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プロローグ

 硝子の外は光に溢れていた。小麦色に日焼けした肌の子供たちが元気に駆け回り、草の香りをふくんだ風が入道雲に吸い込まれていく。どこにでもありそうで、得難い風景だと思う。

 対して硝子の内側、つまり私の風景は無機質なモノトーンだ。私は真っ白な部屋で、車椅子に座りながら外を眺めていた。


「気をつけて遊ぶんだよ」


 硝子に手を当て、そっと呟く。届きはしないだろうけれど、なんとなく言ってみた。歩けることだって、ましてや走り回れるだなんて、とても幸せなことだから。


 ふと、後ろの方に気配を感じた。というのも硝子に影が映り込んでいたから。


「誰?」


 言いながら振り向くと、予想とだいぶ違ったものがそこにいた。


 彼が人間でないことは明らかであった。天井すれすれの巨体はまだ分からなくもないが、問題はその長身が爪先立ちを少し通り越して浮遊することで得られているということだ。


「死神……」


 そう、彼はまさに死神だった。手にする巨大な草刈り鎌はその象徴とも言える。

不思議と恐怖はなかった。事故では九死に一生を得たものの、家族を皆亡くし、私の脚は動かなくなった。この喪失感が私の命を身体の外に発散させていたのかもしれない。彼は弱った私を迎えにきてくれたのだ。


「何か心残りはないか」


 彼が優しげに語りかけてきたことには驚いた。問答無用、という訳ではないようだ。この様子じゃあ、表の子供たちに死を振りまくなんてことはなさそうだ。


「なんでもいい?」

「私が君にしてあげられるのは、猶予を与えることだけだ」

「そう……」


 思ったよりケチなよう。もう一度走りたい、なんて言ってみたかったのだが。


「じゃあいいわ。連れてって」


 私は刈りやすいように首を伸ばして目をつぶった。


「別にこれで首を刈るわけではない。この鎌は聖職者の持つ杖に似ている」

「飾りってこと?」


 私が茶化すように言ったら、彼は黙ってしまった。怒らせてしまったかと思ったが、彼の顔は何の表情もない。しばらくして、彼はおもむろに口を開いた。


「私は迷っている。君の魂は非常に古く、恐らく次の転生はかなわないだろう」


 転生していたことも自覚がないのに、そう言われても実感はない。それより私にとっては今死ぬかどうかのほうが問題だ。


「珍しいの?」

「寿命を迎えた魂はそれほど珍しくはない。しかし驚くべきことに君は私よりも古く、その魂は我々神にほど近い。消してしまうには惜しい」

「結局どうするの」


 どっちつかずな状態というのは嫌なものだ。しかもそれが生死を分けるものなら尚更というもの。


「私は見逃そうと思うが……」


 彼がそう言うや否や、白い部屋に紫色の魔法陣のようなものが溢れた。


「すまない……やはり『私』は見逃してくれないらしい」


 次の瞬間、私の意識は暗転した。


厨二病は何科に行けば治るんでしょうね……

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