拝啓、あなたさま
聞いてくださいませ、あなたさま!
ああもう、いったい何からお話すれば。
わたくしね、ネーヴェさんにお願いして、氷の石をもってきていただきましたの。
石を、ほかの石でこすって粉にしましてね。
その粉で、そうっと器を包んでみたのです。
器は、シシリのみなさんが、ひとつずつ作ってくださった素焼きの器。
石の粉に埋もれた器たちは、ふうわり、やわらかなお布団で眠っているようでした。
それを岩でぐるりと囲んで、そろり、そろりと火をかけたのです。
器が真っ赤になりましてね。粉がすうっと溶けましてね。
火を止めて、すぐに掘り返そうとしたら、ネーヴェさんに叱られてしまいました。
急に冷やしたら割れてしまいますって。
言われて、はっと我にかえりましたわ。
それでもね、うれしくてうれしくて……。
冷めるのが待ち遠しくて、こっそり何度か見に行ってしまいました。
ふふ、この事は内緒ですよ?
でもね、本当に気が気じゃなかったの。
こんなに胸が高鳴ったのは久しぶり!
まるで、あなたさまが、わたくしを迎えに来てくださったあの日のよう。
それはそれは一日が長くて、何回、門までこっそり見に行ったことか!
いよいよ、あなたさまがいらした時、澄ました顔でいるのは大変だったのですよ?
だって、抱きついたら、はしたない娘だと思われたでしょう?
本当はね、泣きたいぐらい嬉しかったんですから。
あなたさまったら、いつも難しいお顔をなさっていたから。
わたくしなんて、目に入っていないんじゃないかって、ずうっと思っていて……。
そうそう、それでね、器のこと。
転げていないかしらとか、いろいろ心配だったのですけれどね。
そろりそろりと灰をどけたら、ちゃあんと、お行儀よく並んでおりました。
割れもなく、焼きむら…は、そりゃあ、ちょっとはありましたけども。
素焼きの器が、うっすら、艶でお化粧されておりました。
あなたさまからいただいた器に、ずいぶんと似ておりましてね。
もう、何と申し上げたらいいのやら……
たっぷり、一日は見つめていた気がいたします。
…ねえ、あなたさま?
明後日はいよいよ、お祭りの日。
あなたさまも、お空から見ていてくださいね。




