司令官までをもいつもの如くこき使い始めたおやっさんに、そこはかとなく畏敬の念を感じつつ、俺はその後を追いかける。


 数分程でおやっさんは足を止めた。特に何のプレートも無いごく普通の扉の前でだ。

疑うようで悪いが、本当にこんな所に通信機があるのだろうか?

「ここは?」

「副司令の仕事場だ。普通に考えりゃあ使ってた奴が手元に置いてるだろうからな。」

――まぁそれもそうだな。

おやっさんが語った理由に俺は深く納得した。

が、よくよく考えればこの部屋、副司令が使っていたにしては質素すぎやしないか?

「たりめーだ。あのアホが着任したのが一、二ヶ月前らしいからな。新しい事実上の司令室には機能性を整えるだけで精一杯だった、て訳だ。」

めんどくせぇ話だ。とおやっさんは吐き捨てるようにボヤくと、扉を開けて部屋に入っていった。


 部屋は様々な機材と山のように積み重ねられた紙束で埋め尽くされており、とても狭苦しい場所だった。

奥に踏み込んでいったおやっさんが、こちらに背を向ける司令に「どうだ?」と声をかけた。

「説明書通りにやっただけだが、おそらく動くだろう。波長は『通行路(ゲート)』の防衛基地に合わせてある。」

通信機をいじっていた司令は振り返りつつそう答えた。


「よし、じゃあさっさとやっちまえ。」

「…………私がか?」

顎でしゃくられた司令が不思議そうな顔をしておやっさんに聞き返す。

「あぁ!? てめぇ以外に誰がやんだこのタコ!! 他はただの整備士と一兵卒だろーがっ!!」

ん、まぁそういえばそうだな……たかが一介のぺーぺーが連絡取るよりも、司令官という偉い立場のクローウン司令が連絡する方が、話がスムーズに進みそうだ。


 結局自分で連絡する羽目になった司令がぶつくさ言いながらも通信機を起動した。

起動した直後、一瞬だけ雑音が走るもすぐに消え、向こう側からのわずかにノイズがかった声が流れ始める。

『こちらはレファール軍、『通行路(ゲート)』防衛基地"バグスター"。用件をどうぞ。』

「あー……こちらはカリバル基地司令官、ニコラス=クローウン中佐だ。そちらの戦況を知りたい。」


 司令官がそう返答したところ、通信相手(おそらく情報技官だろう)が少し慌てたように言葉を丁寧なものにした。

『ハッ、これは失礼致しました、司令官殿でしたか。しかし、戦況……でありますか? 外を見る限りではいつもと同様の小競り合いが続くばかりですが……』

「なんだと?」

驚く司令官だが、驚いたのはこちらも同じだ。戦局がいつも通りということはつまり、一切のイレギュラーな事態が観測されていないことに他ならない。

ならばイフリートは一体どこから侵入したのだろうか。


『どうかされたのですか?』

突然沈黙してしまった司令官を心配したのか相手が尋ねる。

「……あぁ実は――」

クローウン司令が事情を説明しようとしたときだった。通信の向こうで大きなサイレンの音と激しい物音が鳴り始めた。

『――ッ!! 申し訳ありません司令官殿、敵襲です。一時本来の業務に戻らさせていただきます。』

すぐさま無線の向こうで慌ただしく動く音と張り上げられる声が一頻り聞こえたかと思うと、ぶつりと通信は乱暴に切れた。


「ったく、一体どうなってやがる……通行路(ゲート)がまだ健在だったのは良いが、異常は確認されていない? じゃああのクソ野郎はどっから入ってきやがったってんだ。」

おやっさんが苛立たし気に毒づく。

確かにそうだ。イフリートなんかが通行路(ゲート)を通ろうとしていれば、各基地の面々が気づかないはずうがない。つまり奴は、()()()な道を通らずに内部へと侵入した訳だ……ん?…………

「……あ、まさか、そういうことか?……」

ここでようやく俺は真実にたどり着いた。イフリートがどうやって侵入してきたかについて。

とは言ってもあくまで推測だが。


 俺の呟きを聞いたのだろう。司令が一体何が分かったのか、と尋ねてきた。

「いや、イフリートの侵入経路がなんとなくだが、わかったかもしれない。」

ここで止めても良かったのだが、おやっさんと司令が黙って話の続きを待っているのを見て、俺は自分の考えたことを伝えた。


「ポイントは三つだ。一つ、雲は猛烈な上昇気流で発生する。二つ、空気を暖めると空気は上に上っていく。そして三つ、イフリートの主武器は火炎だ。」

「おいおい、てこたぁ……野郎、無理矢理越えてきたってのか、あの山を!?」

俺の言いたかったことを瞬時にしっかりと理解してくれたらしいおやっさんが驚いた顔をした。


 『不可侵の壁(ゲートキーパー)』が異常な気流を生み出し、空の進行を完全に阻んでしまっているというのは以前も言った通りだ。

しかし逆に考えれば、最大かつ唯一の障害は気流だけということでもある。要は気流さえ何とかしてしまえば、後は単に高いだけの山に過ぎない、という事だ。


 そこでイフリートはおそらく、自らの武器を用いて発生させた熱で強烈な上昇気流を発生させ、強引に上向きへと整えた空気の流れを通って山を越えてきたのだろう。

そしてその影響で、今日は酷い土砂降りの雨があったという訳だ。ヤツが生み出した気流で発生した雲によって、な。

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