6 幼児に進化しました
転生して5年経ちました、幼児です。
いやぁ、乳児期間は辛かった……
時間が過ぎるのが遅くて遅くて。
しかも、成長するのも遅い。
最初の1年程は前世の人間と変わらない成長ぶりだったのに、1歳を過ぎて卒乳し、一人で歩けるようになってからが長かった。
3歳位までは、2足歩行よりも4足歩行の方が早く、しかし、それをすると2足歩行の練習にはならないというジレンマ。前世の弟は3歳には庭を走り回っていた。5歳になった今、ようやくその域に達しようとしている様だ。
エルフはこんな深い森の中に住む様な民族だというのに、こんなに子供の成長が遅くていいのか……?生存競争で生き残れる気がしないのだが……
5年も経つと流石に言葉もわかる様になってくる。
今はまだ舌が上手く回らず片言だが、大人の言葉の大体の意味はわかる様になった。簡単な文章なら書けるようにもなっている。
そして、色々な事柄が分かってきた。
まず、俺は、普通のエルフではなく、ハイエルフという種族になるということ。
ハイエルフは普通のエルフよりも長寿で能力も高く、エルフの上に立つ支配者層になるという。この国では王族扱いとなるらしい。ちなみにハイエルフとは古代エルフの言語で『エルフを導く者』というらしい。
エルフ同士から先祖返りの様な形で、たまにハイエルフが生まれる。なので、ハイエルフの血を引くエルフは貴族という形で管理されているとか。
俺の家族で言えば、母の父、つまり俺の母方の祖父がハイエルフで、父は遠い先祖にハイエルフがいた為、ギリギリ貴族の枠内にいたらしい。
ちなみに、母の父であるハイエルフが今のこの国の王をやっていて、母は王の娘で、父に降嫁してきたお姫様だった。厳密には母はエルフなので王族にはならず、姫ではない。だが、王の娘に他に呼び名がついていないので姫とは呼ばれていたらしい。王の娘や息子は結婚すると普通の貴族扱いになるらしい。微妙にややこしい。
エルフってもっとこう、世俗的なものとは縁が薄そうなイメージだったのだが、国の形態を取るとこうなるもんなのだろうか。王族とか貴族とか、人間社会と変わらないな、と思っていた。ら、どうやら人間の国を参考にしてこうなったらしい。諸外国と外交を行う上でこうなったとか。外交、するんだ……。なんとなく鎖国しているイメージだった。
王族は城郭で分けられているこの都市の一番内側の1層目に住んでいて、貴族は2層目。それ以外が3層目に住んでいる。父と母が結婚した時は2層目にあった父の屋敷に住んでいたらしいのだが、オレが産まれた事で、王族になるオレに合わせる形で一層目の王族居住区に引っ越しをしたのだとか。
それで末端貴族の小さな屋敷から王族の大きな屋敷へと移動になった為に使用人の人数が足らなくなり、だがハイエルフの赤ん坊がいる家に下手に人を増やす訳にはいかず、ワタワタになっていたらしい。そもそもハイエルフ自体が滅多に産まれず、実に300年ぶりの誕生だった為に起こった準備不足。仕方のない事だった。ちなみにエルフ自体が長寿な為か滅多に産まれないらしい。だがハイエルフ程ではないらしく、10年に1人は産まれてるとか。
そして、エルフの寿命は1000年ほど。ハイエルフは一万年位あるらしい。鶴亀か。
ハイエルフの寿命に関しては、多分それ位ってことで、実際には分かっていないらしい。生物というよりも精霊に近い存在であるとする説もあるとか。
現在周辺国内では1番古い王国になっているのがこのエルフ国だ。他の国は滅びたり新興したりと、忙しいらしい。ノンビリムードなエルフ国には関係無い風な顔をしているが、何度か攻め込まれたりはしているらしい。「えるふのれきし」という本に書かれてあった。幼児向けの本です。
そして、「えるふのおうこく」という本には、エルフ国の成り立ちや形態が書かれてあり、初代王が現在進行形で王様やってるらしい。お祖父様のことだ。
とは言っても、実際の執務を摂っているのは宰相や大臣達らしく、実務はあまりしていないのだと、本人が言っていた。そして、会う度に言われる。
「排泄物を掛けられたのは初めてだ。」
と……。
はい、皆様なんとなくお気付きだったでしょうが、あの超絶美青年です。
産まれてからの引っ越しやら何やらで、ある程度落ち着いた頃に孫に会いに来たのが生後4ヶ月のあの時だったらしい。その節はご迷惑をおかけしました……。赤児のした事なので勘弁して下さい……。
そして、そんなお祖父様は言っていた。
「ハイエルフになんてなるもんじゃ無い。」
と……。
いや、成ろうとして成るもんじゃ無いだろう。というツッコミは置いておいて、何故、そう思ったのかというと、
「ハイエルフは種馬だ。この齢になっても子を作れと言われる。今回お前が産まれた事でまた勢い付いて攻められているのだ。お前が産まれた事は喜ばしいことだが、同時に面倒な事が増えた。側室がまた増えた。」
心底面倒そうな顔でぶっちゃけ過ぎてくる。幼児に何言ってんだあんた。
「お前もその内こうなるから、ちゃんと自分の好みを持って断る時は断るようにしないといけないぞ。」
そう、お祖父様は遠い目をしながらハイエルフの心得を説いて下さいました。
ハイエルフは、数が極端にすくなく、王族居住区に住んでいるハイエルフの数も5人程度らしい。内1人は高齢で、お祖父様の前の族長(国王になったのはお祖父様の代から)で、残りの4人は全てハーレムを持つ事が義務付けられているのだとか。高齢の元族長のハーレムは最後の1人が寿命でお亡くなりになった以降は新しい奥さんと結婚する事は拒んでいて独り身らしい。現在知識の塔と呼ばれる図書館みたいな場所に引きこもっている。
王国内に居るハイエルフはこれで全部らしい。そりゃ絶滅危惧されてもしょうがない。王国の外に姿を晦ましているハイエルフも居るらしいが、能力値が高く捕獲が困難で放置するしかないらしい。捕獲って……。ハイエルフの扱いに物申したくなってきた。
そんな中での新たなハイエルフの誕生である。相当テンションが上がったらしく、他のハイエルフ達にその余波が行ったらしい。流石に幼児には配慮して、婚約者の打診は議会に提出とかいう形で、政府の方でなんとか対応しているらしい。好みのタイプの確認は時々チラチラとくる。
「エリエルド様はどんな物が好きですか?」
お祖父様の御前を退出してると、ついて来ていたディル君が話しかけて来た。
あの話の流れからのこの質問。
「そうだなぁ。この位の大きさで、丸くてぷるんとしてて白くてワンポイントはピンク色がいいかな。」
「ピンク?」
「そう、ピンク。清楚な感じでいいよね。」
5歳児の会話としては如何かと思うが、聞かれた質問には素直に答えた。お祖父様にも言われたしね。好みのタイプはハッキリ言っておかなきゃね。
後日、ディル君から、乳白色でワンポイントのピンク色がツンとした先に色付いていて可愛らしい、ぷるんとしててぷにぷにの、スライムを貰いました。
5歳の誕生日のプレゼントでした……。
「ちょっとこの色味を探すのに時間が掛かっちゃいました。遅くなってしまってすみません。」
穢れた思考の幼児にディル君の純粋な笑顔は眩しくて
俺は、自分が恥ずかしくなってしまって顔を真っ赤にして震えた声で涙目で
「ありがとう」
と言うのが精一杯でした。