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1-4

 俺は無能なおっさんなのだ。

 無能なおっさんはおっさんなりに、自分の限界と言う物をよく理解しているからこそ、高慢になんてなれない。

 イキれる年齢は既に終わったのだ。


「世界が滅んだ理由とかは、説明しなくとも、よろしいのですか?」

 

 小さな彼女は、その首を傾げるとそう宣う。

 だが、俺には確信があるのだ。世界の滅んだ理由とかを知っても、俺にはどうしようも出来ない事態であると、十二分に理解している。

 つまり、知った所で胃が痛くなるだけなので、聞かない事にした。


「いや、いい。今の現状は、俺が外に出て、生存できると判断された結果、なんだろうからな。知った所で俺にはどうしようもないから、手っ取り早く説明してくれ」


 いい加減、この鉄箱のような部屋にも、座っている床から伝わってくる冷たさにも、嫌気がさしてきていたのだ。

 生存できると判断されていなければ、死ぬだけだが、それならば結末はどう足掻こうと死、のみである。

 それならば、長く苦しむよりは、好き勝手な事をして死ねるだけ、まだマシな結果だろう。


「では、まず、ご主人様に課せられた使命から、お伝え致します」

「はいはい、頼むよ」


 死人を蘇らせて、使命と来たもんだ。

 全く持って馬鹿馬鹿しいと思う、俺をイエス・キリストの代用品にでもしたいのか、それとも弥勒菩薩でもなって欲しいのか、どちらにしても無駄な事だ。

 終末はもう迎えている、キリストでも弥勒でも、救うべき人物は存在しないだろう。


「貴方の使命は、出来る限り長く生存し、様々なデータを収集する事です」


 なんて斜に構えていたら、予想外の答えが返ってくる。

 出来る限り長く生きる。それは生物であるのならば、誰しもが行っている事なので、特に言及する必要はない。

 問題は、その後の文言、様々なデータとリリスは言った。


「様々なデータってなんだ?」

「はい、それも合わせて説明させていただきます。何故、俺が、と貴方は尋ねましたね?」


 ついっと突き出される指は、俺が唯一身に着けている衣服である糞ダサグローブへと向いている。


「それは終末世界での生存を補助するシステム、略称SAsPOと呼ばれるものを搭載した、サバイバルツールです」


 それに合わせて、俺は思わずグローブを覗きこんでしまう。

 指先から肘の先まで、硬質なプラスチックのようなものに覆われ、大きな液晶画面がくっついたソレは、そんな御大層な物には見えない。

 まぁ、サバイバルツールと言ってもこのサイズだ。バイタル確認とか、搭載されていても、そう言った機能だろう。


「SAsPOには、貴方が今まで行った行動をデータ化……解りやすく述べるのなら、経験値として蓄積する機能があります。蓄積された経験値は、自動で貴方をアップグレードする……解りやすく、レベルアップするとしましょうか」

「……なんか、ドラクエみたいだな」


 ドラマチッククエスト、略してドラクエである。


「似たようなものです」


 俺の下らない冗談を、リリスは頷いて肯定してしまった。

 要するにだ、俺は戦ったりすれば、強くなるし、歩けば長い距離を歩けるようになるのだろう。

 考えていたよりも、ずっとずっと凄まじい機械だった。


「更に、ニューロデバイスを利用すれば、貴方が未経験な分野でも専門家並の知識と経験を、一瞬で積む事すら可能です。他にも様々な機能があるのですが、それは必要となった時に説明しましょう」


 ようやくどうして俺が選ばれたのかを、説明してくれるらしい。


「特に理由はありません。残された遺伝データから、適当に選ばれました」


 理由なんてなかった。

 そりゃそうだろう、理由を付けるのなら、俺のようなまるで無能なおっさんを選ぶより、過去に存在した偉人とか英雄を選ぶに決まっている。

 そんなフワフワした理由で、終末世界に放り出される俺は、一体全体なんなのだろう。


「……ん、よくわかった」


 とにかく、俺は適当にフワフワしながら生きればいい。

 二十八にもなって、職無し技能無し、住所と戸籍すら失った俺に比べれば、まだマシな理由なのだから、適当に生きてやろう。

 どっこいしょと言う声をなんとか抑えながら、立ち上がって、俺はリリスに手を伸ばす。


「……怒らないのですか?」


 差し出された手をじっと見つめていたリリスは、視線を俺の目に合わせると、そんな事を尋ねてくる。


「怒り狂いたい所だけど、君に八つ当たりしてもしょうがないし、それやったら格好悪いからね」


 悪いのは彼女ではない、俺を送り出した奴等と、何より選ばれてしまった俺の運が悪かった。

 だったらしょうがないと割り切って、地獄になるであろうこの旅路の道ずれを、ここで得るのも悪くは無いと考えたのだ。

 ぴょんと飛び跳ねて、俺の手に乗った彼女を、肩に乗せて、俺はロックのかかった扉の前まで歩いていく。


「あのカギは外せるんだよな?」


 とりあえずはここから出たい。

 俺の問いに、肩で彼女が頷いたような気配がした。


「はい、SAsPOにデコーダーがありますので、それを使っていただければ」

「ん」


 液晶を操作すると、いくつかのアプリが見える。

 その中からデコーダーを選ぶと、SAsPOのカメラをキーコードに向けるよう、指示が浮かぶ。

 表示された指示に従って行動すると、目の前の重厚な扉をロックしていた巨大な鉄杭が、ゆっくりと壁の中へと引き込まれていく。


「……よし、それじゃあ行こうか。俺達の旅路に」

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