何の音だ!!
‘バリィィン!!’
「なんだ!!泥棒か!」
僕は耳を指すような鋭い音で、寝慣れていない、少し硬いソファから飛び起きた。
今までの人生で何度も寝て起きてを繰り返してきた僕だが、今の今までこんな音で目覚めたことは一度もない…。
僕が恐る恐るリビング内を見渡すと、チラッと見える台所に、水色の髪の毛の誰かが立ってる……。
えっ、誰だよ!!
いや待て僕!思い出せ…何かが引っかかる!そもそも僕がここで寝ていた理由を考えてみろ!
そうだそうだ……うんそうだ!!言い方は悪いが、昨日からうちに居候することになった(まだ納得はしてないけど)葉月夏音、その人だ!!
…と…なると…今の音は何…?
僕は寝起きのせいで演算機能がイマイチ正常じゃない脳が覚醒するのも待たずに、音の正体を確かめるために台所へ向かった。
すると、葉月が僕に気付いて振り向いた。顔を見ると、なんか悲しそう…。
葉月の視線は僕から床に移され、僕もそれを追って床に目をやった。
……………ちょいちょい…。
床には、すでに粉々になった僕のお気に入りのお皿ちゃんが一枚…無残な姿で散らばっている。
なんでこんな時間に皿が割れるんだ…?…ん?皿…?うおぉ!!
「大丈夫か?」
「…え?」
「え?じゃなくて!怪我だよ怪我!どっか切ったりとかしてないか!?」
僕は半分動転しながらも、葉月の身体全体を見渡す。
見た感じだと、幸い怪我はなさそうだ。本人も痛がってる様子はないし。とりあえずは安心だけど、まずはこの皿の残骸を掃除しないと……。
「良かった…ホントに怪我ないよな?」
「……あの…」
「よし、ちょっとここを動くなよ」
僕は葉月に動かないよう言って、昨日の新聞を持ってきて、それを箒代わりにして破片を掃いていく。
良かった…一応この子は預かってる子だ。責任は不本意ながらも僕にある訳で、怪我とかさせたらやばい…。
全ての破片を片付け、僕はポカンとしてる葉月に、いくつか気になってることを尋ねた。
「で、なんでそんな格好してるわけ?」
葉月の格好は、昨日のパジャマの上に、母さんが置いて行ったピンクのエプロン…。
まぁ似合ってはいるんですけどね…僕が言ってるのはそういう話じゃないんですよ。
「…昨日見つけたから…」
「…いやいや、そうじゃなくて、なんでそれを着る必要があったわけ?」
「……ごはん…」
「え?」
「朝ごはん……作ろうと思って…」
…あぁ~……朝飯ね……なーるほど…。
まず一旦保留しよ!一旦だぞ、あくまで一旦保留するだけだからな!
「えーと…じゃあなんで…皿が割れたのかな?」
「………落とした…」
「…はぁ…そういうことか…」
つまり、あさごはんを作ろうとして、皿を扱ってるときに手でも滑らせたんだろう。
昨日はしっかりしてる子だと思ったけど、なんかちょいとドジっ気もあるらしい…。
「で、なんで朝飯なんて作ろうとしたんだ?」
「……お礼…」
「オレイ?」
「…昨日…ラーメン貰って…わがままも聞いてくれたから……そのお礼…」
うぅ~む……なんか完全に怒れなくなってしまった…。
僕も、場合によっちゃあのお気に入りの皿を割られたことに対しての怒りを、まだ覚醒しない脳でもって葉月にぶつけようかとも思ったけど、こうなってくると怒るのは流石に可哀想だ…。
いや、勝手に朝飯を作ろうとしたことは確かに問題ありだが、その行動の裏にこんな善の心が隠れている……それじゃあお兄さんはこの子を叱れねぇや…。
なぁ…これで良いかな?僕の良心さんよぉ…。
「……でも失敗した……ごめんなさい…」
「ん…まぁ良いよ。僕のためにやってくれたんなら、僕にも責任あるし…」
「……やっぱり優しいね…」
「はいはいもう良いの!さ、じゃあ僕も手伝うから、続き作るぞ?」
僕がそう言うと、葉月は恥ずかしそうに笑って、僕に頭を傾けてきた。
…What…?
とどのつまり、僕にどうしろと言うのでしょうか…?なに?頭を出してきたってことは私を殴れ!的な…?
いやいや、まさかそんな…朝からそないにハードな仕置きはNGだぜ…。まぁ思い当たることがあると言えば、昨日のアレだけど…。
僕は確証もなかったけど、上目遣いで僕を見てくる葉月をほっとく訳にいかず、僕は一種の賭けで葉月の頭を撫でてみた…。
「……えへ……」
…どうやら正解みたい…。
昨日と同じように目を細める葉月。どうやら頭を撫でられるのが好きらしい。
色々変わってるけど、これでもう一つ変わってるところ追加だ。
「はい終わり!で、なに作ろうとしてたんだ?」
「…目玉焼き」
おぉ……アンタいきなり豪勢にいくじゃねぇか……。
ちなみに、タイムサービスの件でも仄めかしたと思うけど、僕の感性では、玉子焼きの方が目玉焼きより質素だ。
まぁそんなに量的な関係は変わらないと思うけど、なんとなく食い方が豪快だろ、目玉焼きって。
「…まぁ良いか…。じゃあ適当に食パンの上にでも乗せるか。僕、食パン焼くから、目玉焼きよろしく」
「ん」
僕はあっちを葉月に任せて、食パンを二枚取り出し、立てて入れる系のトースターにヒョイっと投げる。
2枚のパンは正確に定位置に飛び込み、僕はガッツポーズした後、スイッチを入れた。
凄いだろ?僕って一人暮らしだからな。一人では退屈なもんで、どうしてもこういう下らないことをやってしまうのだ。
おかげでかなり上達したし、8割くらいの確立で入れることができる。
葉月も僕の凄業を見て、感心したように目を丸くしてる。なんか鼻高々だな。
で、僕は後は待つだけなので、葉月の料理の腕を拝見することにした。
初っ端から一枚地獄行きにしたこの人だ。この先何かないとも限らないので、僕は少し気を張っていた……。
続く