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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
世界を紡ぐ国ヴィトニル
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五十一日目……輝く銀の髪 Side:レヴァイア

「話は終わったのか?」


「きゅっ」


「ええ……まあ、はい」


 リマーラの問いかけに、ナナは明確に、ライカは困惑気味に答えた。


「茶を貰ってきたから良かったら飲むといい」


「今はお酒の方が……いえ、何でもないです。ありがとうございます、いただきます」


 リマーラからカップを受け取るライカを横目に見ながら、俺はベッドに腰を下ろした。

 外套も口布もそのまま。

 ライカがちらりと眼を向けて来たが、何も言ってはこなかった。


 なあヒュリ、何故俺は迷っているのだろうな。


「それで……私たちが聞いておいたほうがいいことはあるだろうか。訊きたいことはいくつかあるのだけれど」


 自分の分のカップを取り、盆を机に置いたリマーラは部屋の奥の壁にもたれかかった。

 盆の上にはカップが一つ残っている。


「そう、ですね……何をどう話せばいいのか、まだちょっと混乱しているんですが……。とりあえず、私の正体から話しますね。信じてもらえるといいんですけど」


 そう前置きしたライカは、自分が何者なのかを語った。

 こことは違う世界。黒い神。白い神。色のない神。不思議な力。

 どれもが信じ難い話。何も知らない人間が聞けば、頭がおかしいと思うような話。空想の物語。

 だが、俺は知っている。彼女の髪が光るのをこの眼で見たのだから。

 彼女は、ライカは、真実を語っている。


「……と、いうわけで、私はこことは違う世界から来た人間なんです。信じ難い話だとは思うのですが……」


 そう締めくくったライカは、困ったような顔で、俯き気味にカップに口を付けた。 

 リマーラが問うように俺を見ている。俺は視線に頷くことで答えた。

 俺の考えはそれで伝わったようで、彼女は口の端に笑みを浮かべた。俺と同じ考えらしい。 


「信じるよ」


「えっ!?」 


 弾かれたようにライカが顔を上げた。


「私も、彼も、不思議な人間には耐性があってね。いや、人間だけでなく動物もか。そこにいるナナなど、不思議のカタマリのような存在だものな。褒めているんだから怒らないでくれよ、ナナ。説明のつかない体験だって何度もしている。だから、ライカのような人間がいても驚かない。というか、私たちが捜している人も、もしかしたら貴女と同じなのかもしれないと、ここへ戻る前に二人で話をしていたのだ」


「ヒュリ……さんのことですね。ナナから聞きました」


「そうだ。私たちはヒュリを捜すために旅をしている」


「それは……」


 ライカは一度言葉を止め、机の上にいるナナと視線を交わした。言うべきか、言わざるべきか、どちらが正しいのか迷っている。そんな顔をしている。

 無言の会話の後、ライカは一度大きく息を吐き出し、覚悟を決めた顔で俺とリマーラを順番に見た。


「ヒュリさんともう一度会うことは出来ない、かもしれません」


「なんだとっ! それはどういう意味だっ!?」 


 ベッドから立ち上がり、ライカに掴みかかる。ライカの持っていたカップが、彼女の手からすべり落ちてカンッ! と音を立てた。

 言われた言葉の意味が分からなかった。分かりたくなかった。


「落ち着けレヴィ! ライカから手を放せ!」


「きゅきゅきゅっ!」


 リマーラに腕を掴まれ、ナナに手の甲を引っ掻かれて、俺は掴んでいたライカの服を放した。

 ゴホゴホ咳き込むライカを横目に、顔に手を当てて、大きく息を吐く。これほど感情的になったのはいつ以来だろう。考えて、笑いがこみ上げそうになった。と、同時に納得した。

 ――この女はいつも俺の感情を揺さぶる。 


「……悪かった」


「だ、大丈夫です。ある程度は覚悟していましたから。掴みかかられるのは予想外でしたけど。……順を追って説明しますから聞いていただけますか? と、その前に床を拭かないとですね」


 カップから零れた茶が、床に小さな水たまりをつくっている。放っておいても、そのうち床板に染み込んで乾く量に見えた。


「ああ、それなら……これを使うといい」


「ありがとうございます」


 リマーラが荷の中から取り出した布を受け取り、ライカは零れた茶を拭きとった。

 そして、椅子、ベッド、壁際、とそれぞれの位置に戻った俺たちは、再び会話を再開させた。


「さてと、これで話に戻れますね。……とは言え、うーん、順を追ってとは言ったものの、何をどう話すのがいいのか……。私も彼女から聞いたばかりで、頭の中がかなり混乱してるんですよね」


「彼女、というのはナナのことだな」


「そうです。あ、そうだ、これを先に言っておいた方がいいのかな。ヒュリ……さんは、私と同じではありません」 


「そうなのか? ヒュリと貴女は、容姿以外、共通点が多いと思ったのだが」


「私は会ったことがないので判断しかねますが、似ている部分があるのは事実なのでしょう。ですが、違います。彼女は――」


「きゅううぅぅぅっ!」


 ライカの話を黙って机の上で聞いていたナナが、突然狂ったように大声で叫び声を上げた。焦るあまり足をもつれさせながら、ライカの手に飛び移る。

 驚いていたライカだったが、すぐにナナの意図を察し力を発動させた。彼女の銀色の髪が、

淡く輝きだす。


「…………えっ、本当に!? うん、うん、……それ誰だったっけ? え……ええっ! な、なんでそんな人が!?」

 

 髪を輝かせて鼠を手に乗せブツブツ言いながら表情をコロコロ変えるライカ。

 かなり異様な光景だが、それを面白がっている場面ではないことは、ナナの切羽詰まった表情を見れば明らかだった。


「おい、どうなっている。早く説明しろ」


「は、はい! えっと、襲撃です! すぐに来ます!」 

 

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