真実
母親に会いたがる氷魚。しかし、彼女の前に、冷たい真実の壁が立ちはだかる…!?
うち拉がれた氷魚は、倒れてしまった。
「これでよし、と」
瑪瑙は、氷魚の手首に巻いた、包帯を結んで言った。
「ありがと…瑪瑙、あたし」
「ん?」
「なんでもない…話して?」
静かに頷いて、瑪瑙は話し始めた。
「師匠…お前の母さんは、俺と柘榴の、剣の師匠だった。父親の方の話は分からねぇが、とにっかく気が強くてな、俺たちは叱られてばっかだったよ」
「あたしに、似てる?」
「似てる、髪の色も、性格もそっくりだ」
「ねえ、今はどこにいるの?会いたいなぁ」
「そうか…そう、だよな」ふ…と、瑪瑙は、宙を見あげた。
「え?」
「いや、また明日な…今日は、もう休もうぜ?」
瑪瑙は、そっと氷魚を抱き寄せた。
「瑪瑙…まだ、起きてる?」
もぞもぞ、と寝返りを打ち、氷魚は、そっと話しかけた。
「どうした、眠れねぇのか?」
「うん、なんか…目が冴えちゃって」
余程、母親に会いたいんだろう、興奮ぎみに言う彼女を、瑪瑙は、悲しませたくはなかった。
「ごめん…」
「どうしたの?瑪瑙?」
「ごめんな、ごめん…」
瑪瑙は、ただ、氷魚を抱き締めることしかできなかった。
真実を知れば、彼女が悲しむのは、目に見えている。
できるなら、なにも、知らせたくはなかった。
「苦しいよ、瑪瑙」
「氷魚…っ」
朝焼けが、地平を赤く染めていく…
夜が、明ける。
「氷魚、ホントに…会いたいのか?」
躊躇いながら、瑪瑙は聞いた。
「うん、どうして?」
「わかった…ついてこい」
「う、うん…」
朝焼けの道を、二人は、さらに村の奥に向かって歩き出した。
「なんか、寂しい所ね、ねぇ、瑪瑙」
「ああ…」
「ねえ、どうしたの?」
怪訝そうに、氷魚は首を傾げる。
「ついた、ここだよ」
氷魚は、その光景に、絶句した。
「ここ…お墓」
森の奥深く、下草が刈られ、よく手入れされた、墓地が広がっていた。
「こっちだ、氷魚」
墓石の脇を通って、瑪瑙は進んでいく。
瑪瑙は、氷魚を振り返って、足を止めた。
「ここが、柘榴の墓だよ」
「刀だけの墓?この二つだけ。…ね、まさか、まさか隣の墓って!?」
「すまない、氷魚…すまないっ」
「お母さん、なの?」
「刀と、片腕しか戻ってこなかったんだ」
「そ…そんな、どうして…どうしてこんなっ!ひどい、ひどいよっ」
「氷魚ッ!」
傾いだ氷魚を、瑪瑙は慌てて抱き留める。
「しっかりしろ、氷魚っ、氷魚っ!?」
瑪瑙は、氷魚を抱えて、必死に村へと走った。