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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
始まりの国マーレ=ボルジエ
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二日目……嘘も貫き通せばなんとかなる

 どうしよう、どうしたらいい、どうする!?

 名前呼んだら飛んでくるとか聞いてないよ、クーアさん!

 しかも、ご主人様の帰りを今か今かと待っていた忠犬並みに興奮状態になんですけど!


「う、きゅう……」


 パニックで手に力を入れすぎてしまったらしい。ナナの口から魂が飛び立ちそうになっている。


「ぎゃっ、ご、ごめん! ナナ、しっかり!」


 慌ててゆさゆさ揺すってみると、ますますぐったりしてしまった。

 どうやら私は獣医の才能が皆無のようだ。


「あの、その生き物は一体……」


 おろおろしている私にエルクローレンが話しかけてくる。その後ろにはテンションが異常な翼竜。もっと後ろには興味津々でこちらを見ている王都入り待ちの人々。

 目立ちまくっている。

 非情にまずい。可及的速やかに何とかしなければ。

 私はこれ以上ないほど思考をフル回転させ、この状況を収拾する方法を考えた。


「ああ、ええ、ちょっと三途の川の見学、というか事前調査をしに行ってまして」


「はぁ……サンズ……?」


「あの世という場所に流れてる川のことです。しばらくしたら戻ってくるので気にしないで下さい。で、えっとすいません、そこの翼竜さん、砂埃がすごいんで大人しくしてもらえませんか」


 ぴたっ。

 私が少し語気を強めてそう言うと、ヴィシュリはまるで瞬間冷凍されたかのように動きを止めた。

 エルクローレンが眼を見開いてこちらを見る。


「ヴィシュリが私以外の命令を聞くなんて……貴女は一体……」


 何者なんだという疑問がエルクローレンの顔にありありと浮かんでいる。

 本当のことを話したところで信じてはもらえないだろうし、今後の流れに影響が出る可能性もある。かわいそうだが、ここは適当に誤魔化すしかない。


「ここだけの話にしてほしいんですが、私、幼いときに山奥に捨てられたんです。で、どう考えてもすぐに死ぬはずだったんですが、幸運にも野生の翼竜に拾われたんですよね。どうもその翼竜、自分の子供を亡くしたばかりだったみたいで。寂しかったんでしょうね。とまあそんなわけで翼竜と意思疎通が出来るわけなんです」


 なんと苦しい言い訳。あまりに嘘くさすぎて涙が出そうだ。

 こんな馬鹿げた話、信じる人間などいない。

 騎士を馬鹿にするなと怒られるかもしれないと、おそるおそるエルクローレンを見上げると――


「そうだったのですか……すみません辛い話をさせてしまって」


 眼の端に涙を滲ませていた。

 えええぇぇっ!? 信じたの!? ほんとに!? 小学生も騙せないようなひっどい作り話なのに!?

 お人よしにもほどがあるわね……。詐欺とかすぐ引っかかりそうで、なんだか心配だわ。よく騎士になれたわね。

 って、他人の心配してる場合じゃないな。同情してもらってる今なら色々お願いできそうだし、王都へ入れてくれと頼んでみよう。


「いえ、大丈夫です。でもくれぐれも内緒にして下さいね。親に捨てられたなんて、自慢できることじゃないですから」


 無理矢理哀しげな表情を作り、エルクローレンから視線を逸らす。彼は私の大根役者よりひどい演技にも何の疑問も持つことなく大きく頷いた。


「ありがとうございます。……あの、出会ったばかりの、それも騎士様に頼みごとをするなんて厚かましいのは重々承知のうえなんですが……私のお願い聞いてもらえませんか?」


「何なりと仰って下さい! 私に出来ることであれば是非とも力になります」


 うーん、ちょろいな。騙している私が言うのもなんだが、この人大丈夫か? いい人にもほどがあるだろう。この世界にもし善人グランプリみたいな大会があれば、表彰台に立つに違いない。

 ……ともあれ、彼の善意に甘えるとしよう。 


「実は私、身分を証明できるものを持っていなくて……。王都に入りたくてここまで来てみたのですが、許可証も身分証も持っていない人間は色々訊かれるんですよね? それで困ってしまって……」


「何も持っていない者は厳しく審査をする決まりですからね。私が許可すればすぐに入れますが……良ければ、王都に入りたい理由を訊かせてもらっても?」


「ほあ!?」


 前言撤回。やっぱりどんなにお人よしでもこの人は騎士だわ。私が王都に害をなす人物かどうか見極めようとしてる。

 雷華に会いたい、じゃ駄目だろうな。彼女との関係を訊かれても困るし。

 えっと……あ、思いついた。けど……はぁ、仕方ないか。こうなれば、とことん嘘を吐くのみだ。


「それは、風の噂で昔おさなごを山に捨てた女が王都にいるらしいと聞いたからです。もちろん噂でしかないことは分かっていますけど。でも、どうしても確かめてみたかったんです」


「なるほど、分かりました。――貴女が王都に入ることを許可します。そういえばまだお名前を伺っていませんでしたね」


「ありがとうございます! 本当ですね。今まで名乗りもせずに失礼しました、私はヒュリといいます」


 まだ慣れない名を口にしながら私は勢いよく頭を下げる。手の中から「うきゅ、きゅっきゅきゅー」という声が微かに聞こえてきた。多分だが朦朧とした意識の中で自己紹介をしているのだろう。良かった、もうすぐ命がけの調査から帰ってきそうだ。

 なんとか王都にも入れるし、一安心一安心。そう思って胸を撫で下ろしていると、下げた頭の上からとんでもない声が降ってきた。


「ヒュリさんの母親捜し、私もお手伝いします」

  


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