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《登録された遺伝子情報を確認しました。これよりSAsPoを起動します》


 俺がグローブを付けると、突如して脳内にそんな音声が響いてきた。

 サスポ、なんてタスポの親戚みたいな呼び名ではあるが、流石にシステムが人類に危険を及ぼす事はないだろうと、楽観視していたら、何故だか腕が痒い。

 もしかして、この変なグローブの裏にダニでも居るのではないかと、嫌な考えが浮かんだので、外そうと試みる。


「……うおっ、外れない」


 グローブに手をかけて、引きはがそうと引いてみた所、まるで皮膚に張り付いたかのように剥がれる事はなかった。

 それでも接合部を引っ掻いてみたり、更に引っ張ってみたりと努力を続けていた所、突如としてどこからか、声がかかる。


「千切れますよぉ? 皮膚」


 甘ったるい、耳に残る少女の声。


「何奴!?」


 なんて古風な事を言いながら、部屋を見回してみるが、誰もいない。

 すわ幻聴か、働き過ぎたのが原因かと危惧するが、再び声がかかって、その思考は霧散する。


「下です。下ですよぉ、ご主人様」


 言われた通り、下から声が聞こえているみたいだった。

 俺はそのまま素直に下を向いて、箱の端に腰掛けている美少女フィギュアを視認する。


「はい、よくできました。初めまして、ご主人様。私はぁ……どうしたんです?」


 自己紹介をしようとするフィギュアを尻目に、俺は頬を引っ張っていた。

 とても痛い、と言う事は夢じゃない。


「……幻覚か」

「違いますよぉ。現実です」


 首を左右に振って、現実と言う凄く嫌な物を突き付けてくる人形だが、俺は信じない。

 いよいよもって、ヤバい奴になってしまった自分自身を省みる為、部屋の隅っこに座り込んで今までの人生を振り返る事にする。

 流石に、三百六十五連勤はやばかったのかも知れない。


 三百六十六連勤目に備える為の眠りについたら、こんな幻覚を見てしまうのだから、俺も相当疲れていたのだろう。

 ちらりと、金属箱の方へ視線をやると、例の幻覚が小さな体で、一生懸命箱から出ようと努力している場面を目撃してしまう。


「待ってくださいご主人様ぁ。お、降りられない……」


 箱の縁に手をかけたまま、ぷらーんとぶら下がっている美少女フィギュア。

 なんだか、幻覚の癖にどん臭い奴だな。

 一生懸命小さな足を動かして、地面の感触を探しているようだが、あの箱は、縦一メートル位ある。どう頑張っても、十五センチ位しかない人形では、降りる事は適わないだろう。


「ご主人様ぁ、降りられません。ご主人様ぁ?」


 おまけに助けを求められてしまう。

 手を伸ばしたって、所詮幻覚なのだから触れられないのだろうけど、俺の中から助けない、無視をすると言った感情は抜け果てていた。

 床屋にも行けなかったせいで、すっかりと伸びてしまった前髪を掻きあげる。


「ほら、手に乗れよ」


 彼女の足元に掌を差し出し乗るように促す。

 人形はちらりと、足元を見た後、俺の顔をジッと見つめ、掌に飛び降りてきた。

 そのまま地面へと移して、下ろしてやると、彼女はにんまりと笑って、感謝の声を上げる。


「ありがとうございます。優しいのですね」


 だが、俺はそれどころではなかった。

 あの飛び降りてきた時に感じた衝撃、下ろす時に座っていた尻の柔らかい感触が、ありありと掌と言う神経の多い部分で感じ取ってしまったのだ。

 即ち、目の前で喋って喜んでいる彼女は、幻覚ではなかった。


「に、人形が喋った!?」


 俺が叫ぶと、その人形は呆れたような半眼でこちらを見つめ、小さく溜息を吐く。


「さっきから喋っています。いいですか、私は多目的(マルチプル)自動人形(オートロイド)リリス。貴方の終末世界での生存を補助する為に、作られました」


 混乱する俺を尻目に、美少女フィギュアはリリスと名乗ると、聞き捨てならない事を口にする。

 俺の終末世界がどうたらこうたらとか、生存を補助するとか、それはまるでこの世界での生存が非常に困難であるかのように、言い放つのだ。


「……待て、待って。リリスとか言ったか」

「はい、リリスでございます。ご主人様ぁ」


 名前を呼ばれると、嬉しくなる機能でも積んでいるのか、彼女は嬉しそうに微笑み、甘えるような声色で返事をした。

 個人的には非常にグッドなのだが、今は重要な事ではない。


「……世界、滅んでるの?」

「具体的に申しますと、地球そのものは健全な状態でございます」

「……………………人類文明がないの?」

「はい、今より二百年と三ヵ月、七日前程に、アメリカ、テキサス州に残されていた人類最後の都市、ヒューストンが陥落。人類の文明と呼べるものは、全て消滅致しました」


 余りにも衝撃的な事実に、俺の気は一気に遠くなる。

 倒れ込みそうになるのを、壁に寄りかかる事により、なんとか堪えて、俺は次の質問を口にする。

 壁の冷たさが、嫌でも現実である事を教えてくる。だったら、俺はここで倒れるべきではない。先程の現実逃避で、大分時間を無駄にしているからだ。

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