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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
世界を紡ぐ国ヴィトニル
122/124

五十五日目……仄かな灯り Side:雷華

 ガラガラガラガラ、パカッパカッパカッパカッ。


 ガラガラガラガラ、パカッパカッパカッパカッ。


 ほろ馬車と馬が規則正しいリズムを刻みながら街道を進んでいく。

 空は茜色。もうすぐ日が暮れる。

 そろそろ野宿の準備をしようと、エルかディーあたりが言い出しそうだ。


 今向かっているのは、ケイラーダと原初の森の間にある町、ハーシュ。私がこの世界で立ち寄る最後の町。

 ヴィトニル国の港町ケイラーダに入港したのは昨日の昼過ぎで、宿で一泊して今朝早く町を出た。

 ケイラーダでは、キールがうっかり口を滑らせてリオンに一生モノのトラウマを植え付けられそうになったり、マーレ=ボルジエの貴族でソルドラムという町の領主でルークとリオンの幼馴染のクレイ・ヴォードと再会したり、夜の店の綺麗なお兄……お姉さんにエルが気に入られて新しい扉を無理矢理こじ開けられそうになったり、まあいつも通り賑やかで退屈とは無縁だった。

 因みにクレイは、幌馬車の中で双子やディーとお喋りしている。俺も一緒に行くと言ってきかなかったからなのだけど……大所帯になってしまった。

 もちろんリマーラとレヴィも一緒に行動している。二人のこともナナのことも、彼女から聞いたことも、皆には船に乗っている間に話した。

 皆の反応は色々だったけれど、何をどう話し合ったところで解決など出来ないことだけは理解してくれたから、彼らが同行することに反対する人はいなかった。目的地も一緒だしね。

 だから今は、総勢十一人プラス一匹で旅をしている。本当に大所帯になってしまった。

 

「この辺りでいかがでしょう?」


「いいと思うよ。そこの岩のところにしようか」


 幌馬車の荷台にいたディーが御者台の後ろから顔を覗かせ、街道脇に広がる平原を指差した。


「分かりました」


 御者台に座るエルが手綱を操り、馬車を街道から逸らせる。他の皆もディーが言った岩近くまで行き、馬からおりてそれぞれ野宿の準備を始めた。

 

「水の音がする」


「ロウジュ、それほんと?」


「うん」


「なら馬たちに水をたっぷり飲ませてあげられるわね。手分けして連れて行きましょう。キール、馬車から馬を外してあげてくれる?」


「はいっす!」


「リマーラさんたちも一緒に行きましょう」


「……ああ」


 私とキール、リマーラ、そして案内役のロウジュの四人で馬を連れ、薄暗くなった平原を歩き始める。

 開けた場所とはいえ、暗いところを歩くのは少し怖い。完全に夜になる前に帰れるかなと考えていると、にゅっと眼の前に火の入ったカンテラが現れた。

 

「ふぉっ!?」


 驚いて横を向くと、カンテラを持っていたのはリマーラだった。


「使うといい」


「あ、ありがとうございます」


 変な声を出してしまったなと思いつつ、お礼を言ってカンテラを受け取る。今が薄暗くて本当に良かった。絶対顔が赤くなってる気が……あれ、何で私は暗いことに感謝しているの?

 

「リ、リマーラさんは灯りがなくて大丈夫なんですか? 自分で使うために持って来たのでは?」


「この程度の暗さなら問題ない」


「夜目が利くんですね。私は駄目だなあ。暗いのは苦手です。何かが急に出てきそうで……」


「俺も嫌いっす。今みたいに誰かと一緒なら全然へーきっすけどね」

   

「……素質もあるだろうが、ある程度は慣れだろう。一人で野宿したりすると、自然と気配に敏感になる」


「一人野宿、ですか。それはちょっと……」


 勇気がいりますね、と続けようとして視線を感じた。先頭を歩くロウジュが、絶対にそんなことさせないという眼でこちらを見ていた。というか睨んでいた。

 

「無理にすることはない。一人旅など必要に迫られてするものだ」


「は、はい」


 リマーラが微笑んだように見えて、また顔の体温が急上昇した気がする。キリリとした美人が笑うと破壊力抜群だわ。

 

「着いた」


「おおっ、川が流れてるっす」


 ロウジュの案内で辿り着いたのは、流れの穏やかな小川だった。水深は浅く、くるぶしの少し上くらいまでしかないように見える。川幅もそんなになくて、ロウジュや人間ルークなら跳んで渡れそうだ。


「よーしよし、さあしっかり飲むっすよ。いやー、それにしてもロウジュさんの耳は凄いっすね! 俺なんてこの距離でもほとんど聞こえないっす、水の音なんて」


「確かに」


 いくら近かったとはいえ、五分かそこらは歩いている。いま聞こえている微かな水音が、岩のところですでに聞こえていたなんて……相変わらず人間離れした能力だわ。


「ライカ、俺、凄い?」


「ええ、凄いわ。教えてくれてありがとう」


 ロウジュのサラサラ黒髪を撫でると、彼は嬉しそうに眼を細めた。


「さてと、私も顔洗おっと。あ、そうだ、リマーラさん」


「何だ?」


「寝る前にもう一度来ませんか? 今度はマールと三人で」


 明日町に着くとはいえ、綺麗な水があるのなら身体を拭いておきたい。

 という私の思いを身振りで理解したようで、リマーラは「ああ」と頷いてくれた。

 

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