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第一話 異世界

 私はどうやら切り捨てられたようだ。


 死神というのは人の生死に立ち会う存在だ。到底一人では捌くことはできないため、死神は無数に分身し、それぞれの元に向かう。今の私というのもその無数の分体のひとつであった。


 私は一人の少女の魂の回収に向かったのだが、目にした時には驚いた。彼女は我々神を生み出した最初期時代の魂を持っていたのだ。枯れるのを待つ古木のようでありながら、その雄大さに畏敬の念すら湧き上がった。


 断わっておくが、神が人を創ったのではない。人が神を創ったのだ。最初の人は死を知らなかったため、死神はいなかった。人が死ぬことを認識した人が私を創るに至った。それから人が困難にぶち当たる度に神々が生まれた。狩がうまくいかなければ狩猟の神が、田畑が不作になれば農耕の神がといった具合に。


 話が逸れた。


 私はその少女を見逃すことを決めた。しかし『私』はそれを赦さない。死は全ての人に平等でなければならない。しかし次に彼女のもとに遣わされる私もやはり彼女を見逃すだろう。それを危惧した『私』は私を彼女ごと世界の外に放り出した。


「というのが顛末だ。理解してもらえただろうか」


 私は目の前の少女に説明をした。彼女は幾分困惑していたようだが、取り乱すことはない。その落ち着きたるや波立たぬ湖のように美しい。


「じゃあ、ここは違う世界ってこと」

「その通り。尤も、どのような世界かは私にも分からない」

「あれ、直せる?」


 彼女が指差すのは、彼女が乗っていた車のついた椅子だ。車は円と言うより半月のようになっており、しかも片方の車輪が失せている。


「私には直せそうもない。君は歩けないのか」


 私の問いに彼女は首肯で返す。


「ならば私が運ぼう。見ての通り人より大きく創られている」


 少女の背丈はちょうど私の半分ほどだろう。抱えるどころか肩にでも乗せられる。彼女にしてみれば多少の抵抗はあるだろうが我慢してもらうより仕方が無い。

 自分の脚をなくしたような彼女は飛べない鳥のようで儚い。壊れないようにそっと持ち上げ、肩に座らせる。


「わ、高い……」


 彼女はがっしりと私の頭にしがみ付いた。彼女の視界は今までにない高さにあるのであろう。


「落としはしないと思うが、しっかりつかまっていてくれ」


 少女は答える余裕もないのか、気配でのみ返事を返してきた。


「では森を抜けよう」


 私は地面から少しだけ浮き上がり、少女を振り落とさないようにゆっくりと宙を滑り出す。歩き出すと思っていた彼女から小さく驚きの声が出た。


 この森は生き物の気配に満ちている。それも大人しい奴らばかりでもないようで、此方を伺っているようなものもいる。流石に人間の気配と違うことは分かるらしく、襲ってくることはなさそうだ。


「見て、大きな動物」


 少し慣れてきたのか、少女は辺りを見回す余裕がでてきたようだ。心なしかはしゃいでいるようで、そういうところは身体の年相応に見える。


「熊、とは違うようだが」

「甲羅がない?」

「角もある」


 どうやら訳のわからない動物たちが跋扈しているらしい。死神が死ぬという間抜けなことにはならないだろうが、肩の少女は簡単に死んでしまう。せっかく永らえたのだ、守らねばなるまい。

 

「ところで、あなたに名前はあるの?」

「いや。先ほどまではあったが、切り捨てられたことでその名は私のものではなくなった。君の名前はなんだ?」

「雨宮しぐれ」

「雨女なのか」

「別に。まぁ雨は降っているけど」


 彼女の言うとおり葉を雫が叩く音が溢れていた。幸い、森の木々が厚く、我々が雨に打たれる心配はない。


「そうだ、あなたに名前をつけましょう。死神さんだなんてセンスがないし」

「好きに呼べ」

「じゃあ、あなたはレインね。これでこの雨はあなたのせい」


 少女は楽しそうに言う。


「君も半分だろう」

「残念、時雨は秋から冬にかけて降る雨だから、今は私のせいじゃないってこと」

「む、それだと卑怯だ。どの雨も私のせいではないか」


 だからつけたのだ、という風にしぐれは笑った。雨宮というのはどうだとは思ったが、言わないでおく。

 それにしても、この森はどこまで続くのだろうか。今日中に抜けれそうになければ、どこかに拠点を設けてしぐれの食事やらを用意しよう。

 人間は毎日食べたり飲んだりしなければすぐに死んでしまう生き物だ。ましてや満足に移動さえ出来ない彼女は一人ではすぐに死んでしまう。


「しぐれ」

「なに?」

「先に言っておこう、私は君を見捨てるつもりはない。こうなったのも私のせいだ。どうか私に君が死ぬまで見守らせてほしい」

「……いきなりプロポーズしないでよ」

「すまん」


 だがしぐれ、君が私を名前で縛ったのは私を留めておきたかったからだろう?

 かつての人間たちもそうやって我々を留めた。君はなかなかに強かな人だ。






みんな一人称が私

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