3.会長
昨夜はよく眠れなかった。
あの男のことを忘れようと、気合を入れたのが逆効果だったらしい。
僕は目が覚めると真っ先に洗顔をする。
気持ちを切り替える意味をこめての習慣でもあった。
この季節だと冷たく感じる水。
おかげで眠気も憂鬱な気分も晴れた。
やはり僕は家に一人だった。
僕一人にはこの家は広く感じるけれど、もう慣れた。
仕方なく朝食のトーストを食べ、身支度を整える。
紋章は中二臭くてダサかったので、絆創膏を上に貼って隠した。
「これ…リスカしたみたいに思われたら嫌だな」
そんな馬鹿げた心配も頭をよぎり、思わず口に出してしまった。
今日も魅桜と一緒に登校する約束だ。
僕は時間より少し早めに、スクールバッグを持って家を出た。
昨日のような寒さにも対応するため、マフラーと手袋も忘れず装備。
「いってきます…」
誰もいない家に向かって呟き玄関のドアを開ける。
朝から冷たい風は吹いていた。
自転車に乗り、魅桜との待ち合わせ場所に向かう。
驚くことに、僕よりも早く魅桜は来ていた。
その隣にはどこかで見たような人影。
「おはよう、碧」
魅桜は何食わぬ顔で挨拶してきた。
「おはよう…」
隣の人物も微笑む。
ああそうか、この人は―――
「おはよ、魅桜。…と、生徒会長…?」
僕が所属する生徒会のトップ、天崎橙星。
左右で色の違う瞳が印象的な先輩だ。
何故彼が魅桜と一緒にいるのだろうか。
「驚きを隠せないみたいだな、化野」
「それは驚きますよ、会長」
僕は言葉を放つと共に魅桜をちらっと見た。
いつもとは少し表情が違う…疲れているような。
学校に着いたら話をしよう。
時間には余裕がある。
自転車をゆっくりめに漕ぎながら、考えを整理した。
魅桜と会長は、僕の知らない間に付き合っていたのでは?
それなら、一緒に登校していてもおかしくない。
が、魅桜が見せる表情はそんな雰囲気では無く。
(難しい、な…)
時々会長が口を開き、魅桜はそれに答える。
会話はぎこちないようにも思えた。
数十分ほどで学校に着いた。
会長とは一旦別れて、僕達は一年の教室に向かう。
「…魅桜」
「ん、何?」
「生徒、会長と…付き合ってるのか?」
教室に着くなり、小声で聞いてみた。
直球すぎるとは思ったが、これが一番手っ取り早い。
「…いや…それは…うーん?」
返ってきたのは何とも曖昧な反応。
違うなら違うと言えば良いのに。
「どっちなんだ?」
「…話せば長くなるよ」
「面倒だな」
「え、じゃあ…」
魅桜は、誰にも言わないでね?と念を押した後に腕時計を外した。
彼女がいつも付けている腕時計。
その下には、どこかで見たような柄の、水色のタトゥー。
僕は、目を疑った。
「昨日、家の前に先輩がいてさ。契約だーとか言ってこれ付けられたんだよね…」
苦笑しながら話す魅桜。
内容は僕のこれと一致していた。
「信じられないでしょ?あの先輩が…」
「…僕もだ」
「え?」
自分の手首に貼ってある絆創膏をはがして見せた。
魅桜と同じ翼のタトゥー。
「…家に帰ったら、変な中二病がいて…」
一部始終を語った僕。
魅桜は馬鹿にすることなく聞いてくれた。
『悪魔、信じるか?』
昨日の男の言葉を思い出す。
受験前なのに…(
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