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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
二度目のイシュアヌ国で出会う
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三十一日目……勝敗のゆくえ

「さあ、いよいよ決勝戦だぜ! 勝ち残ったのは去年優勝した隻腕の賞金稼ぎゴーライと、観客の予想を裏切って初参加で決勝まできた槍使いリマーラだ!」 


 周囲半分が階段状になっている東門前広場に、司会の声が響き渡る。

 大会が始まって五日目、ついに最後の試合を残すのみとなった。

 一日目はすぐに勝負が決まる試合も多かった。でも段々と強者同士の戦いになっていき、三日目には三十分を越える試合もあった。

 昨日の準決勝に残った四人は、戦いの素人の私から見ても強い人なんだということが分かるくらい、何というかオーラのようなものがあった。

 その四人の中から勝ち上がったのが、いま広場の中心で大歓声を浴びている二人、ゴーライとリマーラ。

 リマーラは私の予想通り。司会者は観客の予想を裏切ってとか言っていたけど。

 彼女の対戦相手ゴーライは、左腕が三分の一しかないツルピカハゲのムキムキ色黒大男。得物はなんと戦斧せんぷだ。ベテランの賞金稼ぎらしいけど、その見た目からして盗賊団の親分にしか見えない。

 

「お前、どっちに賭けた?」


「そりゃゴーライに決まってるだろ」


「俺はリマーラにした」


「はんっ、馬鹿な奴だなお前も。確かにあのお姉ちゃんは強い。けどゴーライが負けるわけねえだろ。五体の腐猿ふえんに囲まれて生き残った男だぞ。捕まえた賞金首の数は、あのレヴァイアにだって負けてねえ」


「いいんだよ。俺は美人に賭けるって決めたんだ」


 まったく、リマーラを応援してくれてる人がいたと思ったら。顔で選ぶってどうなのよ。


「いや……うーん、もし実力が同じくらいの男性二人だったら私だって顔で選ぶ、かも? ナナはどう思う?」


「きゅきゅきゅー!」


 腕の中にいるナナを見ると、周りの人と一緒になって前脚を振り回している。私の声は一文字分も届いていないようだ。


「……夢中で何よりデス」


「二人とも、戦う準備は出来たか? 最後まで盛り上げてくれよ? ……双方、構え」


 司会の言葉で歓声が止み、広場の緊張感が一気に高まる。


「始めっ!」


 開始の合図とともにリマーラが地面を蹴った。一気に間合いを詰めゴーライの脇を狙って槍を振るう。ゴーライは跳躍してかわし、リマーラの背後に着地。彼女目掛けて戦斧を振り下ろす。


「危ないっ――」


 リマーラは横に転がって避け、膝をついた状態から連続で突きを放つ。それを戦斧を盾にして受けるゴーライ。

 戦っている当人たちは息つく暇がないだろうが、観ているこちらは瞬きをする暇がない。というか、速すぎて眼がついていけてない。

 とりあえず言えるのは、二人の力は互角だということ……いや、互角に見えるということ。

 己の武器をぶつけ合い、かわし、またぶつける。リマーラが地面に突き立てた槍を軸に身体を旋回させ蹴りかかれば、ゴーライは戦斧で風を起こし砂煙で視界を遮る。

 気が付けば私は、大声で声援を送っていた。




 ガキキィィィン!

 大きな金属音を立てて武器が宙を舞う。

 弧を描いて地面に突き刺さったのは――槍。


「勝者、ゴーライィィッッ!」 


 ウオオオオォォォォッッッ!

 広場全体が震えるほどの大歓声が沸き起こる。


「リマーラが……負けた」


 二人とも強かったから、どっちが勝ってもおかしくなかったけど、リマーラを応援していたからちょっと残念だな。ううん、すっごく残念。

 一番残念だと思っているのは、負けた当人に違いないんだろうけど。 

 広場中央で行われている優勝商品の授与を眺める。ゴーライが賞金を受け取る隣で、リマーラは静かに立っている。遠くて表情が見えないが、悔しがっているようには見えない。

 けど、見えないだけで、きっと悔しいと思っているはず。落ち込んでいるのなら、励ましてあげたいな。


「あっ、リマーラが歩き出した。よーし、ナナ、追いかけるわよ!」


「きゅっ!? きゅきゅ!」


 私と違って興奮冷めやらぬと言った感じのナナに声をかけ、観衆の間をすり抜ける。

 広場にいる人たちが動き出したら無理だけど、まだ大半がゴーライに注目しているからリマーラの姿を追うのは容易い。私は彼女が視界から消えないように走った。


「ここの角を曲がったはず……いたっ! 待ってっ、待って下さい! リマーラ、さん!」


 広場を出て東区画と東南区画の間の縦通りに入っていったリマーラに、走りながら声をかける。いつもと変わらず人通りは多かったけど、彼女は気付いてくれた。


「すっ、すいま、せん……ちょっとだけ、待ってくだ、さい」


 走ったせいで呼吸が辛い。でも頑張った甲斐はあった。やっと彼女と会話できる!


「大丈夫か?」


 膝に手をついてはぁはぁ言っていたら、リマーラが声をかけてきた。少し低い静かで落ち着いた声。


「ふーーーっ。……はい、もう大丈夫です。すみません突然お声掛けして」


「構わない。何の用だろうか?」


「この五日間、リマーラさんの戦いを観ていました。とても凄かったです。言葉で言い表せないくらいに。それで、その、貴女とお話がしたいと思ったんです」


「……そうか、それは少し困ったな」


 リマーラは槍を脇に挟んで腕を組む。


「すみません、やっぱりご迷惑でしたね」


「いや、迷惑ではないのだが、私には差し迫った問題があるのだ」


「問題、ですか? 私に出来ることでしたらお手伝いしますが」


 とは言ったものの、私に出来ることなんてあまりない。特に戦い関係ではほとんど……全くない。

 一体どんな問題を抱えているのだろうと考えていると、リマーラが口を開いた。 


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