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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
世界を紡ぐ国ヴィトニル
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五十日目……導きの欠片 Side:リマーラ

「……? どうされた、レヴァイ――!?」


 ア、と続けることは出来なかった。腕を掴まれ、すぐ傍に積み上げられていた荷の陰に連れて行かれる。

 何事かとレヴァイアを見れば、彼は緊張した面持ちで誰かを睨んでいた。


「えっ?」


「おーい、マール! 何やってんだ、早く来いよ。置いてっちまうぞ」


「う、うん……って違うでしょー! 私はあんたを追い駆けてるのー!」


 レヴァイアの視線の先にいたのは、十代半ばの茶色の髪をした少年と少女。顔がよく似ている。兄妹だろうか。

 少女は一度辺りを見回してから、少し先にいた少年に駆け寄っていった。


「……お知り合いか?」


 遠ざかっていく少年少女の後ろ姿から視線を外し、レヴァイアを見る。彼は、優しさと哀しみが入り混じった眼で、二人の背中を見つめていた。


「あいつらは…………俺が捨てた……想い出の、欠片だ」


「申し訳ない、意味が――」


「話は後だ。二人を追うぞ」


「え、レヴァイア殿!?」


 外套のフードを目深に被りながら、荷の陰から出ていくレヴァイア。状況について行けない私は、一瞬対応できなくて固まってしまった。

 小走りで彼との距離を詰め、隣に並ぶ。 


「ど、どういう事なのか教えていただけないか?」


 港を出て、市場に繋がる通りに入る。港と同じで人が多く、見通しは良くない。私には少年少女の姿が見えないのだが、レヴァイアは見失っていないのだろうか。


「あいつが言っているのが聞こえた。明日ライカが来ると」


「ライカ!? それはナナが言っていた名では!?」


 予想もしていなかった言葉に、思わず大きな声が出た。近くを歩く人達の視線がこちらに向けられる。

 その視線が外れるのを待ってから、レヴァイアが口を開いた。


「そうだ。あいつらが何故知り合いなのか分からんが、あの女がここに来るなら会う他あるまい。ナナが残した二つの手掛かりのうちの一つなのだからな」


 重そうな木箱を肩に担いだ男が四人、駆け足で私たちを追い越していく。視線を感じて顔を上げれば、通り沿いの建物の屋根にいた猫と眼が合った。

 

「ナナがお前の手に書いた言葉、“極彩の森、ライカがか”。これに続く言葉は“ぎ”、つまり“ライカが鍵”と伝えたかったのではないだろうかと俺は考えている」


「ではそのライカに会えば、ヒュリの居所が分かると?」


「ヒュリがいるのは極彩の森だろう。そうではなくて……ヒュリが消えた理由を知っているのではないかと、な。もちろん憶測に過ぎないが」


 早足で歩いていたおかげで少年少女との距離が縮まったようだ。二人の背中が、通りを歩く人々の隙間から見えた。


「ヒュリが消えた理由……」


 確かに知りたいと思う。だが、彼女にもう一度会うことに繋がらなければ意味はないとも思った。それをレヴァイアに告げはしなかったけれど。

 二人との距離をさらに縮め、表情がはっきりと分かるまで近づく。二人はずっと会話していたが、周囲の雑音が大きく、何を言っているかまでは聞き取れなかった。


「何故、声を掛けない?」


 視線の先にいる少年と少女は、表情が豊かで、身振りも大きい。少女は少年に怒っているようだが、少年は全く意に介していないように見える。少女が少年を叩こうとするが、少年はひょい、とそれを避けて笑う。微笑ましいとはこういうことかと思った。


「……俺は、フェリシアを殺した奴に復讐するために全てを捨てた。キールとマールも、そのうちの一つ。もはや、かける言葉も合わせる顔も持ち合わせてはいない。何より……俺は死んだことになっているしな」


 そう言ったレヴァイアの声に迷いは感じられなかった。だが、フードに隠れて見えない瞳の奥には、哀しみの色が滲んでいる。そんな気がした。


「まだ、遅くない」

 

「リマーラ?」


「まだ遅くないよ、レヴァイア。きっと二人は分かってくれる。せっかく会えたんだから、話さなきゃ。後悔したくないでしょ? ……すまない、ヒュリならこう言うのではないかと思って、つい。出過ぎた真似をした」


 余計なことを言ってしまった。レヴァイアと二人――キールとマールというらしい――の関係もよく知らないのに。

 しかし、怒らせてしまったなと隣を窺えば、レヴァイアは何故か口元に笑みを浮かべていた。


「確かに、あいつの言いそうな台詞だ。口調もな。……声色は全く似ていなかったが」


「それは……悪かったな」


 余計なことを言ったと後悔したことを後悔した。

 私がむっとしているのを感じたのか、レヴァイアがポンポンと私の頭を優しく叩いた。


「気遣い、感謝する」


 子ども扱いするのを止めてもらいたい。

 そう言おうとした矢先、レヴァイアの足が止まる。つられて足を止めると、後ろを歩いていた女性にぶつかられてしまった。

 その女性に謝罪し、レヴァイアを通りの端に促す。どうしたのかと訊けば、彼は今日二度目の驚きの言葉を発した。


「ディー……」


「なに!?」


 少し上げたフードの下から覗く、レヴァイアの蒼い瞳。その視線を辿っていくと、見覚えのある男に行きついた。

 雪の降る真夜中に会った、母を死なせたと言った男。

 冷酷と噂のクルディアの将軍。

 一匹狼の賞金稼ぎ。

 ……私たちが捜していた、私たちの助けとなってくれる男。

 男は、少年少女と親しげに話していた。


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