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4 乳児の初恋。しかし即失恋。

 つかまり立ちができる様になってきた乳児です。こんにちわ。


 やっぱり二足歩行はイイね!圧倒的に行動範囲が違う。しかしハイハイの方が高速に移動が可能だという不思議。赤ん坊という生き物はどうなっているのだろう。壁を伝い歩きして移動するのも割といけるのだが、手を離すと尻餅をついてしまう。この丸々としていてちっちゃいあんよだと、まだハンドフリーでは歩けないのは仕方ない。


 動けるようになってさっそく始めたのが周囲の調査である。主に、屋敷内のどこに何があるのか、とか。本などを読んで知識を得るとかはまだ考えていない。だって、文字読めないんだもん。絵本で少しづつ勉強してます。

 この世界の本は子供向けの絵本の制作が出来る程度には安価らしい。紙も前世のものと比較すると少々荒いが、十分な出来だ。魔法を使っているのだろうか。見た感じ手書きではない様なので、何かしらの印刷技術がある様だ。

 そんな感じで屋敷内の様々な物品を発見、検証して知識を蓄えているところです。今の所、前世と比べると生活レベルが極端に劣るということもない様だ。トイレもあるし、お風呂も毎日入れてもらってるし。他にも色々興味を引かれるものがあるので、楽しく脱走している毎日です。 


 今日もベビールームを抜け出し、家中を徘徊しています。そしてメイドさんに発見されて連れ戻される。


『はいエル様、お部屋へ戻りましょうね。ドアに鍵をかけても無駄なのね……。流石だわ。』


 そんなわけで、本日最初の探検は脱走して5分で終了してしまった……。脱走を始めた頃は30分位は見つからなかったのに、最近は誰かしら部屋の傍に配置されているのか、即座に回収、収納(ベビーサークル内へ)されてしまう。ベビールームの片隅に造られたベビーサークルの中は赤ちゃん用のおもちゃや人形などの他に子供用のソファ、テーブル、木製の椅子2脚、絵本棚、などが配置されている無駄に居心地の良い空間である。サークル自体も木製でしっかりしていて品の良いウォールナットカラーに草木花の彫り物まで施されていて非常にお高そうな柵になっている。


 だが、所詮は赤児騙し。この俺には通用しないのだ。


 サークルのすぐそばまで椅子を移動し、その上に絵本を乗せていく。ちょうど良い高さになったらサークルの柵をつかみながら上に上がり、柵をまたぐ。反対側から絵本の上に足を乗せ、もう一方の足も外側に。そして、柵の内側の椅子に足乗せ、床に降りる。がっしりと丈夫でしっかりした作りの柵だからできる技だな。


 ふ、完璧だ……。


 最後、脚の長さが足りなくてコロンとなったけど、赤ん坊の軽くて柔らかい体だから問題ない。あとは、逃走経路を発見されると困るから、証拠隠滅、証拠隠め……


『なるほど。こうやって脱走していたわけですね。』


 いきなり聞こえてきた背後からの声にびっくぅっ、となって振り返ると、そこにはにこにこと笑みを浮かべるいぶし銀な執事風エルフのセバスさんとさっき俺を捕獲収納したメイドエルフのティナさんの呆れ顔が。ひぃぃ、セバスさんその笑顔、なんか怖いぃぃぃ!!


 びびって固まってると、メイドエルフのティナさんに捕獲(抱っこ)されてしまった。


 この二人はほぼ毎日顔を合わせるので名前と顔くらいは一致できる様になった。他に名前と顔が一致するのは、父アレク、母リリィ、遊び相手のディル君くらい。他にもいくつか簡単な単語の意味くらいなら理解できる様になってきた。『おはよう』、とか『おやすみ』、とかね。あとは恐怖の、『ごはん』くらいかな。


『エル様、こんな危険なことをして、お怪我でもされたらどうするんですか。』


 なので、こんな長文は意味がわかりません。でも、反省した顔はしておこう。ごめんね。きゅるん。


『そんな可愛い顔してもダメです!くっそ、この天使ちゃんめ!!』


 ん?ののしられた?


『ティナ、いくら赤児とはいえ、その言葉使いは不敬ですよ。…しかし、こうも脱走されると少し問題ですね。』


『セビアスさん、問題って?』


『屋敷の中は赤児には危険な場所もありますし、この調子だと、外に出てしまう事もあるかと。お部屋の中で遊んでいてくださると助かるのですが、エル様は賢くて好奇心が旺盛なご様子ですからね。』


 セバスさんが銀縁眼鏡をクイッとあげたて冷たい眼光でティナを見やる。ティナが思わずビクッと震えた。抱っこされている俺もついビクッとなる。怖い。この鬼畜執事。いや、実際鬼畜な場面は見たことないけど。だが、雰囲気が言っている。鬼畜だと。


『いっその事、ティナの背中に紐でくくりつけておきますか。』


『いやいやいや、それはちょっと、あたしも仕事があるし、無理ですよぅ。』


『世間一般の奥様方は皆その様に子供を育てていますし、その内あなたもそうして育てて行くのでしょうから、今の内に練習をしておけば良いかと。』


『相手もいない私に!なんて非道!しかもこの前、彼が出来そうになったのに、潰したのセビアスさんじゃないですかぁ!』


『まぁ、実際のところ、ティナに一日中張りつかせておくのも、人手の少ないこの屋敷では難しいですし、奥様がいらっしゃる時はなるべく見ていてくださっているけれど、屋敷内の采配や領地の執務、本日のようにお出かけになる事もありますしね……やはり、エル様の安全の為には、ガンドルフにこのベビーサークルの改良を依頼するのが一番でしょうか。乳母を雇うのは難しいですからね。』


『ぐぐぅ、無視された、悔しいよう、エルさまぁ……』


 なんだか、鬼畜執事にいじめられたのか、ティナさんが涙目になってぎゅっとしてきた。頭を撫でてやるか。よしよし、いいことあるよ。たぶん。


『エル様、お優しい……。』


 感動したような表情で見つめてくるティナさんに、容赦なく言葉をかけてくる鬼畜執事。


『とりあえず、ガンドルフに相談しますので、ティナはしばらくこの部屋の周囲で仕事、時々エル様がいらっしゃるかどうかの確認をお願いしますね。』


 そう言って、セバスさんは颯爽と去って行った。いや、何言ってたのかはよく聞き取れなかったけどね。俺はティナさんにベビーサークル内へ戻された。そして椅子やテーブルを撤去される。あぁ踏み台が……。


『では、エル様、く れ ぐ れ も、脱走しないように、お願いしますね。』


 やはり、本日は大人しくしておいた方が身のためである様だ。




 そんな事のあった次の日。


『おう。邪魔するぜ。』


 野太い声とともに、背の低いおっさんがベビールームに入ってきた。


 ドワーフだ!


 どう見ても、ドワーフだ!


 人間の子供くらいの身長で赤ら顔。髭がフサフサしている。おお、エルフ以外の種族を始めて見た。


 まじまじ見ていると、ドワーフのおっさんは、背中に背負っていた荷物を降ろして、ベビーサークルを弄り出した。ちなみに俺はベビーベッドの上に居ます。牙の生えたうさぎさん人形と遊んでいます。毛皮がすごくリアルなのが怖い。これ、もしかして本物のうさぎ皮で作られてるのかな。牙は何で出来ているのだろう、などと検証しつつ、遊んでます。


『では、ガンドルフ、よろしくお願いしますね。』


 あ、鬼畜執事いたんだ。


『おう、俺の作ったベビーサークルだからな。安全性に問題がある以上は責任持ってなんとかするぜ。』


 セバスの声かけに振り向いて返事をしている姿は、前世の小説の様に仲が悪そうには見えない。職人気質ではあるが、頑固そうって訳でもない感じだ。

 それから、しばらく作業を続けていると、またベビールームの扉が開いた。


『あんた、お弁当忘れてってたよ。』


 そう、ドワーフのおっさんに声をかけて入ってきた人を振り向いた瞬間。


 目に飛び込んできた、そのひとに、おれは目が釘付けになった。



 ふわあぁぁあぁ!


 おっぱいだぁぁぁぁ!!!


 あったぁぁあぁぁ!!!!



『おお、ありがとよ。』


 ドワーフのおっさんが巾着式の布袋を受け取ると、その人は、こちらを向いた。


『あれ、べっぴんさんだねぇ。うちの子と同じ位かね。ティナさん、抱っこさせてもらってもよろしいんで?』


『えぇ、人見知りはない様なので大丈夫だと思いますよ。』


 あ、ティナさんいたの。


 その人が、近づいてくる。ふぉぉぉぉ。抱っこされたぁぁぁぁ!!!


 夢にまで見た、ふかふかのおっぱい。




 俺は、恋に落ちた。




 そして、数瞬後に、ドワーフのおっさんに、お弁当を渡している姿を思い出す。


 どういう、ご関係?


『そんなに時間はかからねぇから、夕方には帰るぜ。』


『あいよ、頑張ってな。』


 ドワーフのおっさんは、その人のほっぺにちゅうをした。そして、その人もちゅうを返す。


『新婚さん、いいなぁ。』


 ティナが羨ましそうに呟く。ありがとうございました、とその人が俺をティナさんに渡す。そして、ティナさんは俺をベビーベッドへ戻す。


 あ、おっぱいがっ。


 思わず手を伸ばすが、届かず、空を掴む。


 そして、にっこり笑顔で、出て行くその人に、ドワーフのおっさんは、手を振って、『さ、仕事仕事』とベビーサークルに戻って行った。


 その人が出て行った扉と、ドワーフのおっさんを何回か見て、悟った。


 人妻、か……


 俺は、失恋、した。


 そして、ベビーベッドに突っ伏して、牙の生えたうさぎの人形をぎゅっと抱き締めると、精霊達が「エル〜」と慰める様にワサワサ寄ってくる。普段は周囲に飛散しているが、遊んでたり落ち込んでいるとこうして寄ってくるのだ。


 今世初の恋をした、その人の笑顔を思い浮かべる。


 その人、ドワーフのおっさんの奥さんには、ドワーフのおっさんもかくやという程に


 立派なヒゲが生えていた。




ドワーフだからね。

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