1 異世界に転生した乳児です。
初投稿です。
※基本的に主人公がおっぱいおっぱい言ってるだけの小説です。
どうやら俺は転生した様だ。
唐突に何だと思われるかも知れないが、まぁ、聞いてくれ。
今、俺はベビーベッド?の上で身動き取れずにいる。大きい布地に蓑虫状にぎゅうぎゅうに包まれて寝かされているのだ。顔は出ているので息は出来る。しかし、手足は動かせない、だがそれが何故か心地良い。
落ち着く所為か、すぐに眠くなってしまうのが困りものだ。
赤ん坊ってのはこんなに眠くなるもんなのか。
身体はぐにゃぐにゃだし、首も動かせない。
産まれた瞬間は全身痛いわ、苦しいわ、腹はすぐ減るわ、柔らかいふやふやしたものから出る液体を少し飲むと腹は膨れるけど、ちょっとでも飲みすぎると戻すわで散々だった。思い出したくもない。
昼夜わからず短いサイクルで寝たり起きたりを繰り返してるので今自分が生まれて何日目なのかなんて全く分からない。起きてる間もぼやーっとした視界の中、柔らかなベッドの上でゴロゴロしているだけだ。
ひたすら、寝る、飲む、寝る、出す、寝る、の繰り返し。
どう見ても考えても、成人だったはずの自分が赤ん坊になってしまっているのは間違いない。
転生したと理解したのはこういう状況だからだった。
何故、こんなに俺が落ち着いてこの状況を受け容れる事が出来ているのかというと、前世の最期の記憶が残っているからだったりする。
生前の俺は就職したての新人サラリーマンだった。そこそこの会社に入って、適度に稼いで適度に貯金し残りは趣味に費やすという、平々凡々の人生を歩む筈だったのだが、何の因果か、休日に街歩きをしていたら偶々再会した友人と昼メシを食べて、別れた直後に暴走トラックにはねられたのだ。
うん?今改めて考えてみると、あれが噂の転生トラックか。
とにかくほぼ即死状態だったわけだが、死ぬ直前に「超絶イケメンに生まれ変わっておっぱいハーレムつくりたい」と願ったのだ。何故超絶イケメンかというと、普通のイケメンだと微妙だが、超絶イケメンなら多少中身がダメでも顔面効果で何とでもなると前世の経験で悟っていたからだ。いわゆるイケメンならば許されるというやつを狙ったのだ。本気で転生なんて信じていたわけではないのだが、人間、瀬戸際には人格が出るよね。主にダメな方面で。結局彼女無しのままで前世を終了しなければならなかった無念がこの状況を生んだのかもしれない。
そして、今現在のこの状況を鑑みるに、もしや願いが叶ったのでは?と思っている。
だが、前世での意識が途切れた次の瞬間には温かい水の中(今思うと現世母の胎内)に入り、出て来て、今に至るのだがその間に精神力が試されたというか、なんというか、ガンガンに削られたというか。つまり、あれだ。悟りが開け無我の境地へと至ったというような、まぁ、そんな感じで混乱期は過ぎ、今現在はなるようになれという感じデス。
多分、今の俺は無表情で遠い眼をしている不気味な赤ん坊であろうが、仕方ない。
現世両親には申し訳ないがそういう仕様だと思ってもらいたい。まぁ、そこら辺はあんまり気にされてはいない様だが。
ていうかなんで、ノータイムで、胎児からなんだよ、おかしいだろ。前世を思い出すにしても、せめて乳児期を過ぎてからにして欲しかった。
まぁ、こんな状況で、精神が退化して中身も赤ん坊になってしまわなかった事は自分を褒めたいと思う。いや、むしろそうなってしまっていた方が幸せだったのか?
さて、最近ようやく目が少し見えるようになってきて、近くにある物はだいたい見えるようになってきた。首もぐらぐらしていたのがやっと固まってきたところだ。
前世の弟の首が座ったのが生後3ヶ月頃だった事を考えると、3〜4ヶ月ってところか。……同じ世界の同じ人種であるならだけど。
どうも、周りの環境を注視してみると、前世とは微妙に違う印象を受けているのだ。というのも、見える範囲で不可思議なものが浮かんでいるのだ。
『エル、起きた?遊ぶ?遊ぶ?』
その不可思議なものが寄ってきた。いろんな色を発しているホタルの光みたいな奴らだ。よく話し掛けられているような声が聞こえるが、言葉はよく分からない。しかし何だか嬉しそうにふわふわと俺の周りを飛び回っている。触った感じ、ふんわりと温かかったり冷たかったり、空気を掴んでいるような感触がある。すり抜けたりもするが、大抵は大人しく掴まれたままだ。
動けずヒマなのでそれらを数えてみたり、近寄ってきた奴等にプーっと息を吹きかけたりしている。
蓑虫状態でない時には手を持ち上げて掴んでみたりもするが、今はぎゅうぎゅうに巻かれていて出来ないので、近寄って来る奴等に息を吹きかけるのが精々だ。
後は、パクッとしてあむあむして、ぺっとね。乳児はお口でモノを認識するいきものです。流石にごっくんまではしない。多分腹をすり抜けて出てくるとは思うが。
俺が暇つぶしに色々すると奴らは喜ぶのか、キャッキャッと声を出し、動きを早くして俺の周りを飛び回る。
ホタルの様だが、カラフルだ。そして、日中だ。
多分、精霊とか妖精とかいう奴らなんだろう。妖精というと前世の絵本やアニメに出てくるのを思い出すがそういう形があるものではないので、自分の中で精霊と呼ぶことにしている。
『エルちゃん、ごはんの時間ですよー。』
現世母(推定)がやってきた。美人である。うむ。くるしうない。近う寄れ。
言葉は何言ってるのかわからないが、多分ミルクの時間なのだろう。
抱き上げられて、抱き寄せられ、まな板のような胸に口を寄せさせられる。
そうなのだ、まな板なのだよ、諸君。
母は近くで見上げると、本当に美人だ。輝かんばかりに美しい、という言葉が普通に頭に浮かぶ。
だが、まな板なのだ。
下手すると、現世父(推定)の胸筋の方が大きい。
一応、まな板とはいえ、ふにゃっと柔らかな膨らみはあるので、ゼロではない。
だが、授乳期でさえこの大きさなのだ。平時には……いや、考えまい。
しかし、前世では名の通ったオッパイストであった俺としては非常に残念である。
母親の胸がないことを残念がるなって?その通りだ。
残念なのは母親だけではないのだ。世話をしにこの部屋にやってきてくれる女性陣、軒並みなのである。
種族的なものなのか?
そんな俺の心中など知らず、母はニコニコと聖母の様な笑顔で無表情な赤ん坊に授乳をしている。
俺がちゅうちゅうと吸いながら、見上げると、翠玉の様な瞳を柔らかく細めて嬉しそうな笑顔で見つめて来るので、最初の頃は照れたり戸惑ったりしたものだが、無我の境地に至った俺には大した問題じゃない。
ふわふわクルクルとした金茶色の髪の毛は、前世の俺としては受け容れ易い色合いだ。
なにせ、この部屋に出入りする人々はそれはカラフルな色あいをしているのだ。
赤、茶、金、は、まだ良い。
緑、ピンク、青とは何なのだ。異世界か。そうか異世界か。
未だ見えぬ自分の髪の毛の色が、受け容れられる色である事を願う。
そして、特徴的なのは、その髪の間から飛び出している、とんがった耳だ。
その耳が目に見えた時、思わず自分の耳を掴んでしまった。
長かった。前世で読んだ小説に出て来た、エルフという種族名が思い浮かんだ。
母の耳と触った感じの俺の耳で対比すると、母の耳よりも若干長めな事が分かった。
父の耳は母と同じ位の長さなので両親よりも大分、耳が長い様な気がする。
だが、父も母もその他の人々も気にせずにこにこしてくるので、特に問題がある様には見えず、赤ん坊の頃は耳が長いもので、大人になると父や母のような耳の長さになるのかもしれないと、思ったりもした。
しかし、何日か前に、事態は一変する。
この部屋に一際豪奢で王様の様な威厳のある美青年がやってきたのだ。
いつもこの部屋を出入りする人々は、皆それぞれ美形だ。父も母も前世であれば二度見するほどの美形だ。
だが、この新たな人物は筆舌にし難い程の迫力ある美形だった。表現が適当過ぎる?申し訳ない。だが、この、前世ではテレビや雑誌でさえ拝めなかった超絶美形と呼ぶにふさわしい美青年を表現できる語彙力を俺は持たない。
白金色の長いストレートの髪、頭に金の飾りをしていて、キラキラ度が増している。心なしか後光が差しているかの様だ。あ、精霊たちか。紛らわしい。
深緑の瞳にけぶる様な長い睫毛。瞬きする度にバサバサと音が聞こえそうな上に光を反射してキラキラと星が零れるかの様である。なによりも、その オーラが支配者であると言っている。実際 周りの人々が傅いている。父と母でさえも。
そんな彼の耳は長かった。
その超絶美青年に優しく抱っこされ、微笑まれ、俺は混乱した。
今まで父母だと思っていた人物たちは俺の何なのだ。
授乳をしている人物は母で間違いないと思う。赤ん坊の勘だ。
では、その母と何時も抱き合ってラブラブちゅっちゅしている人物は父親ではないのか。
耳が長い俺と、同じ位耳が長いこの超絶美青年の関係は何だ。
超絶イケメンに生まれ変わるという望みが叶ったとすると、もしやこの人こそが俺の父親なのか……?
とすると母がラブラブちゅっちゅしている父と思わしき人物は何者だ。
思わず固まってしまった俺を不思議そうな瞳で見つめ、何事かを母に話しかける超絶美青年。かなり親しげな様子である。
豪奢な衣装越しに感じる分厚い胸板。見た目に反して胸筋がある。細っそりした印象を受けるが、身体はしっかり造られている様だ。
母より厚みのあるそれに気が行った所為か、緊張感が一瞬途切れた。
ふっと、息を吐いたとたん、あ、ヤベ、と思った時には遅かった。
オムツ替えの屈辱をなるべく減らすべく、いつも貯めに貯めていたものが決壊し、ジャバーッとなった。
辺りは一瞬にして時間を停止した様にシンとなり、俺の意思によるコントロールの未だ効かない身体は、毒くらわば皿までだとばかりに、出来立てほかほかのものをオムツに放ったのだった。
俺の輝かしい今世の真白き1ページに、黒き歴史が刻まれた瞬間だった。