File34 ココさんのアイディアです。
第34話です。
よろしくお願いします。
人類のみなさま、こんにちは。
通訳ロボット『カイ』です。
今日はお伝えした通り、行商人さんが来る日です。
運命の日です。
どうして、こんな誇張表現をするのか、と言いますと……。
実は行商人さんに試飲してもらって、お酒を買ってもらおうと、村のみなさまが考えているからです。
だから、今日は朝からみなさま、ソワソワしています。
行商人さんがやってくる村の東口には、いつもの1.2倍ぐらい人がいます。
みなさま、用もないのにウロウロしています。
出迎えに待っている村長さんも落ち着きがありません。
いつもより1.5倍増しで震えています。
唯一堂々としているのは、助産師さんだけです。
腕を組んで、仁王立ちです。
まるで今から喧嘩相手を待ち構えているようです。
カイも何かおかしいです。
自動的にどこか身体を動かしてしまいます。
その時です。
カイの聴覚センサーに反応がありました。
2つの足音です。
1つは大きな。2つは普通の足音です。
しばらくして2つの人影が見えました。
大きな影に、小さな影が寄り添うように歩いています。
「行商人じゃないね。ありゃ」
手を目の上に当てて、助産師さんは目をこらしました。
カイはすでに確認を終えていました。
ゴブリンのパパさんとココさんです。
「オハヨウ」
パパさんは挨拶をしました。
おお。どこで習ったんでしょうか?
人間の言葉で挨拶しました。
きっとカイが教えているゴブリンさんに教えてもらったのでしょう。
すかさず助産師さんは――。
「ウゴッ」
ゴブリン語で「おはよう」を意味する言葉で、挨拶を返します。
イントネーションが難しいのですが、助産師さんの発音は完璧です。
今日はどうしたのでしょうか?
「商人が来ると聞いた」
ゴブリン語で、カイに言いました。
「だから、新しい酒を持ってきた」
それはありがとうございます。
カイは頭を下げました。
すると、パパさんはココさんの背中を叩きました。
「ココ……。さあ――」
と促します。
ココさんは初めは戸惑っていましたが、前に進み出ました。
「これ……。やる…………」
獣の革袋を差し出します。
顔を真っ青です。
でも、視線を合わせてくれません。
ぷいっと背けています。
くれるんですか?
「…………うん」
小さく頷きます。
ありがとうございます。
カイはお礼を言って、革袋をもらいました。
すると、すぐにココさんは後ろに下がって、パパさんの身体に隠れてしまいました。
「もらってやってくれ。……それはココが初めて作った酒だ」
ココさんが作ってくれたんですか。
尋ねると、ココさんの顔はさらに真っ青になりました。
やがて……コクリ、と頷きました。
「開けて、飲んでみてくれ」
早速、カイと村長さん、助産師さんは飲んでみました。
「「「うまっ!!!!」」」
「いやー。相変わらずうまいのぅ」
「ちょっと雑味があるけど、口溶けもよくて。今から酒の肴でも作ろうかねぇ」
みなさま、夢心地です。少し顔を赤くしています。
でも、おかしいですね。
このお酒……。匂いがあまりきつくないです。
むしろいい匂いがします。
お花みたいです。
「気づいたか。さすがだな、カイ……」
パパさんが珍しく笑いました。
「お前たちが匂いを気にしていたから、花の匂いをつけてみたのだ」
それはナイスアイディアです。
「カイの言うとおり、いいアイディアだ。確かに匂いをいやがる人はいるだろうね」
「じゃが、これなら気にしなくても飲めそうだ。わしゃ、あの匂いは結構気に入っていたんじゃがなあ……」
口々にゴブリンさんを褒め称えます。
「礼ならココに言うといい。娘のアイディアだ」
ココさんのアイディアなんですか?
カイはココさんの方を向きました。
ありがとうございます! ココさん!
頭を下げます。
そして感謝の笑顔です。
ココさんの顔は、今にも青い炎を吹き出さんばかりに真っ青になっていました。
「べ、べべべべ別にあんたのためなんかじゃないんだからね!」
そう言って、走り去ってしまいました。
残念です。
もう少しお話をしていたかったのですが……。
「そんな顔をするな、カイ……」
え? 今、カイはどんな顔をしていたのでしょうか?
後で記録をたどってみましょう。
「娘はお前のことを結構気に入っているはずだ。でなければ、あの子がこんなことはしない」
パパさんは小さくウィンクをします。
身体はごついですが、なかなかチャーミングです。
カイの後ろで、村長さんと助産師さんが笑っているのを、背部のカメラで確認しました。
みなさん、なんで笑っているのでしょうか?
カイは首に角度をつけます。
自動的に、です。
そろそろココが可愛く見えてきたはず……!
明日も7時に更新します。
よろしくお願いします。




