雲になればいい。
真っ青な空。
僕の四方を取り囲むフェンスがなければそれは半球の様に広がっていたはずなのに、人工の鉄柵で遮られてその広さを感じさせてはもらえない。
神様がわざと色を塗り忘れていったような白い雲に、僕の胸の上にばら撒かれている白紙を重ねる。
同じ白なら雲になればいい。
背中に感じるコンクリート独特の冷たさと、硬さ。つくづく人工物ばかりだとため息をこぼす。
こんな監獄のような場所で、教育者が望む優等生であったところで何の得があるのだろうか。
そんな事に気を使うぐらいなら、寒空のもとコンビニから家に温かなおでんを冷まさずに持ち帰る事に使いたい。
そっちの方がだいぶ有意義だ。
手をついて上体を起こすと、体の上にあった紙はバラバラと舞い落ちる。
いっそ、そのまま雪のように溶けてなくなればいい。
そんな事が頭をよぎる。
いやいや、今日はもう決めたんだ。
校舎のてっぺん。
屋上の上に僕は立ち上がる。
担任から渡された真っ白いテスト用紙。
勉強が出来ないとか、
体調が悪かったとか、
そんなんじゃない。
ただ、眠ってしまったのだ。
開始早々夢の世界に旅立ち、肩を叩かれては回収されてしまったこの紙。
何をしていたんだと言われても、"鳥になって空を飛んでいました"なんて言えないだろう。
そんな紙を丹精込めて折っていく。
名前もない、回答もない、点数もない。
問題だけがそこに寂しく印刷されたそれを、僕は同じように白い雲めがけて飛ばす。
指から離れて雲へと近づくそれが、いずれ降下していく事を知らないわけではない。
でも今は、雲になってしまえばいいとそう願うんだ。
読んでくださりありがとうございます。