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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
世界を紡ぐ国ヴィトニル
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四十八日目&五十日目 運命的交差 Side:レヴァイア

「……話は分かった。要はこういうことだろう。定期船よりも早くここを発つには、将軍に頼むか将軍を脅すかして同乗させてもらうしかない」


「脅すのはやめてもらいたいが、まあそういうことだ。だが、簡単にはいかねえぞ。まず捜そうにも顔が分からねえ。本名で宿に泊まっているとも思えねえから、名前で捜すことも出来ねえ。だから船長に会いに港に来るのを待つしかねえが、もし会えたとしてもだ。取り合ってくれる可能性はほぼないだろうよ」


 期待させて悪いが、と肩を竦めるヘルウェル。俺たちが落ち込むと思ったのだろう、少しばかり申し訳なさそうだ。

 だが、もちろん俺もリマーラも落ち込んでなどいない。将軍の顔も、彼が使っている偽名も知っている。宿を回れば簡単に見つかるはずだ。


「分かった。どうするか二人で検討する。諸々感謝する、ヘルウェル殿。ピィニにもありがとうと伝えてくれ」


 そう言ってリマーラがヘルウェルを部屋の外に促す。彼は、「また情報が欲しくなったら手配依頼所に来い。次は有料で聞いてやる」という言葉を残して去って行った。

 

「さて、彼にはああ言ったが……」


「検討するまでもなく結論は出ている。だろう、リマーラ?」


「ああ、将軍を捜しに行こう。まずは、この宿からだな」

 

 どちらからともなく頷き合い、外套を持って部屋を出る。

 階段を下りながらリマーラがぽつりと呟いた。


「偶然、なのだろうか」


 何が、とは思わなかった。俺も同じことを考えていたからだ。


「私はヒュリのおかげで将軍に会えた。真実を知ることが出来た。もし、ヒュリに出会っていなかったとしても、いつかは将軍に辿り着いただろう。だけど……やはり私はヒュリがいたからだと思っているよ。ヒュリと出会い、将軍と出会い、ヒュリを捜すために将軍を捜す。どうだ? すごく、運命的だと思わないか」


「お前にとってはそうだろうな。俺は……まだ分からん。数奇とは思うがな」


 一階に下りて食堂に向かう。が、入り口には終了の札が立てられていた。


「酒場を兼ねてはないらしい。酒を飲みたければ外に行けということか」


「先に宿の主人に訊ねてみよう」


 俺たちは受付のベルを鳴らし、宿の主人を呼んでディーという名の賞金稼ぎが泊まっていないか訊ねた。

 答えはいなだった。

 他国に開かれた港町の宿の主人に相応しく、彼は余所者を嫌ってはおらず嘘を吐いている様子もなかった。

 彼にこの町の酒場と宿の場所を聞き、俺とリマーラは宿を出た。

 夜の港町。冷たい海風が、羽織った外套越しに身体にぶつかってくる。

 

「とりあえず酒場を回ってみるか」


「ああ」


 街灯がぽつりぽつりと立つ通りを、リマーラと並んで歩く。

 吐く息は白く、肌は冷たくて、潮の匂いがした。




「今日で三日目か……。今日こそ見つかるといいのだが」


 宿の食堂で向かいに座るリマーラが、朝食を食べる手を止めて、焦りを滲ませた声で言う。

 一昨日の夜、酒場を回り、昨日はザーラグ中の宿を手分けして回った。しかし、それでも将軍は見つからなかった。 


「焦るな。奴が船を出す日は分かっているんだ。最悪、出港直前に船に乗り込めばいい」


 パンを口に放り込み、スープで押し流す。味など分からない。腹が満たすために食べる、ただそれだけだ。


「それはそうだが、仮にも相手は一国の将軍。あまり無茶なことは……いや、いい。それより昨日どこかの通りを歩いているときに耳にしたのだが、私たちがこの町に着く前日に、見たこともない大きな鳥が町の上空から海に向かって飛んでいったらしい」


「大きな鳥?」


「ああ。レヴァイア殿は、ヒュリがあの雪原から忽然と消えたのは翼竜に乗せられたのではないかと推測していただろう。もちろん、日数が合わないことは承知している。その見たこともない大きな鳥が目撃されたのは三日前で、ヒュリが消えたのは五日前だからな」


 ただ、何となく気になったのだ。そう付け足して、リマーラは残っていたスープを飲み干した。


 部屋に戻った俺たちは、今日の動き方を話し合ったが、すぐに意見が一致した。

 リマーラの言った大きな鳥のことはもちろん気になる。だが、それが翼竜だったのかを確かめることは困難だし、そもそもヒュリが翼竜に乗っているという確証もない。さらに、その大きな鳥が飛んでいたのが海の向こうとなれば捜しようもない。

 というわけで、俺とリマーラは今日こそ将軍を見つけるべく、宿を出た。 

 まずは二人で港を捜す。これは昨日と同じだ。

 ヘルウェルに聞いて、将軍が乗る船が停泊している場所は分かっている。しかし、問題は人の数だ。とにかく港には人が多い。さらに、船に載せる荷や、船で運ばれてきた荷がそこら中に積み上げられているため死角も多い。

 二人で捜しても、将軍を見逃す可能性は少なくなかった。現に今だって、木箱を限界まで積んだ荷車の列が俺たちの横を通り過ぎて――


「こらー! 勝手にどこに行くのよー! 待ちなさーい、キール! ……もう! 明日ライカ姐様が着いたら、あんたがサボってたこと言いつけてやるんだからーー!」


 ……ああ、リマーラ。俺も認めよう。

 これ以上ないほど、運命的だ。


 

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