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動かない子豹、毛繕いされてはいるがピクリともしない。呼吸している様子もない、多分、死んでいる。
死後何日経ってるのかは分からないがきっとコイツは子供が起きると思ってずっと毛繕いしているんだと思った。何日も何日も…
何かのテレビ番組で見た気がする。肉食動物の母親が、動かなくなった子供の代わりに自分とは違う生き物を育てる、みたいなのを、多分、俺はその代わりなんだろう。
俺を連れて来たのはいいけど、やっぱり諦めきれなくて、必死に毛繕いしてるんだと思った。ホラ、早く起きなさい、あなたに兄弟が出来たのよ、そんな事を言ってる気がする。言葉は無いが何となくそう思った。
正直、見た瞬間は軽くこの豹に同情した、瞬間的にコイツに育てられてもいいかも、なんて思ったが、ちょっと待って欲しい。
あれ?俺喰われないかもだけど、コイツに育てられちゃうの?待って待って、俺もう二十一歳よ?もう大きくならないよ?確かにコイツの体のサイズからすると俺なんて子供みたいなもんかも知れないけども!!毎日生肉なんて嫌じゃ!!つーかずっと生肉なんて食えるかあぁぁぁ!!なんか絶対感染するって!!そんで死ぬ!!ぜってぇー死ぬ!!喰われなくても死んでしまう!!マジヤバイ!!異世界ヤバイ!!
早くここを抜け出さなくては!!そう思い外に向かってそろそろと歩きだす。走るのはマズイ、アイツは俺を育てる気だ、気付かれたらきっと連れ戻される。
抜き足差し足で何とか出口付近まで来る、よし、後ちょっとで逃げられる!ほら!空もあんなに青い!きっと俺を祝福してくれてる!鬱蒼と茂るジャングルだけども、川を見つけて下って行けばきっと人がいるに違いない!!そうに決まってる!!寧ろそうじゃないと死ぬ自信しかない!!
もうちょっとでほら穴の外へ、というところで、外から物凄い鳴声が聞こえて来た、ギアァァァ!ギアァァァ!と聞いた事もない、煩い音撒き散らしながら、目の前の空を羽ばたいていく巨大な、鳥っぽくないナニカ、え?何アレ?プテラノドン?ハハッまっさかねー?
すると今度はドシン!ドシン!と何かが近付く足音、け、結構揺れるんですが…今度は何!?
遠目に見えるはコレまた巨大な生物、パっと見は亀だが顔は熊、めっちゃ凶暴そうな熊の顔してるのに、身体は亀、しかも二足歩行してる、そいつが遠目にドシン!ドシン!と歩き去っていく姿が見えた。
あまりの出来事にフリーズする俺、あれ?ここってひょっとして滅茶苦茶危ない場所だったり?一人で出てったら死んじゃう系?外出たら変な生物に襲われて死ぬ?中に居たら生肉食わされて死ぬ?あれ?あれれ?ひょっとして詰んでる?
突然目の前が真っ暗になる、なんだ!?気絶した!?でも意識ある!?程なくして訪れる浮遊感、そしてほら穴に戻って行く感覚、あぁ、外出ちゃ危ないから連れ戻されてるのね、成る程ね、もーどーにでもして下さいな。
藁の寝床に吐き出され毛繕いされる、このペロペロ、何回もされるとスゲー痛い。が、もーどーでもいい。どーせすぐに死ぬんだし、コイツのオモチャになってやるのもアリかな?とか思い始めてる。
どーせ自分じゃ何も出来ないんだ、もーなる様になれだ!!