第6夜会 内通は如何にして-ヒーリングメッセージ(前編)
短編解決のミステリーです!
短編のスタートなのでここから読んでも大丈夫です!
主な登場人物
夜会メンバー 一覧
チェルシー:王国騎士 金髪美人 男勝り
ロサナ:魔法学校校長 眉目秀麗 セクシードレス
アーニャ:科学者 黒髪猫耳の獣人 だらしない
ユア:町娘 いい娘
みなせ:給士 夜会場所【小烏】のオーナー
キャー……キャー……
ガルルルル……
戦場の死体に鳥や野犬が群がる。
王国は現在近隣の小国と戦をしている。
常に戦っているわけではなく、互いに休息を上手く取り攻めるべきタイミング・守るべきタイミングをしっかりと弁えている。
それは一重に王国が有する最強の四騎士の緑玄と呼ばれるシュリ=レイヴンが指揮をとっているからである。
彼女の立案する作戦は自軍のペースを相手に強要するような戦い方であり、例え相手に奇襲をかけられてもそれを逆手に取ったりなど、まさに王国では右に出るものがいないほどの名軍師とも呼ばれている。
そして……
今回の戦も勝利で納めた。
……
……
ばたんっ!
部屋の扉が勢い良く開かれた。
「シュリ! お疲れ様っ!」
綺麗な金色の髪、白銀の鎧に蒼いマントをなびかせている女。
同じ王国の四騎士【蒼龍】の名で知られるチェルシー=ラインゴットが部屋に入る。
「やぁ。チェルシー。今回は君が出陣してくれたおかげで早く片付いたよ。まぁ、戦場の事後処理は残っているけどね」
不作法に部屋に入ったチェルシーに対して温かく迎えたのは、緑色の髪をして襟足を一つ結びにした片眼鏡の女性だった。
手にはいくつかの書類とペンを持っていて公務中であった。
「チェルシーさん! いきなり入ってくるなんて……シュリさんは仕事中なんすよ!」
「藤矢……いいから。チェルシーは私と同じ四騎士だから」
「だけど……」
「藤矢……私の言うことが聞けないの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
シュリの側には藤矢と呼ばれる16~7歳くらいの男がいた。
チェルシーも彼の存在は知っており【ニホン】の【トウキョウ】という所から来ているシュリが見つけた見習いのような存在だ。
「まぁ、藤矢のことは置いておいてチェルシーが来てくれて本当に助かったわ」
「別に私が来なくても、今回の戦は1~2ヶ月くらい掛かるものを2週間で終らせたシュリの手腕は流石だよ」
チェルシーの一言にシュリと藤矢の顔が歪む……
それに気付いたチェルシーが声をかける。
「どうしたのよ? 何かへんなところあった?」
「……歩きながら話そう。こっちに来て」
シュリに連れられて部屋を出る。
廊下を歩いていると兵士通しの喧嘩の声が聞こえる。
チェルシーは藤矢に話しかける。
「藤矢。シュリに何があったの?」
「それは俺が言うよりシュリさんがチェルシーさんに伝えますよ……てか、あいつらうるさいっすよね?」
「まあ、それもそうだけど……」
「実は兵宿の側に動物の糞があって誰が処理するのかで毎回揉めてるんですよ。
もともと戦場に近いこの廃墟の古城を一時的に拠点にしていて野生の動物とかが住みかにしてたみたいで……」
「まぁ、戦なんだからみんな気が立っているからね。
藤矢も放っておきなさいよ。仕方のないことでもあるんだからさ」
「チェルシーさんがそう言うなら……」
しばらく歩いていると戦場が見渡せる丘まで来た。
「……ん。これでこのあたりにはチェルシーと藤矢と私の三人だけね」
シュリは片目を閉じて辺りを見回してからそう言った。
「それで? 話ってなんなの?」
「……元々今回の戦は3~4日で終わるものだったの」
「えっ!?」
チェルシーは驚いた。
それもそのはずだ。
王国の重臣たちはこの戦を【1~2ヶ月で終わるもの】としていた。
それにも関わらず、チェルシーが終わり頃、ほんの一押し援軍として入り【2週間】で鎮圧した。
チェルシーがいなくとも2~3日の差程度な感覚だ。
それを【たった3~4日】で終わらせる予定だったとシュリは言ったのだ。
「シュリさんの作戦は完璧でした……けど、こちらの作戦を相手は知っているかのような動きだったんですよ」
「藤矢……知っているかのようなではないわよ。知っていたのよ」
「ってことはこの中に内通者がいるってこと!?」
「そうよ……あなたが部屋にくるまでそれも私は調べていたのよ。何人か怪しいと思う人を調べたわ」
「でも、シュリさんの【七眼】で見ても見つからなかったんです」
「シュリでもわからなかった……」
「三人には絞りこんでこの中の誰か! っていうのは確実なんだけどね……」
……少し思い空気が漂う中、それを破る声が鳴り響く。
「……そうだ! 私に言い考えがある!」
チェルシーの大きな声にシュリと藤矢が驚き、びくっと肩を揺らす。
「チェルシー……いきなり驚かせないでくれるかな?
そして、言い考えとは?」
「ふっふっふ……完璧に敵を処理したシュリのことだ。君がここを離れても問題あるまい……」
「まぁ、あとは戦場の後片付けくらいだけど」
ぽんっ……とシュリの肩をチェルシーは両手で叩き
「ご飯行くぞ! シュリ……君をティアラ会に招待するよ!」
「「はぁ?」」
シュリと藤矢の間の抜けた声が重なり、チェルシーは何処か満足そうな顔をしたのであった……
……
……
……
ーーー数日後
「ここだよ!」
「へぇ~……ここが噂の【小烏】か……いい雰囲気じゃないか! チェルシーらしからぬ」
「もう、うるさいよ!」
「他の四騎士が知っても同じ反応だと思うよ」
二人がにぎやかに話をしているのを尻目に藤矢は驚きの顔をしている。
「日本……語……」
「藤矢? この文字を知っているの?」
シュリが話かけたのを境に何かの線が切れたように……
「やっぱり! 日本語だ! 漢字だ!」
「なんだなんだ。いきなり大声を出して……」
「すんません! これ! 俺の故郷の文字なんです!」
急いで扉を掴もうとする手をチェルシーが止める。
「待て待て! どうしたんだ急に!」
「確か【ニッポン】は藤矢の故郷よね?
察するに私も見たことがないこの文字が【ニッポンの文字】なのね?」
「そうです! だから俺は確かめなきゃいてててててて!
なにするんすか!? チェルシーさん!」
チェルシーが藤矢の手をひねり上げた。
「悪いな……私たちだけじゃないんだ。
今日は……それに今日のお前は店の前までの付き添いだから」
「でも!」
「藤矢! ……見苦しいわよ」
藤矢の言葉をシュリが遮る。
「今のそんな状態で何ができるの?
周りに迷惑をかけ自分が低く見られるだけ……私はそんなこと許さないから」
シュリの冷ややかな目は藤矢を落ち着かせる。
深呼吸をした藤矢は落ち着いて話始める。
「……すいませんでした。頭冷します……」
「そうだな……それに今日は女性しかいない食事会なんだ。オーナー以外はね」
「あはは……すいません。【女子会】を邪魔するなんてありえないすよね」
「「女子会?」」
「あー……俺の出身の日本っていう国では【男子禁制】の女の子だけの食事会のことを【女子会】って言うんです。
それに入ろうとする男は空気が読めないと高確率で嫌われます。
女子でしか話せないこともあるだろうしさ」
「なるほどね。確かに女子会かもしれんね。
みなせにも聞いてみよっと……ああ、みなせはここのオーナーのことね。
じゃあ、シュリ入ろっか」
「ごめんなさいね」
「いや、いいんです。よくよく考えても慌てて会わないでもお店なんだから、落ち着いた普通の日に来ますよ」
「まあ、その時は私が奢ってあげるよ」
「ははっ! チェルシーさん、よろしくお願いいたします」
……
……
ぎぃっ……っと扉を開くすると一人の高身長の男が声をかける。
「やっと来たわね。あんたが最後よおぶす」
「うるせー! このオカマやろう!」
「なんですって! きぃーー!」
チェルシーと高身長の男がワーワー言い合っている。
シュリは気まずそうに……
「あのー……」
「ああっ! 今日のゲストはあんたのお連れなのね。
あんたと違ってイズミ寄りの仕事ができる女って感じね」
「ほっとけ」
「ね……ねぇ。チェルシー……この方があなたの言っていたオーナーのみなせさんなの?」
「あー。私は違うわよ!
私はマクレーン。この【小烏】の従業員の1人よ」
「みなせがこんな変人なわけないじゃないか」
「なによ!」
「なんだよ!」
ぱんっ!
……2人が揉め始めたところを手を叩く音が遮る。
音がなった店の奥には階段があり1人の青年が立っていた。
「マクレーン……お静かに。
チェルシーさま、そしてご友人のシュリさま。
ようこそお出でくださいました。
この【小烏】のオーナーのみなせと申します。
本日は腕によりをかけました。
是非、お時間許す限りゆっくりとしていってくださいませ……」
ピシッっと頭を下げ、起き上がったときにニコリと輝くような笑顔をみなせは見せた。
「……」
「おいっお前には藤矢がいるだろ……」
ぽー……っと惚けるシュリを肘でチェルシーは突っつき、耳元で小声の牽制を放つ。
そんなんじゃないやい。とシュリは顔を真っ赤にさせて否定する。
今でのクールさが見る影もない。
そんな二人にみなせは優しくそっと声かける。
「お席のご準備ができております……皆様お揃いなのでこちらにどうぞ……」
三人はゆっくりと階段を上がっていった……
……
……
「本日のメインディッシュ【赤羽アヒルの北京ダック】でございます……」
食事はどんどん進んでいく。
シュリもメンバーと馴染み楽しく食事を楽しんでいる。
「【赤羽アヒル】好き~」
「私は食べたことありません!」
「確か警戒心が強く、ある程度の環境にも耐えられるアヒルでしたわよね。
暑さ・寒さに対応できるように特殊な肉・皮の付け方をしているとか聞きますわ」
「私は好物です。ユアちゃんオススメですよ」
「あっ、グルメなシュリさんが言うなら楽しみです!」
「うふふ。そうね」
「んで【北京ダック】ってなんだ?」
『……』
「アーニャ? 食べたことあるのではなくて?」
「いや~いつもは普通に焼いたの食べるだけだからね」
「まあ、とりあえず肉食うか」
「お待ちください……」
『?』
全員がピタリと止まる……
そして、不思議そうな顔をして皆瀬を見る。
「口を挟むことをお許しください。この【北京ダック】には食べ方がございます」
『食べ方?』
全員が首を傾げる。
頭には?(はてな)マークが浮かんでいるようにも見える。
「先ずは皆様の手前にございます。丸い餅生地を一枚お持ちください」
「【もち】だけに?」
『……』
チェルシーの言葉に場の空気が凍る……
申し訳なさそうにシュリが、
「皆様……うちのバカが申し訳ございません」
「おい……バカって……」
『いえいえ! いつものことなのでお気になさらず!』
全員の突っ込みが入り笑いが起こる。
一通り笑った後、みなせが空気良く続きの説明を始める。
「先ずはこの薄餅を一枚取って頂きまして、その上にパリッパリッに釜で焼いた【赤羽アヒル】の皮とお好みのカットした野菜を少し乗せます……
そして、お好みのソースを足らして最後に全部を包んだ状態で完成でございます」
皆各々好みの野菜を少し乗せ、数種類あるソースをかけた後、全てを包み口に運んだ。
『美味しい!』
「私はこれを良く好んで食べますが!
外はモチモチで中は赤羽アヒルのパリッとジューシーな皮!
そして、野菜のしゃきしゃきさに絡まるソース!
なんて美味しい……こんな食べ方があったなんて……」
シュリは興奮して饒舌に語る。
メンバーも皆口をそろえて美味しい!
……と話すがシュリは大絶賛だ。
仕舞いには「私が赤羽アヒルを買って送るから、私のために用意してくれ!」と言い出す始末である。
チェルシーはそんなシュリを見て……
(ふふっ……シュリを連れて来て良かったなぁ……)
と心中で思い満足していた。
そして……
(……ん? 何かを忘れているような……あっ)
「ちっがーーーーーーーーう!」
『っ!?』
チェルシーの突然の叫び声を聞いてびくっと肩を揺らす。
「なっ、なんだよ~いきなり~!?」
「びっくりしました!」
「いや! ちがくない、いいんだけどちがくて……」
「は? 何をいってますの?」
勝手にあたふたし始めたチェルシーに対し、女子会のメンバーは不信感を出していた。
しかし、今日自分が何をしに来たのかわかっているシュリは一口、ワインを口に含み一呼吸置いたあと話始めた。
「皆様、ありがとうございます。チェルシーのいう通り皆様凄い優しく楽しい夜会……女子会でした。
ユア……あなたは純粋でやさしい所はとても好感が持てます。
ロサナ……知的で皆様の会話を更に知的に楽しませることができるのは一重にあなたの所々の発言によるものだと思いました。
アーニャ……チェルシーと共に会話を盛り上げ時折見せる論理的な発言は面白さを楽しい空気を作り出しております。
この【ティアラ会】という女子会はとても良いものです」
皆シュリの誉め言葉を聞き顔を赤らめ少し俯いた。
そこでシュリは本題を続けた……
「とても良いということがわかった所で、本日は今私が抱える謎をお話させて頂きます。
聞くところによると皆様、女子会の度に何かしらの謎解きをしているということなので……」
「シュリ……お褒め頂き嬉しく思いますわ。それで謎というのは?」
ロサナが聞き返し、シュリはこれまでの経緯を全員に説明した。
ようやくすると軍の戦略、内情をリークしている者は誰なのか?
というものだった。
先ほどの空気と違い皆真剣に話を聞いていた。
シュリが一通り話を終え、渇いた口をワインで潤し、空になったグラスにみなせが新しいワインを注いだ所から質問が始まった。
「えーと……私は一般人なのであまり戦略などわからないのですが【1~2ヶ月】も掛かる戦いを【2週間】で終わらせる。
そして本来は【3~4日】で終わらせるなんてことできるのですか?」
「はい。私の作戦を使えばすぐに決着が着くものでした。
もともと相手の動きにこちらの行動を既に知っているような対策が出て、それが毎回起こっていたのでおかしいと思いました。
打開策はチェルシーが来てくれたからです。
彼女の攻撃力・爆発力は四騎士の中でも1・2を争うレベルだから急な作戦変更だけではなく、急で強力な戦力まで加わり流石に対応しきれません」
「へぇ~チェルシー凄いじゃん」
「まっ……それほどでもないよ」
チェルシーは顔を真っ赤にしてテレる。
普段、王国最高峰の騎士として褒め称えられるのは慣れている。
しかし、心から信頼している友だちに褒められるのにはなれておらず赤面してしまった。
「それで、情報を漏らしている人物は誰なんですか?」
「確かにね。でも、素晴らしい軍師さまですから実はもうある程度容疑者は絞れているのではなくて?」
「そうですね。流石の私も何もしないほど馬鹿ではない。三人……疑わしい人間がいます。それはーーーーーーーー」
容疑者① 御影 藤矢
・男性
・シュリの側仕え
・「違う世界から来た」という彼方人
・国の人間とは違う感性や未知の知識でシュリを支える
・色々なことを知ってはいるが詳しく説明できない
・頭はそこそこ、戦力は皆無だがとても優しい一面がある
容疑者② リーン=サイフォル
・女性
・シュリの秘書
・文学、家事に優れ10年シュリと付き合いがある
・シュリの業務を代わりに行うこともできる
・藤矢がミスすると厳しく叱る
・趣味は編み物と読書
・シュリが全幅の信頼を寄せている
容疑者③ レオーネ=マイン
・女性
・シュリの軍隊を指揮する将軍
・陽気な性格で口笛がクセ
・誰からも好かれるムードメーカー
・リイーンと同じシュリとは長い付き合い
・食べることと寝ることが好き
「ーーーーーー……
この三人のうちの誰かです」
シュリは苦虫を噛み潰したような顔をしながら答えた。
その話を聞き真っ先に否定したのが、この三人を知っているであろうチェルシーだった。
「いやいや! ありえないだろっ!
三人ともお前のかけがえない……信頼している奴らだろっ!」
「チェルシー!」
大声でシュリがチェルシーの言葉を遮る。
「私もわかってる! 三人とも私は大切だ!
だけど、それしか考えられないんだっ!
作戦はこの三人でしか話さない!
そして、その内容が筒抜けだったんだ!
他にいないだろう!」
「……ぐっ」
シュリの声にチェルシーが納得の行かないような顔で黙った。
重い空気の中、ふと温かく優しい匂いがした。
「ブルーミントの紅茶でございます」
みなせが全員の前にティーカップとソーサラーを起き、お湯を注いでゆく。
一口飲んだロサナがほぅ……っと一息付き話しかける。
「二人とも落ち着きなさい。シュリ……話を聞いて気になったのだけどどうして最も信頼している三人を疑っているのかしら?
誰かが盗み聞きしている可能性もあるのではなくて?」
「それはない……
だって私がこの【七眼】で確認したから」
そう言ったシュリは片手で片眼鏡をしている方の目を隠した。
手が離れたときシュリの瞳は青白く輝いていた……
第6夜会 内通は如何にして-ヒーリングメッセージ(中編)へ
つづく
内通者は誰なのか……
今回はこの時点の情報だけでは真相までたどり着けません。
しかし、ヒントはごさいます。
中編をお楽しみに




