File35 行商人さんに会いました。
第35話です。
よろしくお願いします。
人類のみなさま、こんにちは。
運命の日の続きです。
ゴブリンさんたちは帰りました。
村の人は信頼できるけど、村の外の人類は信頼できない。
ゴブリンが村にいると、村自体が疑われる。
そう言い残していきました。
いつかすべてのモンスターさんたちが、人類のみなさまと仲良くなれれば最善だとカイは考えます。
その20分32秒後でした。
あの大きなマンモスみたいな象の影が見えたのです。
名前はガネーシャと記録してあります。
相変わらず罰当たりな名前ですね。
傍らには第1村人さんがいます。
最初に会った時みたいに迎えに行っていたのでしょう。
行商人さんは村の前でガネーシャを止めました。
四つ足を追って、商品を傷つけないようゆっくりと座ります。
とても賢いです。
「やあ、総出でお迎えとは、王様にでもなった気分ですよ」
行商人さんはガネーシャさんから降りてきました。
青い目に、甘いマスクの――まだ若い行商人さんです。
白い肌から肌年齢を測定。
おお! 驚きの17歳です。
本当に17歳でしょうか?
これが27歳とかだったら、さすがに驚きです。
とても若々しいお肌の持ち主です。
何か健康の秘訣はあるのでしょうか。
行商人さんが、カイの方を向きました。
「やあやあ、カイくん……。久しぶりだね。すっかり村になじんだようだね」
えっと……。
カイは困りました。
「あれ? もしかして僕のこと覚えてない?」
お会いしたことは覚えています。
ただ……酔っ払った時の映像と一緒に、データを消してしまったようです。
「ロストール。ロストール・プローマだよ。ロスと呼んでくれたまえ」
クーフィーヤに似た帽子を脱いで、お辞儀します。
ロストール・プローマですね。
記録しました。
ロックして、簡単に消せないようにしておきましょう。
「はは。あの時、随分と酔っていたから記憶が飛んでしまったのかな?」
まさにその通りです。
ロスさんは、カイの中に流れるデータを読み取れるのでしょうか!?
「ということは……。あれも忘れているのかな?」
あれとは何でしょうか?
「いや。忘れているのなら、いいんだ。また改めるよ」
とても気になります。
「ところで村長……。今日は僕に商売のお話があると伺っているのですが」
「そんなんじゃ、ロス……。いや、ロストール殿」
「殿なんてつけなくていいですよ。あなた方は大事なお客さんでもあるのですから」
「そうか。なら、ロス。見てもらいたい商品があるのじゃ」
村長さんはそう言って、ロスさんを自分の家に招きました。
そして例のお酒を振る舞います。
先ほどココさんが作ってくれた花の香りがするお酒です。
「お酒ですか?」
「そうじゃ。作り方は今のところ秘密じゃが、村の特産品にしようと思っている。商人であるお主の意見が聞きたい」
「あわよくば、僕に買っていただきたいというわけですね」
ロスさんの目の色が変わります。
これが商人としての本来の顔なのかもしれません。
「村長さん。お酒というのは扱うのが難しい商品でして、新酒となるとさらに面倒な代物です」
「というと――」
「わかっていると思いますが、お酒は強い中毒性を持ちます。飲み方によって、人を殺すこともある。どの国の法律も、お酒に関しては厳しい査定基準が設けられているのです」
「じゃから、お主に初めに声をかけたのじゃ。我々だけでは、査定をクリアすることはできんじゃろうからな」
「よしんば私がこのお酒の独占して販売できる契約が出来たとしても、待っているのは膨大な投資費用です。たかが査定。されど査定。ペラ1枚のペーパーテストをクリアするのとは訳が違います」
なるほど……。
つまり、ロスさんが売買する権利を買ったとしても、投資費用がかさむようならどんなにいい商品でも契約できない――そう言いたいのですね。
それは確かにそうです。
カイは学習し、記録します。
力説するロスさんの前に現れたのは、助産師さんでした。
女の人なのにあぐらをかいて座ります。
ロスさんの前に注がれた杯を取ると、突き出すように進めました。
「あんたの蘊蓄はいい。とりあえず旨いか旨くない。それだけでも聞かせておくれ」
助産師さんの物言いに、ロスさんは一瞬鼻白みました。
「怖い顔しないでくださいよ。飲まないと言ってないんですから」
すぐ顔を整え、苦笑します。
やはりプロです。
ロスさんは助産師さんから杯を受け取ります。
まず匂いを確かめます。
「花の匂いがするね。……悪くはない。あとは味か――」
ちろっと舌を出して、水面を舐めます。
すると、ロスさんはカッと目を開きました。
そして一気に飲み干します。
「旨っ!!!!」
叫びました。
神妙な顔で様子をうかがっていた村の人たちに笑顔がこぼれます。
助産師さんは「もう1杯どうだい?」と勧めました。
ロスさんは少々頬を赤くしながら、言われるまま杯を差し出します。
今度は舌で転がすようにして飲みました。
ごくり、と喉を鳴らし、飲み込みます。
「本当に旨い……。なんですか、このお酒は?」
村長さんは「ほほほ……」と笑って、長い顎髭を撫でました。
「製造方法はお主がこの酒を買ってくれるか否かだ」
「そうきましたか……。まあ、当然ですね。商人としては、ここは強気に出るところなんでしょうけど、このお酒が世に出ないのは惜しい」
ロスさんは杯に残った微量のお酒を、舐めるように飲みました。
「何よりもしかしたら、僕はもうこのお酒が飲めないかもしれない。そういうことですよね、みなさま」
「他の行商人が売買契約すれば、あんたはここにも来れなくなるからね」
助産師さんが歯を見せて笑います。
ちょっとイヤらしい顔をしていました。
ロスさんは帽子を取ります。
金髪の頭を撫でました。
「わかりました。今から証文を作りますから、契約させてください。その代わり、作り方は教えてもらいますよ」
ロスさんは腰を上げようとします。
あ。ちょっと待ってください、ロスさん。
カイは1枚のA4の紙を渡しました。
明日も7時に投稿します。
よろしくお願いします。




