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黒犬ツアーへようこそ  作者: 緋龍
終わりを追い駆ける国
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四十六日目……言葉のかけら Side:リマーラ

 九十九話(四十五日目……導き)と百話(四十五日目……吹雪の夜明け)を修正しました。

 九十九話の方は特に問題ないのですが、百話の方はちょっと、日にちを一日勘違いしていることに気がつきまして……。辻褄を合わせるために書き直しました。

 読み直さなくてもそれほど問題はないと思いますが……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

 レヴァイアに渡された布でナナを包み、ベッドの上にそっと置く。意識はないけれど、呼吸は安定しているように見える。しばらく休めば目を覚ますだろう。

 そう判断した私は、ナナの傍から離れ、一度自分の部屋に戻った。ヒュリが紙と筆を持っていたのを思い出したからだ。


「ヒュリ、すまない」


 一言謝って彼女の荷物を漁り、目的の物を手にしてレヴァイアの部屋に戻る。

 そうしてナナが私の手のひらに書いた言葉を思い返して紙に書いた。


 りはごくさいのもりらいかがか


「レヴァイア殿、これで合っているだろうか」


「……ああ、俺にもそう見えた」


「よかった。では……」


 私は最初の二文字に丸をして下に線を伸ばし、そこに“ヒュリは”と書いた。


「最初の“りは”、これは“ヒュリは”だと思うのだが」


「同感だ。問題は次からだな」


「そうだな……真ん中にある“もり”という言葉、これは“森”なのではないだろうか?」


 “もり”に二重線を引き、その下に“森”と書く。


「ふむ、そうすると“ヒュリはゴクサイの森”となるな。意味は通るが……リマーラ、ゴクサイの森などという場所を聞いたことがあるか?」

 

「……ない」


「俺もそれなりに旅をしてきたつもりだが初耳だ。だが俺たちが知らないだけでどこかにある可能性は十分にある。とりあえず、残りの部分を解読するとしよう」


「そう、だな」


 解読と聞いて暗号という言葉が頭に浮かんだ。

 古ぼけた書物に記された暗号を解いて、遥か昔に滅んだ王国の財宝を見つけ出す。

 おとぎ話だが、もしここにヒュリがいて、もしこれが宝の在処を示す暗号だったなら、きっと楽しかっただろう。

 ああでもないこうでもないと言いながら暗号を解いて、記された場所に行く。たとえそこに何もなかったとしても構わない。三人で旅ができたということだけで私は満足だから。

 また三人で旅がしたい。いや、別に旅じゃなくてもいい。ただ話すだけでいいのだ。ヒュリと、レヴァイアと、三人で、他愛もない話をして笑い合う。

 それが今の私の切なる願い。叶えるためなら……何でもする。

 ……考えが逸れた。眼の前のことに集中しないとな。


「残りの文字は“らいかがか”。私には何のことかさっぱりだ。レヴァイア殿は?」


「……一つ、思い当たる言葉があるが……それがヒュリとどう結びつくのかまるで見当がつかん」


 眉間に皺を寄せたレヴァイアが、私の手から筆を取り、“らいか”の三文字を乱暴に丸で囲んだ。


「“らいか”? これは人の名か? それとも地名だろうか」


「人名だ。フェリシア――俺の娘の死の一因となった奴……ではなく、もう一人の方だろうが……あの二人は知り合いだったのか? いや……あの人を見透かしたような眼、似ていると言えば似ている……」


「レヴァイア殿?」


 考え込んでしまったレヴァイアに、少し躊躇いながら声を掛けると、彼は、すまん、と言って視線を私に向けた。


「この“らいか”が俺の知っている“ライカ”という可能性はある。が、あの女が今どこにいるか見当がつかん。だから“ライカ”のことは一先ず忘れて、先に“ゴクサイの森”を探すのがいいだろう」


「……分かった」


 レヴァイアの娘、フェリシアを殺めたのは貴族だと言っていたが……。訊くのは止めておこう。彼の哀しみを呼び起こすだけだ。

 紙に筆を走らせる。


 ヒュリはゴクサイの森ライカがか


 暗号はまだ半分も解けていない。だが、手掛かりには十分だ。


「手分けして地図を見よう」


「ああ」


 私とレヴァイアは、床に三国――マーレ=ボルジエ、イシュアヌ、クルディア――の地図を並べ、それぞれ隅から隅までじっくりと眺めた。

 

「……ないな。リマーラはどうだ?」


「ない、と思う。三度は見たから多分間違いないかと……」


「では残る可能性は二つだな。ゴクサイの森がどこかの森の俗称である場合と……」


「ゴクサイの森がヴィトニル国にある場合」


「そうだ。どちらにしろ、ここでそれ以上は分からん。というわけだから、休むぞ」


「休む!?」


 手際よく地図を畳んでいくレヴァイアに、私は声を荒げた。


「そうだ。夜が明けたらここを出発するからな」


「出発ってどこに? いえ、どこでもいい。行くなら今すぐ出るべきだ」


 私がそう詰め寄ると、レヴァイアはまだ畳んでいなかった地図の一箇所を指し示した。そこには、港町ザーラグと記されていた。


「ここに行けばヴィトニルの地図が手に入るし、港町だから情報も多い。船に乗ればどの国にでも行ける。ここからザーラグまではおそらく三日といったところ。慣れない雪道を暗闇の中移動するのは危険なうえ、体力も消耗する。だから体力を温存するため夜が明けるまで寝る。納得したか?」


 事実を淡々と言われ、私は首を縦に振るしかなかった。

 眠気など感じないし、一瞬でも早く行動したいが、焦ればいいというものでもない。

 私は、ふぅ、と息を吐き出し口を開いた。


「納得した」


「よし、いい子だ」


 レヴァイアは、何故か私の頭に手を置いた。


「……子供扱いしないでいただきたい」


 そう言ってレヴァイアを睨んだものの、心がじんわりと温かくなったような気がした。

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