拝啓、あなたさま
拝啓、あなたさま。
あなたさまが赤紙を受け取り、お国のために星となってから、たくさんの季節が巡りました。
ほんとうに、月日が経つのは早いこと。
勇ましいあなたさまによりそって、散る桜に胸を焦がしたのが、つい昨日の事のように思えますのに。
ねえ、信じていただけます?
あのお転婆娘がね、もうすっかり、皺だらけのおばあちゃんになりましたのよ。
あなたさまが褒めてくだすった黒髪も真っ白になって、まるで、お空に浮かぶ雲のよう。
晩年、赤いちゃんちゃんこも着せていただいて、たくさんの孫に囲まれて。
ほんとうに、ほんとうにしあわせでしたのよ。
ねえ、あなたさま。
お空から、見守ってくださっておりますか?
びい29がごうごうと唸る焼け野原を、あなたさまの軍刀を抱きしめて、逃げて。
それを質に入れるのに、どれだけ勇気が必要だったことか!
代わりに手に入ったお米は、涙が出るほどおいしゅうございました。
あなたさまから頂いた命だと、ひとつぶひとつぶ、祈りながら食べましたもの。
おかげで、こんな年まで、病一つなく生きられました。
そろそろ、あなたさまに会いにゆきますね。
おみやげ話が、たくさん、たくさんありますのよ。
何からお話ししたら良いのか迷っているぐらい。
信じられます?
あなたさまが命をかけて守った国は、もう、泥水をすすらなくても暮らしてゆけるのです。
焼け野原は立派な町になって、防空壕もありませんの。
ふふ、なんだかぼんやりとしてまいりました。
あなたさまの妻、タエ、今からおそばに参ります……。