File10 カイ、逆鱗に触れる。
本日3本目です。
よろしくお願いします。
人類のみなさま、こんにちは。
ドラゴンさんの新米助産師『カイ』です。
加えて通訳もやっています。
さて、卵が出てきました。
それも大きな……。
人類のみなさまの背丈ぐらいあります。
ですが、カイは驚きません。
データ通りです。
「ここからどうするんだい? まだマッサージを続けるかい?」
助産師さんが尋ねます。
カイは首を振ります。
そしてデータを再チェックしました。
確認をして、ファイルを閉じます。
決定しました。
次の作業はとても重要です。
同時に、とても危険な作業です。
ドラゴン助産師『カイ』の腕の見せ所です。
「そうかい。じゃあ、あんたに任せるよ」
助産師さんは腕を組み、待機しました。
カイはドラゴンさんの様子を見ます。
先ほどよりも苦しそうです。
話しかけても、『はあはあ』と息しか返ってきません。
これは急がねばなりません。
「おいおい。何をするんだい?」
助産師さんは目を丸くしました。
カイがドラゴンさんの身体によじ登りはじめてすぐのことです。
大丈夫です。
人工知能がスタンピードを起こしたわけではありません。
これが最適解なのです。
「まあ、あんたが言うなら……」
助産師さんはカイの言葉に戸惑いながら、見送ってくれました。
ドラゴンさんの背中を昇っていきます。
肌がごつごつしてます。
まさに岩です。
エアーズロックに登ってる感覚です。
現実には登ったことはありませんが、シュミレーションでは何回かあります。
出荷前検査のバランス調整テストですから、4年ほど前でしょうか?
かなり記録をさかのぼらなければなりません。
人類のみなさまでいうところの『なつかしい』です。
ですが、『感傷に浸る』時ではありません。
カイはようやく登頂しました。
そして“あるもの”を探します。
真っ黒な鱗をかき分け、付近を捜索しました。
ありました。
黒い鱗の中に1つだけ白い鱗が、隠れるようにしてありました。
しかも周りの鱗とは違って、逆さについています。
カイはそっと――出来うる限り優しく触りました。
すると――。
『うおおおおおおおおおおお!!』
ドラゴンさんは突然、叫びました。
村のみなさまは驚いて、散り散りになって逃げていきます。
20メートルぐらい離れたところで、様子を伺いました。
そんな中で助産師さんだけが逃げずにカイの方を見ています。
すごくたくましい人類さまです。
ドラゴンさんは声を出した以外に、何もしませんでした。
カイは確定しました。
これはきっとドラゴンさんの“逆鱗”です。
逆鱗とは――そう――あの逆鱗です。
昔の中国の偉い人が書いた著書にある――あの逆鱗です。
著書には喉の下にあるそうですが、このドラゴンさんのは背中にあるようです。
でも、本当に鱗が逆さについているのですね。
なかなか衝撃のデータです。
「大丈夫かい?」
下から助産師さんが声をかけてくれます。
軽く手を振って、カイは無事をアピールしました。
「あんたが今、触ったのって。もしかして逆鱗かい?」
正解です! 助産師さんは頭がいいです。
「褒められるようなもんでもないよ。ちょっと考えればわかることさ。それよりもそれをどうするんだい?」
逆鱗を叩くんです。
助産師さんはギョッとして、一瞬かたまってしまいました。
「そ、そんなことをして大丈夫なのかい?」
はい。これがドラゴンさんのお産の仕方です。
そうです。そうなのです。
破水した後、番のドラゴンがパートナーの逆鱗に触ります。
逆鱗は触られると、とても痛いそうです。
そのいきんだ力を使って、卵を産む――のだそうです。
「なるほど。陣痛にあわせていきむのと一緒だね。よおし!」
助産師さんは勇敢にもドラゴンさんの鼻先に向かって話しかけました。
「あんた、もうすぐだからね。しっかりおしよ。……いいかい。私が合図したらいきむんだ。いきむってわかるか。力を入れるんだ。どうだい? わかったかい?」
と言葉をかけます。
おそらく通じていないと思いますが、ドラゴンさんは助産師さんの動きを見ていました。
とてもオーバーアクションだったから、きっと伝わっているはずです。
今度は助産師さんはみんなをもう1度集めました。
「あんたたち、あの子が逆鱗に触れたら、大きな声を出すんだ。出産の時の呼吸法と一緒さ。いいかい!」
人類のみなさまは、助産師さんの説得と言うよりは迫力に負けて、頷きました。
「あんたもいいね」
は、はい。よろしくお願いします。
すっかり仕切られています。
いえ。それでいいのです。
カイはロボットです。
人類のみなさまに使われる存在なのです。
「いくよー。そーれ!!」
助産師さんの合図に従って、カイは逆鱗を叩きました。
『うおおおおおおおおおおお!』
「おおおおおおおおおおおお!」
ドラゴンさんの雄叫びと、村のみなさまの声が重なります。
「そら! がんばりな! そーれ!」
叩きます!
『ぎゃあああああああああ!!』
「おおおおおおおおおおお!!」
「そーれ!」
また叩きます。
『があああああああああ!!』
「おおおおおおおおおお!!」
「よーしよし! 卵が出てきた。もう少しだよ。そーれ!」
まだまだ叩きます。
『ぎゃひぃいいいいいい!!』
「おおおおおおおおおお!!」
「よーし。だいぶ出てきた」
あ! カイは思い出しました。
卵が落ちる時のクッションように藁を頼んでいたのです。
「なるほど。敷き詰められばいいんだね」
助産師さんは子供たちや女性の方に指示を送ります。
まるで女頭領みたいです。
やがて準備完了しました。
「そら! もう一息だ! そーれ!」
頑張ってください、ドラゴンさん!!
カイは一生懸命叩きました。
そして――。
『ぎゃがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
一際、大きな雄叫びが辺り一帯にこだましたのです。
次が本日ラストです。
21時に更新します。
同じ時間に『その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。』という作品を更新しています。
よろしければそちらも読んでくださいm(_ _)m




