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 硬質で小さな音が鳴り、鍵は開いた。

 ジュラルミンケース程度の小さな箱には、マカロニウェスタン映画にでも出てきそうなリボルバーと、カウボーイが身に着けるガンベルトが入っているが、今はそれどころじゃない。

 先程の感覚は、明らかにおかしかった。


「おい、リリス。なんだコレは……なんだ今の現象は!?」


 学んだ覚えどころか、知ろうともしなかった知識を、唐突に思い出したのだ。

 せっかく手に入った武器を無視して、15センチしかないリリスの体を掴みあげて、俺は怒鳴る。

 知らない事を唐突に思い出す恐怖は、俺を暴挙に駆り立てるのに、十二分な恐ろしさを与えていた。


「ご主人様、いいえ、七市勘九郎(ななしかんくろう)様。一度落ち着いて下さい」


 ご主人様呼びを止めて、リリスは俺の名前を口にする。

 七市勘九郎、ナナシが俺の名前だったが、今はどうでもいい。ともかく俺の脳みそがどんな風に弄られて、あっぱらっぱーになったかを問い詰めなくてはならない。


「……落ち着いている。これはなんだ? 俺はどうして、知らない事を思い出したんだ?」


 前世でピッキングをやった事も見た覚えもない。鍵が開かなくなれば鍵屋を呼んだし、そういった行為への興味は、終生持った覚え等なかった。

 なのに、俺は思い出した。まるで、久しぶりに乗った自転車の乗り方を思い出すかのように、手になじんだ技術として、思い出してしまったのだ。


「SAsPOの機能です」


 とリリスは簡潔に説明する。

 だが、それで納得できるのなら、俺はここまで狼狽していない。


「この糞ダサグローブが?」


 俺は服とお揃いのカラーリングである糞ダサいグローブ、SAsPOを見つめてみる。


「はい、その糞ダサグローブの機能です。ご主人様はニューロトレーナーと言う教育機材を、ご存じでしょうか?」


 また聞きなれない単語が出てきた。

 俺の知っているニューロと言えば、どっかの電話会社がそんなインターネット回線を開発している、と耳に挟んだ位だ。


「ご存じないようですね。ニューロトレーナー、要するに脳ニューロンに直接経験と知識を書き込む機械、と考えて下さい。それが、貴方のSAsPOに搭載されており、ニューロデータを見つければ、新たな技術をその場で覚える事も可能ですよ」


 要するに、俺はデータさえあれば歴戦の戦士にも、熟練の技術者にも、ウィザード級のハッカーにもなれる可能性があるのかも知れない。


「……夢が広がるな」


 だが、未知の技術と言うのは怖い物だ。

 俺はなんとかその言葉を絞り出すと、握ったままだった彼女を胸ポケットまで導いてやり、そこに入ってもらう。

 ぱっと見は胸ポケットに美少女フィギュアを入れた、怪しいおっさんになったが、終末世界でそんな事を気にする人間はいないはずだ。


「さて、ご主人様」

「あ、待ってくれ。そのご主人様ってのを止めてくれ。背中が痒くなるから、ナナシでいい」


 いつものようにご主人様呼ばわりしようとした彼女を、押し留める。

 美少女フィギュアだとしても、少女にご主人様と呼ばれると、俺の中にあるイケナイ感情が、こう、猛り狂うので、勘弁してほしかったのだ。


「……ではナナシ様。SAsPOの量子ストレージを起動してください」


 少しだけ不服そうになったリリスだが、言い争っても無益と判断したのか、それとも俺の願いはある程度聞いてくれるのか、どちらかはわからないが、ナナシと呼んでくれるようだ。

 言われた通りに、液晶画面を弄ると、カバンのサムネイルがあり、ファイル名に量子デバイスと書かれていたので、それを突いてみる。


「おお、色々な機能があるな。えーっと……ビルドツール、クラフトツール……あ、これか、ストレージ。お、五百キログラム分のゼロって表示されているな」


 気になる機能がいくつかあったが、言われた通りのサムネイルをタップして、ストレージを起動した。


「では、ストレージを起動した状態で、先程のリボルバーとガンベルトを、グローブの方で掴んでみて下さい」

「こうか?」


 言われた通りに、リボルバーを掴んでみると、光の帯となって消えていく。


「おお、消えた」


 面白くなって、ガンベルトの方も掴んでみたが、同じように消えていく、これはどんな魔法なのだろうか。


「はい、では、グローブの液晶画面にご注目下さい。ストレージ内に、先程拾った物が増えているはずです」


 そう言われて、液晶画面をのぞき込んでみると、そこには、コルト・ニューサービスの文字とガンベルトの文字が追加されていた。


「これはもしかして……」


 腕輪の中に物が収納されたのか、そう言おうとしたが、リリスに台詞を取られる。


「はい、量子データ化して収納されます。では、その文字をタップしてみてください」

「……もうちょっと感激させてほしいものだがな」


 文句を言いつつも、俺は言われた通りに、二つの文字をタップする。すると、小さなウィンドウが出て、装備するの文字が現れるではないか。

 もちろん、その選択肢を、俺はタップした。


「……おお!」


 腕輪から光の粒が腰に集まって、先程まで少し大きかったガンベルトを、俺の腰に合わせたサイズに誂えて、出現させたではないか。

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