八日目……物好きな賊もいるもんだ
キィンッ、キィンッ! だだだだっ、がっしゃんっ!
ぎゃあぁあぁぁっ! こら、暴れるなっ! あと二人いたな、俺はこっちに行く。お前はあっちを頼む!
うーん、穏やかじゃない感じ。騎士とおぼしき叫び声と剣を交える金属音から察するに、ドロボウが参上したっぽいわね。
金目のものがいっぱいあると思ったんだろうなー。何せこの外観だもんね、気持ちは分からなくもないよ。……欲しいとは思わないけど。窃盗は犯罪とか以前に趣味が悪すぎだし。
しかし、ドロボウは騎士が警備していることを知らなかったんだろうか。それとも知っていたけど二人だからなんとでもなると思ったんだろうか。
「いや、それより盗みに入るならこんな真っ昼間じゃなくて夜の方がいいんじゃないの? そう思わない?」
「きゅー」
肩を竦めて、ふぅと首を振るハムスター。呆れているというのがよく分かる仕草だ。
「うーん、誰もいないだろうから昼でも夜でも一緒だと思ったのかしらね」
事前に下見に来れば騎士がいるのが分かっただろうに。
ご愁傷さまです。
騎士に捕まったドロボウ――ここからは見えないけど――に向けて両手を合わせて拝む。しっかり罪を償って下さい。
眼を開けて顔を上げると、館の方から誰か走ってくるのが見えた。黒っぽい色の服を着ているから騎士ではない。
え、じゃあそれって、
「ちょ、ちょっとあれドロボウの一人なんじゃないの!?」
「きゅきゅ!」
「ど、どうしよう、叫んだ方がいいのかな」
ドロボウ(仮)はどんどんこっちに向かって来て、私と眼が合っても止まろうとしない。
騎士がいる方と私がいる方だったら、そりゃ私の方を選ぶよね。なんてったってか弱いオ・ト・メだもの……って、ボケてる場合じゃない。
「すいませーーん、誰かーー! こっちに怪しい人がいまーーす!」
「このくそアマぁっ! ぶっ殺されてえのか!」
そういう反応が返ってくるってことは、ドロボウ(仮)じゃなくてドロボウ(確)ってことよね。金ぴかの像っぽいものを小脇に抱えてるのが見えるし。
しかし、彼はこの後どうするつもりなんだろう。
気になったので門を持って前後に揺らしてみる。予想通りびくともしない。
「門には鍵がかかってるけど、そんなもの持ったままでよじ登るつもり? 諦めたら?」
「うるせえ黙ってろ!」
せっかく教えてあげたのに失礼な人ね。まあ、礼儀をわきまえたドロボウの方が珍しいか。
「エルさんみたいに飛び越えられると思う?」
「きゅ」
ナナは、いやーそれはないわと首を振る。私も同感。走り方が汚いのよね、ドタドタドタって感じで。
「さて、どうしようもう一回叫ぼうか――あ、あれエルさんじゃないかな。おーーい、エルさぁぁん!」
遠くの方にエルらしき姿が見えたので手をぶんぶん振る。ドロボウは、ばっと後ろを見てすぐに前に向き直るともの凄い眼つきで私を睨んできた。
「てめえっ……こうなったらお前を人質にして逃げ切ってやるぞ!」
往生際が悪いなぁ。潔く諦めればいいのに。しかも人質を予告するって、バカなのかな。それとも突っ込んでほしいのかしら。……まさかね。
「とはいえ、親切にも教えてくれたわけだからこっちも準備しないとね……何か……おお、いいのがあるじゃないの」
きょろきょろと辺りを見渡すと、さっき隠れた木の隣の木の根元に、ちょうどいい具合の角材が二本落ちていたので駆け寄って拾い上げる。
うん、振り回すのにぴったり。でも何でこんなところに角材? 誰かこの辺りで剣の練習でもしてその後忘れていったのかしら。私的には大助かりなんだけど。
「ナナ、危ないかもしれないから離れててね」
「きゅ」
ナナに針攻撃をしてもらうって手もあるけど、彼女を頼ってばかりも悪いからね。たまには頑張らないと。
「ライカさんっ」
呼ばれて視線をエルに向ければ、はっきりと顔が分かる距離まで来ていた。が、ドロボウはついに門に辿り着いてしまった。走って来た勢いのまま跳躍し、像を持ったまま背丈以上ある門にしがみつく。
「捕まってっ、たまるかあぁっ」
ドロボウは顔を真っ赤にして門をよじ登る。
予想通り身体能力は高くなかったようだけど、思ったより頑張るわねー。これも火事場の馬鹿力ってやつなのかな。
「うおりゃあっ」
門のてっぺんに足をかけたドロボウは、かけ声と共にこちら側に飛び降りた。というか落ちた。一回転してむくりと起き上がる。
その次のことは面白いほどに同時に起こった。
「ライカさん、逃げて下さ――」
「はぁはぁっ……て、てめえ大人しく――」
「ぜ・ん・り・ょ・く・で! いっぱぁぁぁっつっ!」
エルが門を越えようと跳躍し、ドロボウは私の腕を掴もうと手を伸ばし、私はドロボウ目掛けて角材をフルスイングした。
「ぎゃあぁぁっ!」
「…………」
その結果……泥棒は後ろに吹っ飛んで門に激突し、私とエルの間には微妙な空気が流れることとなった。




