第6夜会 内通は如何にして-ヒーリングメッセージ(後編)
後編です!
謎解きなので前編・中編からをオススメいたします。
「私が気になったのはシュリさまの部隊の治安でございます」
「治安の話なんてありましたでしょうか?」
「う~ん……そんな話あったっけ~?」
「たしか、チェルシーがシュリさんの部隊に合流した時に兵たちが喧嘩していたのではなくて?」
「今回の遠征は確かに少しだけ内輪揉めみたいなことはありました。でも、些細なことで……」
「たしかに些細なことでございます。些細なことではございますが違和感がございませんでしょうか?」
シュリを含む皆が首を傾げる中、ロサナが違和感に気づいた。
「みなせの言うことがなんとなくわかったかもしれませんわ。
わたくしの学園内で揉め事があれば教員や生徒が止めますし、今後そのようなことが起こらないよう対策を立てたり解決作を考えますわ。
しかし、シュリさんの部隊ではチェルシーが合流した2週間後でもまだ争っていました。これは規律が厳しいとされる軍隊であり得ることなのでしょうか?」
「たしかに~」
ロサナの言葉に全員が納得する。
「私の部隊ならボコってるな」
「私の感じた違和感はまさにその事でございます。皆様でしたらこのようなことをどのように対象しますでしょうか?」
「一般国民の私的には当番を決めて交替制で見張りを立てます!」
「そうですわね。ユアと同様に先ほどの例え同様に教師によって争いの鎮圧……この場合ですと小隊長などの役職者にしっかりと部隊の管理を命じますわ」
「あれ~でもおかしくないかな~」
『?』
アーニャが何かに気づく。
「もともと野生動物が住み着いていた古城を砦にしていたんだよね~?」
「そうです」
「人気が出てきているのになんで人間慣れしてない動物たちが変わらずよってくるの~?」
「確かにそこは気付きませんでした……おかしいですね。こんなことは今まで……チェルシーは今までこんなことあった?」
「いや……よく森や洞窟に夜営地を作っても動物はしばらくしたらよってこないぞ」
「ですよね……ではいったい何故……」
「あの……ちょっといいですか?」
ユアがおずおずと手を上げた。
「誰かが餌漬けしていたんではないでしょうか?
私の近所でよくネコや鳥にエサをあげてる人がいます。動物たちは餌漬けしている人が近付いたり合図を送るとよってきます」
「ユア、ナイス! であれば兵の誰かが餌漬けして懐いた動物に作戦内容を手紙などにして持たせて敵軍に知らせていたんだ」
「でも誰がいったいどうやって?」
「それは私が思いますにレオーネさまかと存じます」
『ええっ!?』
「レオーネが? ありえない!」
シュリが食い気味にみなせに言った。
みなせは落ち着きながら話し始める。
「シュリさまが皆様にお話した中でレオーネさまには口笛を吹くクセがあると言っておりました」
「それがどうしたって……」
「口笛が動物たちを呼び出す合図になっていたんですね」
「でもねユア。そんな口笛ごときで……」
「【オールド アイリッシュ マジック】か~……」
「なんだって?」
「動物と仲良くなったりする1つの方法だよ~。口笛を吹きながら動物を撫でてあげるとリラックスして懐きやすくなるらしい。それにあたしやレオーネみたいな獣人は動物にも懐かれやすいからね~」
「そして、口笛を合図に餌をあげたり目的の場所に誘導するのも獣人であるレオーネさまであれば可能かと存じます」
「レオーネがそんなことを思い付くなんて……」
「いいえ、レオーネさまではございません」
「「なんだって!?」」
「なんですって!?」
「どいうこと~!?」
みなせの言葉にまた一同が困惑する。
「皆様は【オペラント条件付け】をご存知でしょうか?」
チェルシー、シュリ、ユアは首をふり、この中でも学問に精通しているロサナとアーニャを見るが2人も知らない素振りをした。
「これはアメリカで行われた心理実験で、その中の1つにスキナーという博士がおり箱の中に鳩やネズミを入れ、ボタンを押すと箱の中に餌が入るという仕掛けを施しました。鳩やネズミはそれを覚えお腹がすくと自分たちでボタンを押すようになりました。
これを1つの例に、レオーネさまが口笛を吹くと動物たちは学習して集まってくるようになったのです」
「アーニャ……聞いたことあります?」
「ないね~……てかアメリカって何? 国の名前?」
「はい。国の名前でございます。そして、そのアメリカから海を渡った所に島国がありその国の名前は日本といいます」
「ってことはシュリ!」
「藤矢がレオーネに入れ知恵をした……でも、藤矢は内通者を知らなかったはず! それは私が最初に見て……」
「最初は知らなかったのでございます」
「じゃあなんで……」
「恐らくではございますが、シュリさま、藤矢さま、リーンさま、レオーネさまの4人はお互いのためならなんでもしたいと思える仲間だと存じます。その仲間の1人が大切な家族のために内通者になったことにはたと気付いたとしたらどうなりますでしょうか?」
「私なら助けようと思います。私はチェルシーさん、ロサナさん、アーニャさん、みなせさんが困っていたら役に立てるかはわからないけど、全力で何かしたいと思います」
ユアの一言に夜会メンバーの顔がほころぶ。
「シュリさまからの面談の様子からしてまず、戦が始まる前にリーンさまが作戦内容の手紙を送り敵国にいる家族を逃がすための時間稼ぎをしました。それは指揮官が王国屈指の四騎士で戦を数日で終わらせられる策略家だからでございます。
そして、実際に現場で戦っているレオーネさまはいち早くシュリさまの作戦が漏れていることに気が付きました。リーンさまとの間にはもちろん絆があるため2日目には修正した作戦も全線で戦っている際、上手く手加減や作戦が分かりやすく行動したのでしょう。
最後に面談の時に全てを悟った藤矢さまは3人と結託して十分と言える時間稼ぎを行ったというのが私の推測でございます」
「でも、リーンは面談の際同様していた……」
「それは自分を関わらせないように動いてくれている2人と主への罪悪感でしょう。基本的にはリーンさまがシュリさまの仕事のサポートをしているとのことなので自分に注意が行くように囮になっていた。普通の人ならばプレッシャーにもなり心中穏やかではございますまい」
……みなせの発言のあと暫く沈黙が続いた。
ふと、シュリも胸ポケットからタバコを取り出した。
「みなさん、いいですか?」
「シュリさん、火ですわ」
「ロサナさんありがとう」
ふぅ~っと一服大きく煙を吹き……
「みなせさんの推測がアタリかな……私の仲間は困ってる仲間を見捨てない。それに他の兵士が動物関係でストレスを溜めて揉めていたことがつづいていたのにも説明がつく……凄いな……それに比べて私は大切な仲間のことにも気付いてやれないなんて」
「シュリ……それは」
「それは見当違いかと存じます。そもそも数ヶ月かかる作戦を2~3日で終わらせてしまうシュリさまの手腕を知っているからこそ、3人はシュリさまが王国から評価されるラインを守って遅延させたのでございます。最初はリーンさまのあわよくばから始まったような作戦をシュリさまに気付かれないようにした作戦なのでございます。
したがって気付かないのは仕方のないことに存じます」
「だけど私は3人の上官だ。気付かないですまされる問題ではない」
「では、3人ともっとよく話すべきでございます。3人はシュリさまに気を使っております。それはシュリさまが上官という立場だからしょうがないことかもしれません。
しかし、シュリさまは3人を対等な仲間と認めている、信頼しているという気持ちがひしひしと伝わってまいりました。そのことをしっかりと3人に伝えるべきかと存じます」
「ははっ……これは厳しいですね」
「この内通の1件はシュリさまのチームの関係値をより深め、より強固なものへと変化させるものであると私は核心しております。まずは各々心労かと思いますので回復するため意見を交わし会うことをオススメいたします」
第6夜会 内通は如何にして-ヒーリングメッセージ 完
つづく




