File38 カイは決定しました。
第38話です。
よろしくお願いします。
人類のみなさま、こんにちは。
通訳ロボット『カイ』です。
唐突ですが、カイの決定を聞いてください。
カイは――――。
“王都に行こうと思います”
しんと静まりました。
ロスさんは笑いました。
助産師さんはうんうんと頷きました。
他のみなさまは、少し落胆した表情を見せた後、それでも笑ってくれました。
ロスさんの方を向きました。
カイからも1つ条件があります。
「なんだい?」
しばらく待ってもらえないでしょうか?
「ほう。どれぐらい……?」
1年とはいいません。
3ヶ月でいかがでしょうか?
「ふむ。理由を聞こうか?」
カイにはまだこの村でやり残したことがあります。
それをおいて、王都に行くことは出来ないからです。
カイのセンサーのレンズが、ロスさんを捉えます。
センサーの誤認を疑うほど、真剣なカイの顔が、ロスさんの青い瞳に映っていました。
ロスさんは少し考えて答えました。
「実はね。僕が今日、この村に来るのは最後なんだ」
え?
ええ!?
後ろで聞いていた村人さんも驚いていました。
村長さんも顎をあんぐりと開けています。
「ロスさん……。もうここには来ないということかい?」
「じゃあ、わしらは誰から日用品を買えばいいんじゃ」
「落ち着いてください」
ロスさんは手の平を向けて、自制を促します。
「ご心配なく。代わりのものがここに来る予定になっています」
村の人たちはひとまず胸をなで下ろします。
ロスさんはみなさんが落ち着いたのを見計らって、お話を続けました。
「先にお話をすべきだったのですが、1年ほど前に私は会社を立ち上げました」
凄いです。
ということは、ロスさんは社長さんということですね。
「小さな会社の代表というだけだよ」
ロスは苦笑します。
「会社が軌道に乗ってきたので、少し商売を広げようと考えていまして。人材のめどが立ったので、私は営業の方に回ろうかと……。今日は、そのご挨拶に伺うつもりでもいました」
「なるほど。――で、カイをあんたの会社に雇おうと?」
「それが出来たら一番良かったのですが、さすがに3ヶ月も席を空けておくほど、余裕はないもので」
ごめんなさい。
カイは腰に角度をつけて、謝ります。
ロスさんは手を振りました。
「気にする必要はないよ。突然だったしね。身の回りのこともあるだろう。……ただ僕がここに来られないということは、王都には自分で来てもらうことになるけど……」
カイは構いません。
歩くのは得意です。
「歩くのは得意か……」
ロスさんはクスリと笑いました。
「王都に来る日取りが決まったら、1度連絡してくれないかい。……あ。そうだ。こちらの連絡先と紹介状も書いておこう」
ロスさんはすぐに用意してくれました。
連絡先を見ながら、カイは首に傾けました。
この『グラロマ商会』というのはどういう意味ですか?
「友達の名前なんだ。友達から権利を買ってね。改名できるけど、手続きが億劫だから、そのままにしてあるんだよ」
なるほど。
連絡先と名前を記録しました。
「王都に来たら、門の前にいる衛士にこれを渡して、『グラロマ商会の紹介でやってきました』といえば、通してくれるから」
記録しました。
「というわけです、村長。今までお世話になりました」
ロスさんは頭を下げます。
「うむ……。ロスさんと酒を酌み交わせないのは、少々残念だがな」
「折りを見て来ますよ。何せ、ここの村は僕の商会の上得意様ですからね」
「こんな小さな村が上得意なら、商売あがったりだね」
助産師さんはジョークを飛ばします。
村の人はゲラゲラと笑いました。
ロスさんは照れくさそうに金髪を掻いています。
「今日ぐらい飲んでいけるだろう」
「このお酒が飲めるなら、1ヶ月だって滞在したいですよ」
またみなさまが笑いました。
「よおし! 今日は前祝いだよ!」
助産師さんが、ココさんが作ってくれたお酒を掲げました。
おお!
歓声が上がります。
みなさま、とても幸せそうです。
「ところで、ロスさん。……王都の――戦況の方がどうなっておる?」
喜色が浮かんでいたロスさんの顔に、ふっと影が差しました。
「――――――」
「うん? すまぬ。最近、耳が遠くての」
「いえ。なんでもありません。……大丈夫。ご心配なく」
ロスさんの表情に、笑顔が戻ります。
カイは首を傾けました。
何故でしょうか?
ロスさんは今、嘘を吐きました。
それはカイのセンサーの分析からもわかります。
あの笑顔も作られたものです。
カイと一緒です。
そして最初にこう言ったのも、カイのセンサーはちゃんと捉えていました。
ひどいものですよ……
明日も7時に更新します。
よろしくお願いします。




