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「使用者の体系に合わせてくれる機能があるのか!」
あまりにも進み過ぎたテクノロジーは、魔法を見分けがつかないと言うが、事実、俺にとっては魔法のような物である。
色々拾い集めた物品を、量子ストレージ内に格納しながら、ひとしきり感動に浸った後、俺はとある事実に気が付いた。
腰にぶら下げている拳銃一丁を手に取った時、やった事も無い訓練風景を思い出した事は、まぁどうでもいいとして、コイツの使用用途が気になったのだ。
「……どうやら、使えるようにはなっているらしいけど、これってさ。何に使うんだ?」
弾はしっかり六発装填されている。
ガンベルトの弾帯には、満杯にニューサービス用の45口径弾が詰め込まれており、こんなに弾薬を持たせるという事は、脅し用途ではないだろう。
「原生変異生物や、暴徒への使用が、主な使用用途です。ナナシ」
変異生物なんて単語が出てきた。
放射能の云々とか、ウイルスが云々とか説明されても、俺には絶対に理解出来ないだろうから、頭の片隅にとどめておくだけにする。
それよりも、その後の単語についてだ。
「……暴徒って人間か? 人間を襲う人間か?」
彼女の物言いは、人間がまだ生き残っている証拠だった。
暴徒が居ると言う事は、暴徒に襲われる人々もまた生き残っているはずなのだ。俺はそれをはっきりさせたい。
「はい、残存する偵察衛星からの情報によると、同じ人間を武装しながら強襲する人類を確認。暴徒と断定させていただきました」
どうやら、人類はまだ同じ人間を襲える位には、元気であるらしい。
終末世界と聞けば、人類がひいひい言いながら、なんとか生き残っていると想像してしまうが、実は思ったよりも余裕がある世界なのではないだろうか。
ならば、俺が生存可能と判断された理由も頷ける。
「成程な。暴徒以外の人間は何をやっているんだ?」
ともかく、持てる荷物は全てストレージ内に収めたので、リリスに手を差し伸べた。
彼女は掌に飛び移りながら、俺の問いに答える。
「いくつかの街を築いております。一番近い所で、ここから西に三十キロ程度。船橋、浦安の辺りでしょうか」
リリスを胸ポケットに仕舞いこみ、俺は意を決して頷いた。
ここから先は、28年の人生でも何もかもが未体験の経験だ。
もしかしたら、俺は無事に街へたどり着き、以前のような生活とは言わないまでも、普通に生きていく事が出来るかも知れない。
その前に、暴徒や原生変異生物とやらに殺されるかも知れない。そっちの可能性の方が、ずっと高いだろうけど、とりあえずは希望が見えた。
だったら、俺はその希望に向かって、歩み続けるだけだ。
他に行く当ても、生きる当てもないのだから、歩き続けるが正しい、歩き続けるしかない。
だって俺は、まだ死にたくはない。
前世、と称していいのかはわからないが、こうなる前の人生では、良い事なんて一つもなかった。
一生懸命勉強して、いい大学に入れば、一生安泰、幸福になれるとの嘘を信じて、学生時代は必死に勉強し、得た知識を使って起業すれば、嘘つきの政治家が経済を破壊し尽くした。
俺の会社は潰れて、酷い企業に就職して、そして最後は体を壊して孤独死する。
一言で言うと、不幸な人生。
それ以外の何物でもないが、だからこそ、俺には幸せになる権利があるはずだ。
「行こうか」
俺はシェルターの中を歩いていく。
ボロボロの錆びまくった金属塊と化したこの場所は、まるで今までの人生を象徴するかのような場所だった。
新しい人生に向かう為の道と、自分を奮い立たせて、俺は歩いていく。
奮い立たせなければ、挫けてしまうだろう。
何せ、俺がこれから歩む道は、人の気配など無い終末の世だ。
命の危機はそこら中に転がっていて、命の値段が最も高かった世界から、命が無価値となる世界へと向かわなくてはならない。
恐怖を感じない人間は、それこそ、頭のネジが足りないだけだろう。
でも、俺には不思議なテクノロジーがついている。
SAsPOと言う、終末世界に特化したサバイバルツールと、少しだけ口の悪い可愛らしい人形が旅の道連れだ。
この二つがあれば、俺でもなんとか生きていく事位は出来るだろう。
今度こそ、俺はこのウェイストランドでも気楽に生きたい。