この着信は詐欺?
「はい、じゃあやってみ」
「ん」
僕達は今、風呂を沸かすために台所へ降りてきた。
今日から風呂を沸かすのは葉月の役目になったので、しっかり理解してるかどうか確認も兼ねて、葉月に沸かさせてみようというわけだ。
葉月はさっき僕が教えた通りにテキパキと手を動かし、ものの3秒程度で風呂が沸くのを待つだけの状態になった。
なかなか物分かりが良いようで、ちゃんと温度も40度に設定されている。
「やるな~」
「ん」
僕が冗談半分で頭を撫でると、葉月は予想外にも目を細めて気持ち良さそうにしてる…。
……可愛いと思ったことは僕と君との秘密だ…。
「じゃあ、沸いたら入っていいぞ。それと、寝るときのことなんだけど…」
「…?」
「今日はソファで寝てもらうことになるかも…」
「…別にいいよ」
「…悪いな」
僕が頭を下げると、葉月はツンツンと俺の頭を突いて。
「大丈夫」
良い子だ…。
良かった…。これでこの子の性格が最悪だったらどうしようかと思った…。
そう言えば…この子も僕と同じように…一人で過ごしてたんだよな…。
じゃあやっぱ…さっきの寂しいってのも…しょうがないのかも…。
いや…、でも逆に考えれば一人には慣れてるはずなんだけど…。
まぁ……でも同じ境遇ってのは……なんか親近感沸くな…。
「あぁ~あ、良い湯っだなってか~」
僕は葉月の後に風呂に入り、今丁度上がって来たところだ。
葉月の服とかがさっき届いて、荷物の中には水色のパジャマが二組と、桜ヶ咲高校の制服が入ってた。他に入ってたのは学校用のローファーと運動靴が1足ずつなど。
で、葉月にはパジャマを着てもらって、俺はいつも通りのジャージ姿。
んあ?僕の格好なんてどうでも良いと?そりゃああんた酷いよ…一応主人公は僕ですしね?
「おかえり」
「…ただいま?」
僕がリビングに戻ると、葉月はソファにちょこんと座ってテレビを見ていた。
ついていたのは9時からやってるクイズ番組。もう10時前なので、もう番組も終盤だ。
「クイズ好きなのか?」
「うん」
「ふ~ん」
………会話が続きませんね…。
葉月はさっき分かった通り良い子で、物分かりも良いんだがね…基本的に口数が少ないし、喋ったとしてもいっつも一言だ。
つまり、僕がどんなに頑張って話題をフっても、殆ど会話のキャッチボールがないまま、その話題はジ・エンドへ…。
言うまでもなく気マズいわけで…僕は逃げ道を求めて2階の部屋へ移動。そこでさっき机の上に置いておいたスマホを開く。
すると、新着メール4件、着信8件……8!?
不審に思って履歴をチェックすると、全部同じ知らない番号から……。誰…?
まぁそれは置いといて、とりあえずメールを確認してみる。
『言われた通りメールしたぞ!霜月雪だ!』
……霜月…雪…………?…誰だ…?新手の詐欺?
いやいや、言われた通りってことは、俺がメールをするように言ったんだろうけど…シラネ…。
待て!そんな訳はない…!今日アドレス交換した人だ、俺は他人にはアドレスとか訊かないから、多分訊かれたんだろう…。
うぅ~む……分からん!…こんなときは他のメールも見てみるしかないな…。
『その…返信がないが…忙しいのか…?いや…だったらいいぞ!無理しなくて構わない…けれど…』
……ヒントが少なすぎる!はい次っ!
『あの…そんなに忙しいのか…?でも…メール…ぐらい…返して欲しいのだが…』
……あ、オッケーオッケー!きそうきそう!もうちょいだ!
『…もしかして…私が何か気に障ることをしたのか…?だったら言ってくれ…その…謝るから……と、とりあえず…直接話したいから…電話してもいいかな?』
…電話…してもいいかな……あ、詐欺じゃないこれ…思い出した。
ジョセフさん!じゃなくて!生徒会長の霜月先輩だぁー!!うわぁヤッベぇ…色々ありすぎて完っ全に忘れてた…。
もう忘れてたどころか断片すら残ってなかった…。でもまぁ、とりあえずは思い出せてよかったとしよう…。
さて…どうする…?このメールを見る限り、この電話は100パーセント霜月先輩だ…。
掛け直すか…?いやしかしっ!それでは電話代が……。待て待て、何を言ってるんだ僕は…。流石に8回も電話してくれてる先輩に、電話代が掛かるから掛け直さない、なんて…それが送ってくれた恩人に取る態度か?
答えは否だ!とりあえず、メール返せなかったことと、電話に出れなかったこと謝らねぇと…。
俺は一先ずアドレスと電話番号を電話帳に登録する。そのとき、登録名を『霜月先輩』にするか『霜月雪』にするか迷ったけど、ここは敬意と面白半分で、込めて『霜月雪様』と登録しておいた。
‘プルルガチャッ!’
早い…第一コールが鳴り終わる前に出るとは…まさに早業…神速とも呼ぶべき速さだ…。
『も…もしもし…霜月です…』
「えと…わたるです…あ、今日家まで送ってもらった青島渉です」
『おっおぉ!君か!』
「メール…返せなくてすみませんでした…。ちょっと忙しかったもので…」
『き、気にするな!私が…辛抱がないばっかりに…』
「いえ、本当にすみませんでした。…それであの…なんのようですか?」 続く