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豹と旅する異世界道中  作者: 伊右衛門
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薄暗いジャングルの中、もう少しでお日様が顔を出しそうな時間帯、獣道を歩くママンの後ろを俺はおっかなびっくりついて行く。


あぁマジでお家帰りたい。洞窟の方じゃなくて日本のアパートに。帰ってフカフカの布団で寝たい。藁のベッドは決して寝心地が良いとは言えないしなぁ。


ご飯をとりに行くと言うママンに連れられここまで来たが、本当に大丈夫なのか絶賛ビビリ中。洞窟を出るときに、私の歩いた足跡を踏みながらついて来なさいとか、音を出さずに気配を消すのよ、とか言われたが、前者の方しか守れてません。なんだよ気配って!!消し方とか全然分かんねーよ!!これって出来なかったら他のヤバイのに見つかるってことなの!?大丈夫なの俺!?


不安に包まれつつ進むと、ふと、ママンが立ち止まる。俺も立ち止まる。これから何が起こるのか分からず、脳内で最悪の想像が何回も行ったり来たり、冷や汗かきまくり、ビビリ過ぎてチビリそうです。


ママンは何やら頭を下げ地面にある何かを観察したり、時折鼻をひくつかせたりした後、俺の方を振り返り、近くに獲物がいる、と教えてくれた。なるほど、何かの痕跡を見つけたんですね、ママンが倒せる獲物なんですね、でもそれって俺の身に危険が無いような獲物なんです?だ、大丈夫ですよね?


不安そうに見返す俺にママンは、安心しなさい、大丈夫よ、と笑いかける。笑いかけるとは言ったが、大きな口を開き、口角が上がってニヤリと笑ってる様は、俺にはただ獰猛なクソでかい豹が獲物を求めて涎を垂らしている様にしか見えない。ママンマジ恐いっす。


ママンが進む道をしばらくついて歩くと、急にママンが姿勢を低くする、俺もそれに習って音を立てない様に慎重にしゃがむ。


ママンがデカすぎてあまり前が見えないが、俺にも分かった。少し先の方に豚が見えた、多分豚、二足歩行してるけど、ママンより大きく見えるけど、手の蹄がなんかクマの爪みたいな形してるけど、多分豚です。爪がデカくて何でも斬り裂けそうです。もう恐すぎて泣きそうです。


ママンがチラっとこっちを見て、よく見てるのよ、そう言うと俺の目の前から一瞬でいなくなる。はれ?っと思い豚の方を見るといつの間にか豚の背後をとるママン、瞬きする間もなく、豚の首筋に噛み付き、そのまま地面に叩きつける。ゴキャッ!!っと首の骨が折れる音が、結構距離がある俺の所にまで聞こえて来た。豚はピクリとも動かない、鮮やか。ママンの狩りはその一言に尽きた。音もなく一瞬で近付き、自分より大きな獲物の命を一瞬で刈り取る。その姿に俺は、今までビビってた恐怖なんて忘れて見入ってしまった。文字通り、その姿に、その手並みに魅入られた。それはある種テレビで活躍する、一流スポーツ選手を見て感動する感覚に近かった。もちろん今感じている感動はそれの何倍も大きい。


いつの間にか豚を引きずりながら近くに来ていたママンに、これでしばらくご飯は大丈夫ね、帰るわよ。と言われ、豚を引きずるママンの後を追う。


今日は死ぬかも知れない。そう思いついて来た狩りだったが、ママンはマジで強かった。帰り道で以前洞窟内で見た猪が襲って来たが、ママンが前脚を一振りすると猪が血を噴き出し倒れる。俺はただそれを呆然と見て少しパンツを湿らせる、言い訳するなら猪とママンにビビったからだ。だって猪は叫び声を上げながら信じられないスピードで近づいて来るんですよ?そんでママンが目に見えない速度で前脚を振るってそいつから血がドバッと噴き出るんですよ?誰でも漏らすわ!!


ママンはご飯が増えて上機嫌。尻尾をリズミカルにくねらせながら、そっちのやつお願いね、と言うと洞窟に向かって歩き出す。


え?これ?俺が持って帰るんですか?




結果から言うと普通に背負って帰れた。自分の体ながらスゲーと思った。



住み慣れた洞窟に戻って朝ご飯を食べる。ママンは豚を、俺は猪を食べる。最近はママンに肉を千切って貰わなくても、自分で獲物の腹を裂いて生肉を食べれる様になった。調理道具?そんなのありませんがな、自分の爪と腕力でゴリ押しですよ。野生児と化しているが、気にしない事にしている。生肉うめー。


今回、ついて行って良かった。あの一瞬で獲物を狩る姿を見て良かった。ジャングルの中は、今の俺が一人でほいほい出て行ったら、多分普通に死ぬ。でもママンがいる。俺にあれこれ教えてくれる。きっと俺は強くなれる。日に日に何故か強化されていく肉体。それにママンの狩りの技術。それさえあればこのヤバイ世界を生き抜いて行ける、と思う。そりゃ俺にはママンの様には獲物は狩れない、そりゃそうだ。だって人間と豹だもの、同じ事なんて出来る訳がない。でも俺に出来る事を真似ていこう。そう思い今の決意を口にしようと思った。


「今日は凄くカッコ良かった、俺も俺なりに狩りができる様頑張るよ。だからこれからもよろしくね、母さん」


いつまでもママンとか言ってられん。俺は憧れてしまったのだ、あの姿に。


その後、俺に褒められて嬉しかったのかいつもの倍くらいペロペロ毛繕いされました。


この世界に来て一ヶ月、初めて前向きに、希望をもって生きてやろう。そう思えた。

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