*エピローグ
「誰かー!! 火事だー!!」
トイレ掃除に勤しんでいる翔子の耳に、そんな叫び声が聞こえてきた。かなり遠くから聞こえてきたので、現場もきっと遠いだろう。
声のした方を見れば、なかなか立派な古いマンションが燃えているではないか。五キロメートル程度先のことだろうか。周囲に家屋がないので近隣を巻き込んだりはしないだろうが、嫌な予感がする。
翔子は掃除を中断し、急いで現場へと向かった。バイクを転がして、真っ直ぐ伸びる国道を飛ばす。
現場に到着。案の定、中に人が取り残されていた。
なかなか派手に燃えている。ここは消防署から遠いからか、はたまた通報が遅れたからか、未だに消防車は来ていない。
これは大変だ。早く助けないと、取り残された人は死んでしまうだろう。焼死は辛いとも聞いた。
翔子は人混みをかき分け、最前列に出る。見れば見るほど悲惨な火事だ。
敷地の周囲は柵で囲われているが、正面はガラ空きだった。
第六感で、中の様子をチェック。どうやら最上階――六階に一人取り残されているらしい。
「融装!」
迷わず敷地に侵入した翔子は、燃え盛る階段を全速力で駆け上がりながら鎧を纏う。ベクターズが居ないので、こんなことぐらいでしか役に立たない代物だ。こんな時に使わないで、どうする。
最上階に到着。熱で歪んだドアを蹴破って、人の居る部屋へと急ぐ。
居た。
女性はうずくまり頭を抱え、ベランダの近くで震えている。今にも火の手に襲われそうな、ギリギリの位置だ。
なんとか間に合った。
「大丈夫ですか!?」
翔子は女性の反応を待つことなく抱え上げ、周囲を見渡す。この火の手では、人を抱えたまま突破するのは難しい。自分だけなら、楽に抜けられるのだが。
仕方がないので、ベランダから飛び降りることにする。
女性を抱えたまま、翔子は翼を広げた。久雄との戦い以降、ずっとこの姿を維持できるようになったのだ。
気が動転しているのか言葉にならない悲鳴を上げ続ける女性をしっかりと抱え、翔子は思い切り良くベランダから飛び降りた。
そのまま、重力に身を任せて自由落下――することなく、翼に風を受けて滑空した。このための翼だったのだ。
適当な位置でUターンしてから、現場の近くに女性を降ろす。
融装を解除して女性が落ち着くまでなだめる。本当は早くトイレ掃除に戻りたいのだが、助けてしまった手前、ここでさよならというわけにも行かないだろう。
「あ、ありがとう、ございました……」
「いえいえ、どういたしまして!」
消防車が到着して消火活動が始まった頃、やっと女性が落ち着いた。礼を言われたので、翔子は軽く会釈を返してバイクに跨る。
人助けとはいえサボりだ。さっさとトイレに戻らなければ。
清々しい気分でサボりを終えた翔子は、国道を飛ばしてトイレへと戻った。
Fin




