拝啓、あなたさま
ねえ、あなたさま? 大変な事になってしまいました。
すっかり妖精の国だと思っていたのに、外に出たらとんでもない!
そこには、きちんとした人の国があったのですよ。
彼らが小さいのではなく、私が大きくなっていたのです。
なんてこと。わたくしの勘違い。
まだまだそそっかしくて、まったく。なかなか落ち着けないものですね。
もう百年も生きたと言うのに、あなたさまに嗜められた頃から、ちっとも治る兆しを見せなくて。
黄泉路を間違えてしまったのも、そのせいかしらなんて、さっきまでちょっぴり落ち込んでいたのですよ?
わたくし、大きな怪獣ちゃんになっておりました。
火吹竜と言うのですって。
わたくしがいる国はシシリと言うのだと、二人が教えてくれました。
とてもとても寒い国。昼も夜もしんしんと冷えて、でもね、美しい国なのです。
びいどろのような氷が、木の枝にいっぱいついていて。
月の明るい夜は、それはそれは、ほんとうに妖精の国のようにキラキラ、キラキラと宝石のように輝いて。
そうそう、わたくしにご挨拶してくれた二人のこと。
なんでも王様と、乳母様なのですって。
王様がラタちゃん。王様だから、ちゃんはだめよね。ラタさま。
雪のように白い髪と、夜のように黒い目を持つ、とってもおかわいらしい男の子。
そして、ラタさまと一緒にいらっしゃるのがネーヴェさん。
ネーヴェさんとラタさまは、きっと、わたくしの孫ぐらいの年だと思うわ。
わたくし、とてもとても強い怪獣ちゃんになったみたいで、ちっとも寒くありませんの。
だから、ラタさま達と最初に会った塔のあたりを、寝床に使わせていただく事にして。
この国はとっても大変そう。だけど、争いはもう嫌ですから。
ラタさま達には悪いけど、他の方法を考えようと思っていて。
ねえ、あなたさま?
おそばにゆくのは、もうちょっと遅くなりますけど、ゆっくり待っていてくださいね?
おみやげ話、たくさん、たくさん作っておきますから。