拝啓、あなたさま
ねえ、あなたさま。浄土は晴れていらっしゃる?
わたくしね、ディラノさんと、アニアちゃんに会いましたの。
アニアちゃんは、元気な元気なお嬢さま。鮮やかな衣がね、良くお似合いなのですよ。
シシリのみなさまはね、刺繍がとてもお上手で。
家に来たお子様に、得意な動物をひとつ縫って差し上げる風習があるのですって。
ですからお子様はみな、好きな動物を縫って下さる方の家の戸を叩くのです。
素敵じゃありませんこと?
衣を見れば、どんな性格なのか、どの家によく訪れているか、ひとめで分かるんですもの。
どこに行っていたの、なんて聞かなくても良いのですよ。
覚えていらっしゃます?
あなたさまと二人で、迷子のちい兄を探したこと。
いつも難しい顔をしているあなたさまが、あの時ばかりは、泣きそうな顔をなさっていて。
驚いて、それで、あなたさまの妻で良かったと……本当に。
今なら、それを打ち明けても聞いて下さるかしら?
それとも、あの時みたいに顔を真っ赤にして、みなまで聞かずに引っ込んでしまわれる?
そうそう、それでね。
ディラノさんったら、わたくしのお願いを聞いてくだすった後に、戻って来られましてね。
あなたさまみたいに、真っ赤な顔をして怒ったのですよ。
甘すぎる、殺されたらどうするのか、って。
ありがたいこと。
大きなわたくしを、そこまで心配してくださるなんて。
わたくし、大丈夫ですのにね。いずれお迎えが来ること、とうに納得していたのですし。
あら…まあ。
これは、笛の音ですか?
ふふ、楽器は好かん、と仰られたのに。
ずいぶんと、風変わりな音を奏でられますのね……。




