生徒会長が連絡先を・・・
今の僕はテンションが高い。
と言うのも俺は今、僕の財布の友であり心の友である『安いYOU』のタイムサービスで勝ってきた(買ってきた)ところなのだ。
え?戦績を聞きたい?ほうほう、そうかそうか、では教えてやろうかな~。
まずこれ、さっきも言ってた卵一パック(10個入り)20円を2パックゲッツ!!
これで暫く、弁当の玉子焼き代が安くつく。ンフフフ…。そうだな、今度は豪勢に目玉焼きでも作ってみるかな~。
で、次にこれもさっき言ってたやつ。キャベツ一玉10円。これは最後の一個を僕が力ずくでもぎ取った。つまりこれはもぎたて野菜なのだ。あ、ウマくないですか?
そしてそして、ここからはチラシにも載ってなかった隠れキャラが並ぶ。
まず、大根1本12円。まぁ僕って大根さんは好きじゃないんすけど、安いから買いだ。
次はヨーグルト(3個入り)50円、これを2セット。ヨーグルト好きの僕には嬉しいな~。
そして極めつけはこれ!
カップヌードル・シオ(賞味期限明日)3個で100円!賞味期限なんて、所詮は美味しく食べられる期間だ。僕は安くつけばなんでもいいんだ!
さて、買ったものの羅列はこれくらいにして、一先ず店を出よう。
そうそう、霜月先輩の車、リムジンから降りた僕は、その後猛ダッシュして中年の主婦達が蠢く、地獄絵図のような戦場タイムサービスへ向かったんだ。
中年のおば様方、この勢力がタイムサービスやバーゲンセールにおいては最強を誇る。
引っ越してきたばかりの新妻さんとかでは一切太刀打ちできないような、殺気と熱気、そして欲望を迸らせて目玉商品へと向かっていく。
タイムサービスは、もはやおば様方の所有物と言ってよい。
が、しかーし!
それは普通のスーパーでの話であり、この街にはこの僕、青島渉がいるのさ!
中年おば様方に負けない体力と、何度も修羅場を潜り抜けてきた経験が、この僕にはある!
まさか高校2年生の青春真っ只中の男の子が、部活もせずにタイムサービスに現れるなんて思ってもみないであろうおば様方を掻き分けて、僕はいつも安定した好成績を収めるのだ。
何と言ってもおば様方よりも頭一つくらい背が高い俺だ、勿論射程距離も広いから、一早く商品に手が届くのさ。
とまぁ、こんな話はどうでもいいな。そう言いながらも語ってしまった僕だが、今注目すべきはぼくの目の前だ。
確か僕が戦場へ向かう前、霜月先輩は「またな!」と言っていた。
はずなんだけど、今僕の目の前にはさっきのリムジンがまだある。
あれ…?なんでまだいんだろ…?
僕は恐る恐るリムジンに近付き、霜月先輩がいるであろうマジックミラーの窓をコンコンと叩いてみた。
「あの~、どうしたんですか?霜月せんぱーい」
すると、窓ではなくドアが開き、中から霜月先輩が現れた。
「おう!どうだったんだ結果は?」
「はい?あ、ええまぁ、わりと」
「おおそうか!それは良かった。じゃあ早く乗れ」
「…え?」
「乗れ」
なんて言ったの?
さて、僕の低機能ブレインコンピュータで変換してみようか。
え~っとノレは…載れor乗れ…。まぁこの場合、僕が週刊誌に載るとかじゃないから、多分正しいのは『乗れ』の方。
まぁつまり、僕はなぜか霜月先輩に逆ヒッチハイクをされていると…。
まーねー…一応恩人だから言うことはできるだけ聞かなきゃだけど、このまま拉致られて、アメリカの親父達に迷惑掛けることになったら面倒だし…。
そうだな、とりあえず、訊いてみよるか…。
「ええっと…どこへ行くんですか?」
「君を家に送っていくに決まってるじゃないか」
ん~…ん?お、おうぉぅ…そういうことかいな…。でも、なんでそこまで…?
「あの…それはとても有り難いんですけど…俺の家分かりにくいとこにあるんで、大丈夫ですよ」
「それなら安心しろ。君の家なんて私……いやいやハ、運転手がちっかり知っておるじょ?」
「なんで家、知ってるですか?あと語尾おかしいですよ。」
「にゃー!!そんなことはどうでも良い!と、とにかく!君の家は運転手が知っているから、君は黙って乗れば良いんだ!」
「……はぁ…じゃあお言葉に甘えまして…」
なんか必死に迫ってくる霜月先輩が怖かったので、僕は諦めてリムジンに乗った。
まぁまたリムジン様に乗れたのは嬉しいけど、やっぱりなんか気が引ける…。
それに、霜月先輩も下校中だったんじゃねーのかな?だとしたら僕なんて送ってたら遅くなるし…。
う~ん…やっぱり断るべきだったかな…?
「よしハーメル!レッツゴーだぞ!」
まぁ先輩がせっかく送ってくれるって言うんだし、あんまり気にしなくて良いかな~。
僕がそう決めて座席に凭れると、走りに走った疲れが押し寄せてきた。
久しぶりにあんなに走ったな…。いつもはちゃんと20分前くらいに着いてスタンバっとくんだけど、今日は忘れてたことに加えて色々あったからな~。
あ、そう言えば奈々!あいつの好きなやつって結局誰だろうな…。 俺かな?
いやぁ~ないない!そんなおもしろい展開があって堪るか。まぁあって欲しいけど。
「あ、あの…」
僕が目を閉じながらそんなことを考えていると、隣にいる霜月先輩がツンツンと僕の肩を突いてきた。
絶妙な力加減なのか、無性にくすぐったい…。
「はい?なんですか?」
「い、いやぁ…その…なんだ?…ほら…せっかく知り合ったんだから……その…」
「……あの―」
「やっ!やっぱりいい!なんでもないぞ!」
顔の前で両手をブンブン振りながら、僕から顔を背ける霜月先輩。
そんなことしてるとまたどっかに手をぶつけるんじゃないだろうか…。
で、一体何を言おうとしたんだろうかこの人は…。
なんかアレだな…クイズの答えを寸止めくらったみたいで…なんかやけに気になるな…。
「何ですか?言ってくださいよ」
「え、えぇ…?だって…ちょっと今のは……ものの弾みというか……」
「気になるんですって。僕ってそういうことされると夜も眠れないタイプなんですよ?」
「…そ、それはまさか!?私のことを考えて…夜も眠れないと…そういうことか?」
ん?勘違いしてないこの人?まぁわざわざ否定すんのもめんどいから適当に頷く。
「そ、そうか…おぉ…良いなぁそういうのは…」
なんか僕に背を向けてそんなことを呟く霜月先輩…。
聞こえてないと思ってるんだろうけど、生憎リムジンの中は静ちゃんだからまる聞こえですよ~。
「あの~早く教えてくださいよ。僕ほんとダメなんですって」
「や…その…だからな…け…けー…」
「けー?けー、なんですか?」
「……ケータイの……アドレスを……だな……交換…しないか……?なぁ~んて……」
何故そんなことに?続く