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赤いきのこ

作者: 夢羽

わたしは食道楽だから、死ぬなら食べて死にたい。そう思ってこれにした。

鮮やかな赤色をしたきのこ。

わたしの頭もきのこ。

君はわたしの頭を撫でて、きのこみたいね、可愛いっていつも褒めてくれた。


わたし、ずっと後悔しない人生を歩もうって決めてた。

どんなこともたくさん悩んで、結局一番最初に思いついた行動を選んだ。

人ってみんなそうみたい。誰かの人生を監視カメラみたいに見てたわけじゃないけれど。


様々な経験をした。

入学式。卒業式。また入学式。卒業式。高校受験と大学受験。

そして就職試験。後悔しないように、好きな仕事を選んだ。


お菓子メーカーで働こうと、面接試験でお菓子への熱意を熱く語った。口が止まらなかった。

自分があまりに語りすぎて焦っていた時、くすっと笑う声が聞こえた。それがわたしと君の出会い。黒くて細い髪を揺らしながらにこっと微笑んでくれた。


わたしの後に口を開いたのは君だった。名前は普通だったけど、イメージとは少し違った。

自然体に君はすらすらと質疑応答に答えていた。わたしはそれに焦ることはなく、ただ君がお菓子について語る横顔を盗み魅てた。

たぶん、面接試験のことなんてどうでもよくなっていた。


それからそのメーカーから合否の通知が来た。わたしが内定の通知を受け取った時、ああ、あの時の君もきっと内定の通知を手にして微笑んでいるだろうなと思った。


案の定君はわたしの前にまた現れた。少し髪を短く切っていた。

君の名前を改めて聞いた。そしてわたしの名前を尋ねた。

君はわたしの名前を覚えていないんだと悲しくなった。わたしは覚えていたのに。


それでもわたしは浮かれていた。雲の上にふわふわ浮かんでいるみたいに。

君と仕事するのがどんなに嬉しかったか。

幸せだった。同じ部署に配属されたわけじゃないけれど、時々すれ違ったり、エレベーターが同じになるだけで心が躍った。


君は毎回のように、わたしを見つけると一度視線をそらして口角を少し上げた。

わたしがじーっと君をみると、観念したように小さく手を振った。

わたしは君の手が好きだった。

細い指が左右に揺れるのをみるのがたまらなく好きだった。


君はチョコが特に好きだった。

バレンタインに突然たくさんのチョコをあげると、目をぱちくりして涙がでるほど笑ってくれた。

それから嬉しそうに包み紙をめくって、おいしそうにそれを食べてくれた。

包み紙を綺麗にのばして並べていく君の隣にいるのが心地よかった。


君とお酒を飲むのも好きだった。

グラスを机に置くカウントをひそかにするのが楽しみだった。

今日は何回目で顔が赤くなるのだろう。何回目から上機嫌になるのだろう。

そう考えながら、君の腕が時々わたしの肩に触れるのを感じた。


ごはんを食べに行くことも多かった。

ふたりとも食通で、おいしいお店はよく知っていた。

かわりばんこでお互いをエスコートしあった。

君は大きな口でスプーンいっぱいに盛ったごはんを鼻唄を歌いながらほおばった。

きのこをつまんで、共食いだって笑う君のえくぼが好きだった。


君はいつも笑顔だった。わたしを見かけると必ず駆けてきてくれた。

なにかしら最初は気を使ってくれていたのはみえみえだった。

でもいつしかそんなことはなくなった。

それを思うと胸の奥がじーんとなった。


衝動的にはじまった恋が愛に変わったのはいつからだろう。

胸の奥でしっとり赤く染まるハートを君に渡す日は来るのだろうか。

伝えたい。でも怖かった。

君とこうすることができなくなるのがつらかった。


初めて後悔したのは君が有休をとった日のことだった。

たくさん後悔した。

なぜ君に好きだと伝えなかったのだろう。

なぜ君とキスしなかったのだろう。

なぜあの時自分も一緒に行なかったのだろう。

なぜ君の代わりに死ねなかったのだろう。

なぜ君が死ななければならなかったのだろう。


人が死ぬのはエレベーターなんかよりはやい。

わたしは君が息を引き取る瞬間に傍にいられなかった。

声が枯れるまで泣いた。

身体中の水分がなくなるほど泣いた。

それでも楽になんてならなかった。

ただただ、君のいない現実が突き刺さって痛かった。


仕事も手につかない。

涙は止まらない。

熱は引かない。

呼吸も荒くなったままだった。

このまま死ぬんだと思った。

死んでもいいと思った。

いっそのこと死にたいと思った。

君がいないこの世なんて、


それでも神は自分から死ぬことを許してはくれない。

簡単には死ねない。

君はあんなに簡単に死んだのに?

世界は理不尽だ。

神は理不尽だ。


なにもかもがいやになった。

だから死のうと思った。

悲しさと苦しさでたまらなかったけれど、

どんなに叫んだって、どんなに泣いたって

死ねなかった。


わたしは食道楽だから、死ぬなら食べて死にたい。そう思ってこれにした。

鮮やかな赤色をしたきのこ。

わたしの頭もきのこ。

君はわたしの頭を撫でて、きのこみたいね、可愛いっていつも褒めてくれた。


初めて食べるどくきのこはおいしかった。

君はこれを食べたらどんな顔をするだろう。

君だって、死ぬなら食べて死にたかっただろうに。

天国でおいしいものを食べているかな。

まっててね、わたしもすぐそっちにいく。

天国のおいしいお店、ちゃんとエスコートしてね。


すごく単調に書いた文だけど、わたしが君を好きになっていく過程が書けてよかった。君が男か女かはわからない。わたしの中では決まっているけれど、主観的に見ちゃうからどっちかに寄った見方しかできないのがつらいね。

きのこ食べて本当に死ねるのが裏づけとってないけど死ねるきのこってあるよね?

赤いきのこかどうかもわかんないけど、普通赤とか紫とかのイメージある。

いや知らんけど(関西弁)

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