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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
始まりの国マーレ=ボルジエ
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四日目……悪者、成敗!

「し、始末って……あんた脳みそ、ちくわと蓮根で出来てるんじゃない!? こんな真っ昼間にそんなことして問題にならないと本気で思ってんの!?」


 怒りで毛を逆立てるナナを両手で抱きしめながら怒鳴る。剣に手をかけている男たちの前にいるのは予想以上に怖くて、すぐにでも降参したいというのが偽らざる気持ちだが、ここで退くわけにはいかない。

 エルが未だ出てこないのは、言い逃れの出来ない状況になるのを待っているからだろう。今のままでも十分サキューズは罪を犯している気がするが、金銭以外の被害はまだ被っていない。あの男を永遠に葬るには足りないのだ。


「問題ないよ。誰かに見られても金で黙らせるだけさ」


「そのお金がなくて困ってるくせに」


「……本当に気に障る女だね。お前たち、さっさと殺しちゃって」


 雇い主の言葉に、ついに男たちが剣を抜きじりじりと距離を詰めてくる。


「へっへっへっ、悪いなねえちゃん。恨むんならてめえの口の悪さを恨めよ」


「泣いて命乞いをすれば助かるかもしれねえぜ? まあ、夜には死んだ方がマシだったって思うかもしれねえがな」


「そっちの姉ちゃんより質は落ちるけど、贅沢は言えねえか。ぐへへへへへっ」


 ぐへへへへへっ、じゃないわよ! 張っ倒すぞこの〇〇〇〇〇(ピーーーー)野郎どもが!

 そりゃ確かにイリエラさんみたいに美人じゃないけどさ。あんたたちみたいな最低人間に質がどうこう言われたくないわ!


「な、なあヒュリ、あんた俺たちを助けに来てくれたんだよな……?」


「ヒュリさん……」


 振り返るとザンとイリエラが青ざめた顔で私を見ていた。失望しているように見えるのは多分気のせいではないだろう。


「期待外れでごめんね。でも安心して、絶対に救世主が現れるから」


「救世主だあ? おとぎ話じゃあるめえし、そんなもんいるわけねえだろ」


「夢が見たいんだったらその願い、俺が叶えてやるぜ! はぁぁぁぁっ!」


 次の瞬間、私は「殺される!」と叫んで頭を抱えて目を瞑った。直後にすぐ間近で激しい金属音がする。

 おそるおそる眼を開けると、私兵の一人が振りかざした剣をエルが受け止めていた。


「…………はぁぁぁ、怖かったぁぁ」


 身体から力が抜け、地面にへたり込む。助けてくれると分かってはいても、凶器を向けられるというのは心臓によくない。寿命が縮んだ気がする。

 私が深呼吸を数回している間にエルは、私兵の剣を次々と弾き飛ばし、最後の一人の喉元に剣先を突きつけた。


「さっすが、エルさん!」


「きゅきゅー!」


 なんて無駄のない洗練された剣捌き。相手の男はビビり過ぎて腰が抜けたみたいね。ざまあないわ。


「はぁ……わざと挑発したのでしょうが、無茶をしないで下さい。斬られたらどうするのですか」


 剣を鞘にしまったエルが、私に手を差し出しながら溜息を吐く。フードを被ったままだから顔が見えないが、どうやら少し怒っているようだ。


「ごめんなさい。でも、エルさんを信じてましたから。……まあ、もう一度やりたいとは思いませんけど」


 エルの手を借りて立ち上がり、服についた砂をはらう。


「な、何なんだお前は……」


 この世のものではない何かを見るような眼で男たちがエルを見る。ザンとイリエラも呆けた顔で見ていたが、彼は私に「当たり前です」と言うと、向けられている視線を全く気にすることなく真っ直ぐにサキューズに向かって歩いていった。


「お、お前っ、僕の私兵になんてことをするんだ! 僕は貴族だよ! こっ、こんなことをして許されるとでも思っているのかい!」


 エルの纏う空気に完全に腰が引けているが、それでも強気の発言なのは流石というべきなのかもしれない。……エルの怒りを増長させる効果しかないのだが。

 男爵の背後霊――ではなく執事は、こんな状況になっても眉毛一つ動かない。影に徹するにも程があるだろう。一体心臓は何で出来ているのかしら?

 

「いつまで戯れ言を吐くつもりだ。許されないのは貴殿の方であろう」


「何だと!?」


 気色ばむサキューズ。エルは外套の留め具に手をかけると、一気に脱ぎ捨てた。露わになる白い騎士服に、私とナナ以外の全員が息をのむ音がした。


「な、なあヒュリ、あの人ってもしかして」


 先ほどよりももっと呆けた顔になっているザン。自分よりも背の高い彼の頭をポンポンと撫で、私は満面の笑顔で頷いた。


「そうよ。言ったでしょ、救世主が現れるって」 


「そ、その服、そ、その顔……」


 さぁーっと顔色が青くなり、土気色になる男爵。顔色の変化が激しい奴だ。


「男爵サキューズ・リーグエ、貴殿の非道なる所業、全てこの眼で見せてもらった。騎士が一人、このエルクローレン・ディナムの名において、その罪を厳正なる審議にかけるべく、貴殿を拘束させていただく。爵位の返上は当然、この地を踏むは今日限りと覚悟されよ!」


 エルの言葉を待っていたかのように、空がぽつりと涙を落とした。

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