File29 ゴブリンさんと会談です。
第29話です。
よろしくお願いします。
人類のみなさま、こんにちは。
通訳ロボット『カイ』です。
今日は、とても大事な日です。
ゴブリンさんは人類のみなさまがいる村にやってくるのです。
そして通訳ロボット『カイ』が一番頑張らねばならない日なのです。
是非とも、人類のみなさまのためにも、今回の会談は成功させねばなりません。
カイは足音を検知しました。
どうやらゴブリンさんがやってきたようです。
「う、うわあああああああ!」
悲鳴が聞こえます。
村のみなさまはすぐに自分の家へと逃げてしまいました。
鍵をかけて、戸締まりをします。
村の入り口に残ったのは、2人と1体だけです。
カイと村長さん、そして助産師さんです。
カイはいつものカイです。
助産師さんは口を真一文字に結んで、村の北口のほうからやってくるゴブリンさんを睨んでいます。
村長さんは震えていました。
足がかくかくしています。
対して、向こうからやってくるゴブリンさんは、全く物怖じしている様子はありません。
傍らにいる女の子のゴブリンも、凄い剣幕で睨んでいます。
パパさんとココさんです。
パパさんは何か動物の皮で出来た袋を持っていますね。
2人(2匹と称すると失礼なので)は村の入り口の前で止まりました。
少しご無沙汰しております、パパさん、ココさん。
「ああ……。カイ、この人たちは村の者か?」
はい。そうです。
村長さんと助産師さんです。
「そうか。……では、これを」
パパさんは持っていた袋を渡します。
持った感触から察するに、液体が入ってますね、これ。
何でしょうか?
「人間でいうところの酒だ」
お酒!?
カイの人工知能に、削除したはずの映像の一部が流れます。
自動的に、です。
おかしいですね。ちゃんと削除したはずなのですが。
消去します。
「畑を荒らしたお詫びをかねて持ってきた」
なるほど。それは素晴らしいことです。
カイは早速、村長さんに伝えました。
「ゴブリンのお酒?」
村長さんはとても驚いていました。
「なかなか気が利くじゃないか。気に入ったよ」
助産師さんは横で、お腹を抱えて笑います。
「飲めるのかのー」
村長さんは匂い嗅ぎます。
すると少し顔をしかめました。
無理もないかもしれません。
かなり強い刺激臭がします。
それを見ていたココさんは少しだけムッとします。
「おい。カイ」
なんでしょうか?
「それはパパの秘蔵品だぞ。こいつらは嬉しくないのか?」
秘蔵品だそうです。
「そんな大切なものをくれるってのかい?」
助産師さんが言ったことをそのまま訳します。
パパさんは頷きました。
「そいつはありがとね」
助産師さんはニコリと笑い返しました。
「さて、立ち話もなんだ。入っとくれよ」
手招きします。
ゴブリンの親子は、1度顔を見合わせたあと、少々戸惑いながら、村の中に1歩踏み入れました。
お二人は村長さんの家に招かれました。
どうやらパパさんには少し小さかったようで、座っていても頭が天井に付きそうです。
カイを挟んで、村長さんと助産師さん。パパさんとココさんが座ります。
中の空気は重たいです。
外にも会談の様子をうかがおうと、窓やドアの隙間から村の人が覗き見ていました。
1度、助産師さんに一喝されて追い散らされてしまいました。
「すまないね。騒がしくて……。なにぶん、モンスターを村に招くなんて初めてのことだからね」
助産師さんはドアを強く閉めます。
まるで自分の家のようです。
「理解はしている。おそらく逆の立場なら、我々もそうだったはずだ」
カイは通訳します。
「へぇ。本当に物わかりがいいんだね。……ゴブリンってもっと頭が悪いと思ってたよ」
カイは少しだけ思考時間を長く取ります。
なるべくオブラートに通訳しました。
「なんだと! 人間!」
それでもココさんは怒ります。
「悪いね。怒らせちゃったかね」
顔を真っ青にして怒るココさんの頭を、パパさんが撫でます。
「いや、事実だ。……我々は人間よりも力は強いが、そのため頭を使わなかった。人間のように道具を生み出し、作物を作れるようになりたい」
「人間の元で学びたいっていうのかい?」
パパさんは頷きます。
さらにお話を続けました。
「モンスターと人間は長いこと戦ってきた。ゴブリンは、繁殖能力が高くても、他の種族と比べて弱い。そのため今、とても個体数が減っている」
へぇ……。それは知りませんでした。
記録します。
「戦いはよくない。特に長い戦いは……。だから、お前たちのように戦わずに暮らせる生活が出来るなら、そうしたい」
「なるほどね。あんたたちも色々あるってわけだ」
感心したように助産師さんは腕を組みます。
その横で、ずっと黙って話を聞いていた村長さんがやっと口を開きました。
「じゃが……。みなが心配しておるのだ。その我らから得た技術が、人間に向けられないかを」
カイが通訳して、パパさんに内容を伝えると黙り込んでしまいました。
沈黙が落ちます。
気がつけば、また村の人が外から様子をうかがっていました。
みなさま、一様に疑いの目を向け、ゴブリンさんの言葉を待っています。
パパさんもココさんも、それを敏感に察したのでしょう。
ココさんは外の方を睨んでいます。
一触即発の状態です。
ようやくパパさんの大きな口が開きました。
その時です。
「村長……。それをこの人たちに答えさせるのは酷じゃないかい?」
助産師さんが先に言いました。
「しかし……。確約はしてもらわないと――」
「人間同士だって、殺し合いはするさ。そもそも魔王が攻めてくる前は、どっかの国で人間同士が戦っていたというじゃないか。野盗だって人を殺すこともある。人間にも出来ないことを、この人たちに『絶対にするな』と約束させるのは、フェアじゃないと思うがね」
「それはそうだが……」
村長さんは再び黙ってしまいました。
カイはパパさんに助産師さんの言葉を伝えます。
パパさんは聞いただけで、それ以上何も言いませんでした。
カイも助産師さんの言うとおりだと思います。
残念ながら、人類のみなさまも、モンスターと同様争う生き物です。
絶対はありえないことです。
それはロボットであるカイにも同じことがいえます。
カイには様々な禁止事項がありますが、人工知能が誤作動する確率はわずかながら存在するのです。
「よし! とりあえず飲もう」
静寂の中で、一際助産師さんの声が響き渡りました。
ゴブリンさんが持ってきた袋を持ち上げます。
「私なんか酒の肴になるようなものを作ってくるよ」
パパさんがカイの方を向きます。
通訳してほしそうでした。
助産師さんが言ったことを訳すと、パパさんは手を掲げて待つように促しました。
そしてココさんに何かを言いました。
最初は渋っていましたが、説得されて、腰に下げていた小さな袋を差し出します。
パパさんは中身を取り出しました。
視覚センサーで確認。
どうやらお肉の燻製のようです。
「このお酒には、バーモットの肉があう」
「バーモットってあの大型の野獣の――!」
「なんだい、あんた……。一杯やるつもりだったのかい」
村長さんが心臓をドキドキさせている横で、助産婦さんは豪快に笑いました。
「村長、台所から酒杯を持ってくるよ。いいね」
「か、かまわんが……」
村長さんは渋々頷きました。
ちょっと中途半端ですが、次回ということで……。
次回は明日の7時に更新します。
よろしくお願いします。




